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[寄稿]尹錫悦政権の「実用主義的」外交政策のための提言

登録:2022-04-04 07:33 修正:2022-04-04 10:03
大統領は国家安全保障と平和構築の最後の砦だ。それほど望まなかったイラク派兵を最終承認した盧武鉉大統領、韓日関係の国内政治的敏感性に悩まされた李明博大統領、南北関係を重視しながらも最後の瞬間まで韓米協力に力を注いだ文在寅大統領の苦悩は同じであったはずだ

ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長
北朝鮮は金正恩国務委員長の指導の下、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17型」の発射実験に踏み切ったと、「朝鮮中央通信」が先月25日付で報じた/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 朝鮮半島に三角の波が押し寄せている。北朝鮮が2018年以降維持してきたモラトリアムを破り、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を筆頭に攻勢を強めている。ウクライナ事態は依然として予測不可能だ。韓国に直接軍事的脅威を加えるわけではないが、地政学的かつ地経学的波紋は小さくないだろう。新冷戦構図に突き進む米中関係も、大きな負担にならざるを得ない。5月10日に発足する尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権には、このような三角の波を賢明に管理し、戦争を予防すると共に、朝鮮半島の非核化と平和を実現しなければならない高度の複合課題がある。これに関し、いくつかの提言をしたい。

 まず公約に対する執着を警戒してほしい。トム・フォーリー元米下院議長は選挙公約に関して次のように忠告した。「選挙時に公約を乱発するのは、許され得る軽い罪だ。しかしそれを何が何でも実行しようとするのは、決して許されない大罪だ」。選挙過程で提示した少なからぬ公約は、政権獲得後に現実的制約に直面するものだ。妥協と合意を特徴とする民主主義体制ではなおさらだ。これを無視してすべての公約を実行に移すことにこだわると、悪影響と国論の分裂は避けられない。

 一般の公共政策と違い、外交・安全保障政策は相手がおり、内外から強力な挑戦と制約を受けやすい。尹次期大統領が言及した北朝鮮に対する先制攻撃論が代表的な事例だ。これを中心に置く北朝鮮政策と軍事教理が過度に強調された場合、北朝鮮側も攻勢的な戦力構造と教理で対抗する可能性が高い。双方がいずれも大規模な先制攻撃と戦争拡大も辞さないことを基盤に、有事の際の対応方向を固着化すれば、朝鮮半島の戦略的安定はむしろ大きく損なわれる恐れがある。米国など周辺国がこの問題に憂慮を示しているのも、同じ理由からであろう。

 THAAD(高高度防衛ミサイル)の追加配備も同じだ。北朝鮮の弾道ミサイル戦力に迎撃能力の強化で対応するのは、一見合理的だが、現実はより複雑だ。中国の対応は軍事的領域にまで及び、相当なレベルの経済報復に対する対策づくりも容易ではないだろう。2017年の事例からも分かるように、この過程で生計を脅かされる小規模事業者や一般市民らの反発も少なくないだろう。同じ脈絡で韓米日3カ国の安全保障協力もやはり両刃の剣になり得る。北朝鮮側がさらなるICBMの発射実験や7回目の核実験に踏み切った場合、東海(トンヘ)や西海(ソヘ)など朝鮮半島領域内で3カ国の合同軍事演習が公論化されるかもしれないが、現在の一般的な国民感情を考えれば、これも国内政治的な揮発性が高い。2012年のGSOMIA(韓日軍事情報包括保護協定)の密室締結を反面教師にしなければならない。

 このような点で、最近、尹次期大統領が国益と実用主義を強調したことは鼓舞されることだ。外交・安全保障政策においてこれは金科玉条といえる。国益が一国の目的指向性を規定するものなら、実用主義は懸案に対する解決策を提示するものだ。実用主義の核心は、事実をもとに真理を探求し、解決策を模索する「実事求是」にある。しかし、尹次期大統領の大統領選挙期間の公約からは、このような態度はなかなか見当たらない。例えば「先に北朝鮮が非核化を行うべき」という主張がそうだ。北朝鮮はすでに核施設や核物質、核弾頭を保有しているだけでなく、ICBMを含む多様な運搬手段を確保している。制裁と圧力に基づいて「先解体」を主張するだけで、北朝鮮側がこれを放棄すると期待するのは現実性がない。このような現実を直視しながら精巧な代案を用意していく必要がある。

 北朝鮮核問題の解決や朝鮮半島の安全保障のためにも、米国との協力は欠かせない。しかし、両国の国益がすべての事案で完璧に一致することはあり得ない。たとえ鉄壁の同盟だとしても、米国の政策だからといって常に正しいわけではない。これを十分に考えることもなく受け入れることが繰り返されれば、予期せぬ影響に直面しかねない。前政権の政策だからといって、何が何でも排斥するのは賢明な処置ではない。文在寅(ムン・ジェイン)政権の朝鮮半島平和プロセスが成功しなかったと思ったとしても、その原因を細かく分析し、教訓を取捨選択する知恵と勇気が必要だ。

 大統領は国家安保と平和構築の最後の砦だ。大統領職の絶対命題は、危険を最小限に抑えながら国益を極大化することだ。5千万人の生命と財産を守る責務を負う最高指導者には、即興的冒険主義や極端な一方主義は許されない。それほど望まなかったイラク派兵を最終承認した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領、韓日関係の国内政治的敏感性に悩まされた李明博(イ・ミョンバク)大統領、南北関係を重視しながらも最後の瞬間まで韓米協力に力を注いだ文在寅大統領の苦悩は同じであったはずだ。前任者たちが抱えていた構造的制約が、尹次期大統領にとっても例外ではないことを忘れずにいてほしい。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1037315.html韓国語原文入力:2022-04-04 02:31
訳H.J

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