ある日突然現れた新型コロナウイルスも、もうすぐ3年目を迎える。コロナ克服を最優先目標にしてきた世界は、今やコロナに合わせた世界へと変わろうとしている。人々の歩みを縛りつけたコロナは、未来のデジタル技術をあっという間に私たちの目の前にもたらした。新年には、メタバースがデジタル世界の最も熱い激戦場の一つになる見通しだ。会社名を「メタ」に変更したフェイスブックのザッカーバーグは、実に抜け目なく利口に思える。
科学技術は今や、どんな目標と価値を立てるかに合わせて世の中を変えていけるほど精巧になったといってもいいのだろうか。メタバースのほかにも、多くの新技術が新年のうごめきを模索するだろう。
まず、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン技術が目を引く。mRNAとは、細胞に特定のたんぱく質を作る指針を伝える遺伝物質だ。人体の細胞を薬物工場に使うため、すばやく病気に対応できる。おかげで人類は1年も経たないうちにコロナワクチンを接種することができた。
この技術の原理はあらゆる種類の感染症に適用できる。この技術を利用したヒト免疫不全ウイルス(HIV)ワクチンがすでに臨床試験に入った。新年にはマラリアワクチンが臨床試験に入る。すべてのインフルエンザに通じる汎用ワクチンも開発中だ。ヘルペスやデング熱、ガン疾患の治療にも適用する研究が進められている。
培養肉も注意深く見る必要がある。培養肉は、家畜を飼育せず動物細胞を培養して肉を得る技術だ。米国では最近、培養肉工場が初めて建てられた。新年に食品承認が出れば市販することができる。イスラエルには培養肉ステーキを準備している企業がある。カタールには培養肉チキン工場が造られる。培養肉は、環境、健康、動物倫理といった名分の他に、植物肉にはない本物の肉成分を含んでいるという長所がある。細胞を培養して肉を食べる世界とは、実に見慣れない風景だ。
立体(3D)プリンティングは、材料の無駄のない個別対応型生産が可能で、製造業の革命を起こす潜在力として注目されたが、これまでは期待に及ばなかった。速くて安い立体プリンティング住宅が突破口に浮上している。新春には、米カリフォルニア州に15世帯の団地が建設される。テキサスでは100世帯の団地が造成される。メキシコでは、住宅のない庶民のための団地建設が盛んに行われている。
太陽地球工学も欠かせない。大気を人為的に変えて地球の気温を冷ます技術だ。地球冷却効果への期待と大気の流れのかく乱への懸念を同時に受ける、物議をかもす技術だ。ハーバード大学の科学者らは大気中に炭酸カルシウム粒子を撒き、その効果を調べる実験を準備している。
5年前、世界経済フォーラムで「第4次産業革命」という課題を投げかけたクラウス・シュワブは、その核心をデジタル、物理、生命科学の融合だと説明した。ここで取り上げた5つの技術も、この範疇に属する。しかし、内容を掘り下げてみると革命とは言いがたい機運が感知される。mRNA技術に向けた熱狂の裏には、頻発する人獣共通伝染病に対する恐怖が潜んでいる。立体プリンティング住宅に注がれる関心の向こうには、「不平等の深化」という不都合な真実がある。70社余りが飛び込んだ培養肉のブームは、気候危機意識に火をつけた。太陽地球工学の実験では、行き詰まりの不安が垣間見える。新しい機会の空間として注目を集めているメタバースでも、今後は物質消費を減らす価値が浮上する可能性がある。
革新の技術から、ユートピアへの熱望よりも生存の危機の切迫感がより濃く感じられる理由は何だろうか。開発文明の副産物が積み重なり、人類の行く末を阻むほど膨らんだという兆候だろうか。程度はともかく、人類はその解決策も科学技術に求めている。業(ごう)であり、運命だ。その力で再び平穏を取り戻すことができるならば、その時の日常は今とはだいぶ違うだろう。