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[コラム]財閥の自由、尹錫悦の自由

登録:2022-06-08 02:16 修正:2022-06-08 09:13
欧州出張の途につくサムスン電子のイ・ジェヨン副会長が7日、ソウル江西区のソウル金浦ビジネス航空センターから出国するところ。財界は最近、イ副会長が経営活動に不便を強いられているとして同氏の赦免を求めている/聯合ニュース

 新世界(シンセゲ)のチョン・ヨンジン副会長は率直で実によい。ほとんどの財閥オーナー一家の人たちは自分の考えを表に出さないが、彼は違う。SNSに自分の考えをはばかることなく吐き出す。財界担当だった記者初年、彼のSNSは財閥の断面を垣間見られる窓でもあった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の当選後、財閥の考えが気になっていたのだが、彼は今回も期待を裏切らなかった。就任式に招待された彼のインスタグラムには、青い空を背景に尹大統領が就任演説を行う写真とともに、このような書き込みがあった。「自由!自由!自由!虹!!」 。尹大統領が就任演説で実に35回も言及した「自由」という単語に感銘を受けたようだった。地方選挙の結果が出た2日には、少し挑発的な書き込みがあった。「野球に勝つには本当にいい日だ!必勝! #め……つ」 。コメントに彼の「滅共(共産主義を滅ぼす)」発言を崇める文章があふれているのを見ると、ハッシュタグが「滅共」を意味することは明らかだった。「政権が変わったので思う存分#滅共してください。副会長」というコメントも目立った。今年初め、相次ぐ滅共発言で会社の株価までもが急落したことから、チョン会長はもう滅共発言はしないと誓ったはずだった。保守与党の勝利に喜びを抑えられなかったのだろうか。

 先月25日には、突然4つの財閥グループが、示し合わせたかのように大規模な投資計画を発表した。このような発表は通常、大統領と財閥オーナーの会合がある時でないと発表されない。そのようなイベントもなく、マスコミにも事前公示がなかったため戸惑った。サムスンは5年間で450兆ウォン(約47兆5000億円)を投資し、8万人を雇用すると語った。投資の背景を「先制的投資と差別化された技術力、新たな市場の創出により『半導体超大国』の達成を主導し、国の経済発展に寄与するもの」と説明したが、疑問を解くには足りなかった。数日のあいだに新たに10あまりの財閥と大企業も後に続いた。保守政権が発足したことで、突然ジョン・メイナード・ケインズの語った企業家の「野性的衝動」が旺盛に蘇ったのだろうか。そうであってほしい。もちろんファクトチェックが必要だ。過去の政権でも諸財閥はこのような計画を打ち出した。以前の発表からどれだけ増えているのか確かめてみなければならない。サムスンについては、数字にあまり惑わされる必要はない。2年前の発表より、年間で計算すれば投資は10兆ウォン(約1兆600億円)、雇用は2667人増えただけだ。いずれにせよ若者の雇用が厳しいこのご時世に、国内投資と雇用を増やすというのだから、良いことだ。これに文句をつけては世間知らず扱いされてしまう。

 この疑問は、2日のチュ・ギョンホ経済副首相と経済6団体の会長たちとの会合で解けた。韓国経営者総協会(経総)のソン・ギョンシク会長が「厳しい環境にもかかわらず攻撃的投資に取り組んでいる企業家のチャレンジ精神は、高く評価されるべき」だとし、「企業家たちが世界市場でより活発に活躍できるよう、現在は海外との出入国に制約を受けるなど企業活動に不便を強いられているイ・ジェヨン副会長やシン・ドンビン会長のような企業家の赦免も積極的に検討してほしい」と要請したのだ。法人税と相続税の引き下げと、週52時間制と重大災害処罰法の改善も、会長たちの要求目録に入っていた。ああ、これだったのか! 予想できなかったわけではないが、改めて財閥の瞬発力と執拗さに驚いた。特に財閥オーナー赦免の件は、わずか1カ月前に文在寅(ムン・ジェイン)大統領に要請したものの断られた事案だ。文大統領も検討したが、大儀名分が見出せなかったのだ。今や「財閥の世界」がはじまったと思ったのだろうか。金で得られないものはないと考えたのだろうか。

 公正と常識、法治をとりわけ強調してきた尹大統領は、はたして彼らの要求をどのように受け止めるのかが興味深い。尹大統領の語った自由は、誰のための自由なのか。彼は就任演説であたかも「自由と市場」が韓国社会の難題を解決してくれる万能薬であるかのように語った。彼は行き過ぎた両極化と社会対立を重要な問題だと指摘しつつ、「飛躍と速い成長を成し遂げなければ解決は難しい」とも述べた。経営活動の足を引っ張っていると財閥が考える「足かせ」を解いてこそ、経済が成長し両極化も緩和されるという、古びた「トリクルダウン理論」の影がちらつく。

 ドイツの著名な思想家マックス・ウェーバーはかつて、社会の不平等は経済的富、社会的威信、政治権力の有無に起因すると喝破した。その中でも経済的富の格差こそ核心だ。巨大な富を持つ人々は政治権力と威信すらも金で買うことが日常茶飯事なのだから、答えは決まっているのかも知れない。ただ、一つだけ忘れないようにしよう。それでも市民の尊敬と心まで買うことはできないのだということを。

//ハンギョレ新聞社

パク・ヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1046066.html韓国語原文入力:2022-06-07 18:11
訳D.K

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