1945年から1946年にかけて、ドイツのニュルンベルクで、ナチスの戦争犯罪に加担して起訴された24人に対する国際軍事裁判が行われた。この裁判は「同時通訳」という新しい職業が登場する契機となった。英語、フランス語、ロシア語、ドイツ語を駆使する40人あまりの通訳が投入された。米国人判事とドイツ人戦犯がコミュニケーションを取るには、同時通訳が必要だった。裁判後、本格的に養成されていった同時通訳は、今や人工知能(AI)によって雇用を脅かされている。AI通訳サービスが人間の通訳に追いつきつつあるからだ。
AIが雇用に及ぼす影響は国内外で関心を集めている。150万人以上が雇用されている電子商取引企業アマゾンは先月末、1万4千人にのぼる人員削減計画を発表したが、その背景にはAIがある。この発表以前にもアマゾンは、業務の自動化で2033年までに60万人の削減計画があることが報道されている(ニューヨーク・タイムズ)。ノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル(米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授)はニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、「米国最大の雇用主のひとつであるアマゾンは『雇用の創出者』ではなく、『雇用の破壊者』になるだろう」と懸念を表明している。
雇用減少の打撃をより強く受けるのは若年層だ。ウォール・ストリート・ジャーナルは今年7月、「マーケティング代理店の顧客はもはや新人採用を求めない。彼らが担っていた仕事はAIが『ホームラン』級に処理してしまう」との米国採用企業ハイアーウェルの幹部のコメントを伝えた。ハーバード大学の研究チームの分析によると、AI導入企業のジュニア職級の雇用は、2022年末のチャットGPTの登場から1年半の間に約9%減少(対未導入企業比)。韓国銀行も最近、この3年間で減少した若年層の21万1千人の雇用のうち20万8千人分がAIの脅威にさらされている業種だとする分析を発表している。コンピュータープログラミング、システム統合および管理業、出版業、専門サービス業、情報サービス業などだ。Eメールや文書の作成などの、熟練度の低く勤続年数の浅い社員が担当してきた反復的で定型化された業務で、採用が減らされているのだ。
危険度の高い雇用が必ずしもAIに代替されるわけではない。AIが人間を支援し効率を高める補完度が高い業務ほど、雇用減少のリスクは低下する。AI時代に合わせた教育訓練やセーフティーネットの強化が先制的に講じられるかもカギとなる。マイクロソフト(MS)は先月31日、AIを用いた業務のあり方の刷新によって、逆に人員を増やすとの方針を発表した。万が一にも、AIが景気の不確実性の盾となり、企業による雇用削減やキャリア組優先の名目として利用されては困る。