本文に移動
全体  > 文化

月に落ちた「最強生物」クマムシは生き延びたか…英科学者らが実験

登録:2021-05-27 11:09 修正:2021-05-29 08:41
極低温・高温、放射線にも生き残り 
2年前に探査機に載せられて月に墜落 
墜落速度、衝突を再現実験した結果 
「衝突の圧力によって砕けた」と推定
地球最強の生命力を持つ動物として評価されるクマムシ=ウィキメディア・コモンズ//ハンギョレ新聞社

 2019年4月、月に着陸しようとして墜落したイスラエルの無人月探査機「ベレシート(Beresheet)」には、クマムシという小さな生命体数千匹が載せられていた。

 長さ1ミリ足らずの小さな体に足が8本のこの動物は、湿ったところで生息する無脊椎緩歩動物(ゆっくり動く動物)であり、地球上で最も生命力の強い動物といわれている。

 凍らせても、煮ても、飢えさせても、そして致命的な放射線を受けても死なない地球最強の生命力を誇る。これまでの研究によると、食べ物や水がなくても最長30年間生きることができ、最低氷点下272度、最高150度の極限気温、深海底の6倍の圧力でも生き残ることができる。顕微鏡で調べなければならないほどの小ささだが、寿命も60年以上にもなる。2007年9月に実施した欧州宇宙局のある実験では、地球の低軌道(高度258~281キロメートル)の放射線環境で10日間過ごした後に帰ってきたクマムシの一部が生きていることが確認された。

 月に送られる当時、クマムシは水分が除去され、すべての代謝過程を止め、深い冬眠状態にあった。科学者たちは、このような状態で10年を過ごしたクマムシを生き返らせた経験がある。

イスラエルの無人月探査機ベレシートが墜落直前に高度22キロメートル地点で撮った月面写真=スペースイル提供//ハンギョレ新聞社

 クマムシが月へ行った事実は、墜落から4カ月後、この事業を推進した米国のある財団の関係者がメディアのインタビューを通じて公開したことで明らかになった。秘密裏に生命体を持ち出したという事実が知られると、月の汚染問題とともに生命倫理を巡る論争も起きた。

 当時、この関係者は「探査機は墜落したが、クマムシは生きているはず」と述べた。クマムシの強靭な生命力を念頭に置いた発言だった。ベレシートは高度7キロ地点でエンジン異常で墜落した。

実験前のクマムシ(aとb)と秒速728メートルで発射したクマムシ(c)、秒速901メートルで発射したクマムシ(d)。dのクマムシは体が砕けたことが分かる=ジャーナル「アストロバイオロジー」より//ハンギョレ新聞社

_______
実験の結果、墜落スピードは1秒当たり900メートルが限界値

月に墜落したクマムシは、彼の言う通り途方もない墜落の衝撃に耐えて生き残ったのだろうか。

 好奇心が湧いた英ケント大学の科学者たちが最近、疑問を解くための実験を行い、その結果を国際学術誌「アストロバイオロジー」(宇宙生物学)に発表した。科学者たちはまず、実験に使うクマムシ20匹を確保した。その後、実際にベレシートに載せていたクマムシと同じようにクマムシに餌(苔と水)を与えてから、48時間凍らせて冬眠状態にした。この状態では普段の0.1%水準のエネルギーだけでも生命を維持できる。

 続いて研究チームは、冬眠状態のクマムシを2~4匹ずつ中空のナイロン弾に入れ、実験用ガス銃で1秒当たり556メートル~1キロの範囲で6種類の異なる速度で発射した。弾丸は数メートル離れた砂の山にめり込んだ.

 実験の結果、クマムシの生存限界は1秒当たり900メートル(時速3240キロメートル)、衝突圧力は1.14ギガパスカル(GPa)以下だった。それ以上ではクマムシはすべて砕けてしまった。1秒当たり728メートル(時速2621キロメートル)では100%、1秒当たり825メートル(時速2970キロメートル)では60%が生存した。

 研究チームは実験結果をもとに、クマムシは墜落から生き残ることはできなかったと推定した。ベレシートの墜落当時、速度は1秒当たり数百メートルだが、金属性の本体に入っており、月面にぶつかる衝突圧力は1.14GPaよりはるかにと高かったと彼らは予測した。研究チームは科学ジャーナル「サイエンス」に「クマムシは生き残れなかったと断言できる」と書いた。

 これより低い速度と衝撃を受けたクマムシは生き残るには成功したものの、冬眠状態から目を覚ますのにかかる時間がはるかに長かった。最大36時間がかかった。一般的な冬眠状態のクマムシの回復時間(8~9時間)の4~5倍長い。研究チームは「これはクマムシが墜落過程である程度内傷を負ったことを意味する」と明らかにした。研究チームは生き残ったクマムシが繁殖までできるかは確認できなかった。

今回の実験は、地球生命体の起源は地球に衝突した小惑星や隕石にあるとする宇宙汎種説にも示唆を与える=ウィキメディア・コモンズ//ハンギョレ新聞社

_______
生命の起源「宇宙汎種説」は成立するか

 今回の実験結果は、クマムシが生存したかとは別に、地球生命起源論の一つであるパンスペルミア説(panspermia hypothesis、宇宙汎種説)に関しても示唆を与える。

 宇宙汎種説とは、生命が地球上の無機物から自ら進化したのではなく、外界の隕石などに付着したDNAを持つバクテリア類の有機体から発生したという理論だ。今回の研究は、宇宙汎種説の成立は難しいが不可能ではないことを示していると、研究チームは説明した。

 研究チームによると、地球に墜落する小惑星や隕石の速度は1秒当たり11キロメートル以上だ。これは、クマムシの生存限界値をはるかに上回る速度だ。しかし、全体的には生存限界値を超えても、そのうちの一部は衝撃が弱く、生き残ることができると研究チームは説明した。

 また、もし地球に衝突した小惑星の岩石と残骸が跳ね返って月に突進した場合には、その物体の月への衝突速度はより遅くなるはずだ。研究チームは、この物質の約40%はクマムシの生存できる速度の範囲内で月に到着すると推定した。理論的にはクマムシが地球から月に移動していく可能性もあるという話だ。

 火星とその衛星のフォボスの間でもこのようなことが起こり得る。クマムシよりさらに速い1秒当たり5キロメートルの衝突でも生き残る生物もいるという点を考慮すれば、宇宙汎種説の可能性はさらに高くなる。

クマムシの衝突実験で、地球の生命の起源についての想像力がいっそう豊かになった。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/996699.html韓国語原文入力:2021-05-27 10:22
訳C.M

関連記事