アフガニスタンからの米国の撤退が完了する前にタリバンがカブールを掌握した。いくつかの現実が明らかになった。
一つ目は、米国との20年戦争の末にタリバンが勝利したこと。二つ目は、軍事力が劣勢なタリバンの勝利は、アフガニスタンの住民の多くが受動的ながらも支持したから可能だったこと。三つ目は、1979年のソ連の侵攻から続いている40年以上にわたるアフガニスタン戦争の収拾が、タリバンにかかっているということだ。
このような現実は、タリバンがアフガニスタンの住民の絶対的な支持を得ていることも、それが望ましいことも、意味しない。タリバンは、アフガニスタンの住民にとっては次善でさえなく、次悪にすぎない。タリバンという次悪の選択をしたのがアフガニスタンの現実だ。これを否定するのであれば、再び戦争という答えしかない。
アフガニスタンは40年以上の戦乱の中で、社会主義政権→ムジャヒディン臨時政権→タリバン政権→親米政権を経て、再びタリバン体制へと5回も体制が変わり、相互に殺しあう殺戮戦を続けてきた。今の混乱と懸念は、誰が政権を掌握したとしても、根本的には戦乱の影響に他ならない。2001年の米軍侵攻の際にタリバンを追放する過程で先頭に立った北部同盟の勢力が、マザリシャリフでタリバン戦闘員3000人ほどを集団虐殺したりした。
タリバンによるカブール陥落後に国際社会で最も議論になっているのは、女性の人権問題だ。アフガニスタンでの女性の受難は、逆説的にはタリバンが勢力を得ることになった問題だ。ソ連撤退後に軍閥が行った女性に対する性的暴行や拉致は、タリバン運動の主要な動機だった。創設者のオマル師が少女を性的暴行した軍閥指導者を処刑したことにより、タリバンの神話は始まった。住民がタリバンを選択せざるを得なかったのは、無法よりは悪法でも秩序を希求した状況に起因する。
タリバンは、アフガニスタン部族社会の伝統の村でイスラム法に従い紛争を仲栽していたイスラムの下位聖職者や神学生だった。タリバンの勢力獲得は、アフガニスタンの部族社会において、彼らの伝統的な自治だけでなくそれなりの司法体系を意味した。タリバンが極端に保守的なイスラムの律法を強制したのは、戦乱の無秩序に起因した極端な反動現象なのかもしれない。米国務省は当時の報告書に「タリバンは粗悪な形態の法と秩序を回復した。これは残忍な司法体系ではあるが、にもかかわらずガバナンスであった」と評価した。カナダの情報分析も、住民はタリバンの苛酷なシャリア法の強制を平和と安全の対価として受けいれたと指摘した。
25年前にタリバンがカブールに入城したとき、アフガニスタンはソ連との戦争に続く内戦で、すべてのインフラが破壊された社会だった。そのような条件でタリバンは、カセットテープと歯磨き粉の使用禁止のような反近代的な恐怖統治を実施した。その後、1世代以上が入れ替わったタリバンは、いまやカブールに入城しSNSを通じて宣伝と扇動を行っている。米国などが数兆ドルをつぎ込み再建したインフラに向いあっている。タリバンが女性の公職を容認すると明らかにしたのは単純なショーだとしても、彼らの変化した状況認識を反映している。
タリバンの原資料を収集した『タリバン読解』(The Taliban Reader)という記念碑的な研究資料を出版したフェリックス・キューン氏などの研究者らは、「2001年以後にタリバンが望んでいることを彼らが2001年以前に望んでいたことを基に推論すると、その運動と目的について極めて誤った見解に導くことになる」と述べ、タリバンは進化中の運動だと指摘した。
ベトナム戦争を終了させた1975年のサイゴン陥落後、ベトナムを脱出しようとする「ボートピープル」問題が発生した。ボートピープルの多くは華僑だった。終戦後にベトナムと中国との関係が悪化し、1979年の中越戦争にまでエスカレートすると、ベトナムで経済を握っていた華僑が大量に脱出した。強く糾弾すべき人道的悲劇であっても、この事態でベトナムからの米軍撤収と終戦の正当性は否定できない現実だった。ベトナム戦争が続いていたら、さらに大きな悲劇がもたらされただろう。
オバマ政権でアフガニスタン特使に任命され、タリバンとの平和交渉を推進したリチャード・ホルブルック氏は、「私たちはとんでもない国でとんでもない敵と戦っているようだ」と述べた。カブール空港から脱出しようとするアフガニスタン住民の阿鼻叫喚や、タリバンが20年前の政権掌握時に示した女性などのマイノリティに対する封建的な抑圧などに対する懸念は正当だ。しかし、すべての責任をタリバンに負わせ悪魔化し、バイデン大統領の撤退決定の正当性を否定し、再び「反タリバン武装闘争」を主張するのは、アフガニスタンから抜け出そうとしたり残ろうとする、誰の役に立たない。それは、戦争を再び起こそうという話だ。
今のアフガニスタンの住民に必要なのは、戦争の完全な終息だ。包容的な政府を構成し戦後再建に乗りだすよう、国際社会は支援を惜しまず関与しなければならない。タリバンを否定してはできないことだ。
チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )