31日に投票が行われた日本の衆議院選挙で、自民党は単独で国会を安定的に運営できる絶対安定多数の議席を獲得した。
今回の選挙の争点は、やはり新型コロナウイルスへの対応とともに、苦しい市民の生活を立て直すための経済政策だった。各党は、困難に陥っている市民の生活をどのように改善すべきかをめぐって、熱い論争を繰り広げた。2013年以降のアベノミクスの時期に景気がやや回復し、雇用も増えたものの、肝心の市民の生活は好転していないからだ。実質賃金はこの8年間のうち6年でマイナス成長を記録し、アベノミクス前よりも下がっている。また、コロナに対応して政府は国内総生産(GDP)の16.5%に達する財政拡張を実施したが、経済回復は遅く、総需要も停滞している。
こうした現実を背景に、最近自民党総裁に選出された岸田文雄首相は成長と分配の好循環を強調し、「新しい資本主義」を推進すると宣言した。下請け企業や医療、保育、介護部門の労働者の賃金を引き上げ、成長の果実がくまなく分配される社会を作るという構想だ。自民党は今回の選挙で、中間層を分厚くするとともに、労働所得分配率を高めるために、賃金を引き上げる企業に対しては税制上優遇することを公約した。
岸田首相はまた、地方税を含む所得税の最高税率が55%であるのに対し、株取引や利子から得られる金融所得は分離課税され、税率が20%と低いので、金融所得税を引き上げて不平等を改善するという計画を発表した。金融所得の割合が高い富裕層は、実際の所得に対する税金として計算される所得税の実効税率が、年間所得1億円までは高くなっていくが、1億円を超えると逆に低くなっていく。この「1億円の壁」に穴を開けるというのだ。このような分配を強調するという変化は、2016年以降の「アベノミクス」第2段階からのものであり、安倍政権も2019年以降、無償保育と無償教育、そして非正規労働者の生活改善に努めてきた。
一方、今回の選挙で野党第一党の立憲民主党は「分配なくして成長なし」とし、実質賃金の減少と増税で可処分所得が減少しているため、消費が停滞していると政府を批判した。同党は、年収1千万円までの期限付きの所得税減税や消費税減税、低所得層への年12万円の給付金支給を約束した。また医療、介護、育児、教育などの基本サービスの拡大、最低賃金の引き上げ、正規労働の拡大のための派遣法改正という公約を提示した。
特に野党は、アベノミクスの金融緩和によって企業の利潤は増加し続けたが、政府は消費税率を引き上げる一方、法人税は減税を繰り返したため、消費税の増税分は法人税減税による税収の減少の埋め合わせに注ぎ込まれているとして、批判を強めた。立憲民主党は、高所得者や大企業の実際の税負担が低いという現実を改革するため、所得税の最高税率を引き上げ、法人税にも累進税率を導入するという計画を示した。
国民は今回の選挙で再び自民党を選択したが、現実においてどれほど分配が改善されるかは見守らなければならない。岸田首相の金融所得税率引き上げ計画は、発表直後に株が下落するとともに、強い批判にさらされたことで後退してしまった。野党は候補一本化で対抗したが、結果は期待とは裏腹に失望させるものだった。真の変化のためには、やはり労働者の力の強化と市民の政治的圧力が必要だろう。しかし、所得の分配と賃金引き上げの問題が今回の選挙で争点になったということは注目に値する。
海を挟んだ韓国も大統領選挙が数カ月後に迫っている。韓国の民主主義と政治は、日本に比べて躍動的でレベルが高いとよく言われる。そのため日本は一党支配と社会・経済の停滞が続く一方で、韓国は政権が交代し、経済が良い成果をあげているのかもしれない。実際に、投票率と法と規制における利害当事者の参加程度で測る市民の政治参加指数も、先進国の中で日本は最も低く、韓国は最も高い水準だ。
しかし韓国のニュースを見ると、与党も野党もライバル候補の疑惑に対する攻撃に集中しているようだ。候補たちの代表的な公約は明確でなく、これをめぐる攻防もよく見えない。もちろん、議院内閣制の日本とは異なり、大統領を選ぶ韓国の選挙は、候補個人に対する検証も重要だろう。しかしより重要なのは、候補がどのように現在の問題を解決し、市民の暮らしを改善し、より良い未来を作っていくのか、ビジョンと公約で競争し、その過程で国民の意思を結集することだ。長くはない4カ月の間、熱く生産的な論争が見たいものだ。
イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )