検察出身者「偏重人事」と「捜査万能主義」が招く結果
尹錫悦（ユン・ソクヨル）大統領は「適材適所で有能な人物を使う」というのが人事の原則だと述べていた。この話には二つのことが省略さていれた。一つは「検察の中で」。もう一つは「自分と親しい人物の中で」。
「検捜完天」（検事と捜査官の完全な天下）だ。これほどまでになると、教育不正の捜査をしたことのある検事に教育部を、医療訴訟の経験のある検事に保健福祉部を任せたくなるのではないか。驚くべきことではない。法務部長官はグローバル司法行政を行うだけの「流暢な英語の実力」を備えているし、金融監督院長は公認会計士の資格を持ち、金融犯罪の捜査を多く行っている人物なのだから。
記者たちが人事の検察偏重を指摘すると、大統領は「過去には民弁出身者一色だったこともあるではないか」と語った。前政権もそうだったのだから、自分もそうしても良いではないかという身勝手な態度だ。もっともらしく理由を説明する誠意すらない。
何とお手軽でお粗末なことか。外国メディアの記者に男性偏重を「グローバルに」指摘されたり、ある参謀の言葉に「ハッとした」と言ったりしたと思ったら、その直後に断行した長官・次官級人事ではいずれも女性を指名した。苦言を胸に刻んだように見えたものの、急いだせいで副作用がすぐに現れた。泥酔運転に論文「自己盗作」までした教育部長官候補と、官舎財テクをしたり政治資金で車を修理したりと「自己福祉」に邁進してきた保健福祉部長官候補とは。道徳性に対する批判で落馬した人物の後任だったわけだから、さらにあきれる。いったい検証は行ったのか。
就任から1カ月が経っても国政の中心が何なのかがしっくり来ない。政策もでたらめだ。女性家族部の廃止や兵士の月給200万ウォンなどの主要公約を破棄しておきながら、特別な説明もない。検察出身者ばかりを据えておいて、それがすなわち法治だと言い張る。「米国のような先進国を見れば、ガバメント・アターニー（政府側の法律家）としての経験のある人々が政官界に幅広く進出している」とし「それが法治国家」だと述べた。「法をよく知っている」検察出身者が一糸乱れず働いたとしよう。今の時代に、何であれ「法に則って」やればすべて解決できるのか。直面している北朝鮮の7回目の核実験の危機や貨物連帯のストはどうなのだ。できる限り広く深く気を配るべき「統治」が、悪い奴らを洗い出して捕らえる「捜査万能主義」に取って代わる時、果たしていかなる結果を見ることになろうか。
出勤途中にドアの前に立って記者たちの問いに答える様子からも、分け隔てのない気さくさというより、精製されていない粗さの方が目につく。大統領室の関係者が、公正取引委員長の候補群から特定の人物が除外されたと述べ、検察偏重人事という世論を考慮したと防御を張ったにもかかわらず、大統領は翌日の出勤時の囲み取材で「全く違う」と否定した。検察出身の人物を除外していないということなのか、除外したものの批判を考慮したわけではないということなのかも明らかではない。大統領室の関係者は頻繁に尻ぬぐいをしなければならず、大統領の一部の発言は「翻訳機」にかけねばならない。このように気軽に吐き出される言葉に何の意味があろう。どうかこれを「意思疎通」などと思わないよう願う。
百歩譲って、これが彼のスタイルだとしよう。几帳面で繊細で慎重だからといって国政をうまく導いていけるという保障もないわけだから。天運も国運もあるものだから。では、最小限の「愛民精神」は持っているのか。持っているふりくらいはしているのか。首をかしげざるを得ない。慶尚南道梁山市平山村（ヤンサンシ・ピョンサンマウル））の文在寅（ムン・ジェイン）前大統領の私邸前で罵詈雑言を浴びせるユーチューバーのデモ隊についても、ただ「法に則って」と言うばかり。「感性」がとにかく「おやじ」だから鈍感だと考えてもすっきりしない。度量が狭い。近隣に住む高齢の住民たちが苦しんでいるのに、気にも留めない。
大統領になるのが目的であって、大統領になって何かをするという考えはなかった人物が、大きすぎる権力を持ってしまった。そのうえ「法に則れば」前政権に比べて自身は「善良だ」という比較優位に捕らわれている。世の中に「善良な権力」はない。多様な人々が集っても自ら警戒しなければ危険なのに、このように同類の統治集団を組織しておきながら、特別な警戒心も緊張感もないとは。果てはうまくやれると信じているとは。
人々がこれらすべてに文句を言わないのは、期待が大きいからではない。我慢強いからだ。
訳D.K
