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[コラム]「ブースターショット」は人類を救えるだろうか

登録:2021-08-19 20:58 修正:2021-08-20 07:35
米食品医薬局(FDA)が12日、免疫機能が弱い人々に対する新型コロナワクチンの追加接種を承認した。各種のワクチン容器が並んで置かれている/ロイター・聯合ニュース

 今年4月、「ワクチンレース」の先頭グループにいた国々は「新型コロナ脱出」への期待が膨らんでいた。ワクチン接種が急速に進行され感染者数が顕著に減ったからだ。韓国のマスコミにも「ワクチン富国」の日常回復を伝える記事が相次いで掲載された。「ワクチンが取り戻した英国の日常…うらやましい」、「マスクを外して大規模な集い…英国・イスラエルの日常復帰実験」、「ワクチン強国の歓呼」…。

 しかし、その頃インドでは不幸の種が芽生えていた。3月中旬から感染者が急増したことがその前兆だった。4月に入ると一日の感染者が10万人に急増し、ついに新しい変異ウイルスの存在が確認された。今、全世界を席巻している「デルタ変異株」だ。当時も専門家たちからは、流行が深刻なところでは常に変異株が出てくる可能性があるため、一国で「コロナ終息」を宣言しても何の意味もないとの警告が相次いだが、ワクチン富国はシャンパンでの祝杯に余念がなかった。

 専門家らの警告が現実化するには、さほど長い時間はかからなかった。4月下旬以降は減少傾向に転じ、6月中旬には20~30万人台まで減った世界の一日当たり感染者数は、6月下旬から再び増加し始め、最近では60~70万人台前後になっている。米国・英国・イスラエルなどのワクチン富国も例外ではない。これに伴い、英国を除く多くの国々がマスク着用を再び義務化するなど、日常回復措置を再び延期している。

 もちろん流行の様相は以前とは大きな差がある。被害がワクチン未接種者に集中している点がそうだ。全国民の50%ほどが2回目の接種まで終えた米国の場合、感染者と死亡者の99%が未接種者だ。伝播力の強いデルタ変異株が、ワクチン未接種者を猛烈に襲っているわけだ。接種者でもたまにブレークスルー感染が発生しているが、今のところはワクチンが重症化や死亡の予防に大きな効果を発揮している。世界の「ワクチンレース」の現況を示す「ブルームバーグ・ワクチントラッカー」は、現在の流行の様相を「ワクチン未接種者のパンデミック」と表現した。ワクチン接種を受けていない人々が、いつにも増して危険に直面しているという話だ。「ワクチンとウイルスの死活を賭けた対決」が繰り広げられているとも表現した。

 こうした状況は、ワクチン格差の深刻性を改めて表わしている。ウイルスと戦う武器のない人々は対応無策にならざるをえないためだ。米国のニュースチャンネルであるCNNは最近、「他所では切迫した人々がワクチン不足で死んでいくが、裕福な国家は『ワクチン武器庫』に対する統制を強化している」と伝えた。実際、最近になってワクチン接種率が低いアフリカ・東南アジア・西太平洋地域では感染者と死亡者の増加傾向が激化している。国際統計サイトである「Our World in Data 」の集計によれば、人口に対するワクチン接種完了者の比率が60%を超える国が29カ国ある反面、19カ国では未だ1%にもならない。ワクチンを一度でも受けた人の比率が、北米と欧州では52%に達するが、アフリカでは4.3%水準だ。

今年6月、南アフリカ共和国の行政首都であるプレトリアで起きたワクチン供給拡大要求デモで、参加者たちが「私たちはワクチンを要求する」と書いたプラカードを持ち行進している/AFP・聯合ニュース

 デルタ変異株の拡散でワクチンの必要性が一層高まったが、それはワクチン不平等の緩和がしばらくはいっそう困難になるだろうということを意味する。ワクチン富国らが自国民への「ブースターショット」(追加接種)のためにワクチン倉庫をさらに厳重に閉じてしまうだろうからだ。テドロス・アダノム世界保健機関(WHO)事務局長が4日、マスコミへのブリーフィングで「世界で最も脆弱な人々も保護されていない状況で、すでに世界のワクチンの大半を使った国家が、ワクチンをさらに使うことは受け入れられない」とし、少なくとも9月末まではブースターショットを中断してほしいと求めたのはこうした理由からだ。9月末は、世界保健機関が今年5月に「すべての国で人口の少なくとも10%にワクチンを接種しよう」と訴え、その目標達成時点として提示した期限だ。

 彼の呼び掛けにもかかわらず、豊かな国々は「ワクチン国家主義」を放棄する意向が全くないように見える。あたかもパンデミックの「終点」が国境の中にあるとでも思っているように。イスラエルがすでに追加接種を始め、米国・英国・ドイツ・フランスなどは来月から接種を始める。自国民の接種が十分になされれば、残ったワクチンを寄付するという以前からの約束は空念仏になる可能性が高い。ワクチン不平等を解消する最も確実な方法は、ワクチンに関連する知的財産権を猶予して生産量を画期的に増やし、すべての国にワクチンへの公平な接近を保証することだが、豊かな国々は自国の製薬業者の利益最大化のためにこれにさえも反対している。

 しかし、全世界的な災難であるパンデミック状況で「各自生き残り」は根本的な解決法になりえない。アフリカをはじめ新型コロナが荒れ狂っている地域では、デルタよりさらに強い変異株が出てくる可能性はいくらでもある。新しい変異がその地域だけに留まる訳もない。ウイルスにとって国境は何の意味もない。英国の日刊紙ガーディアンは数日前、感染症専門家らの話を引用して「ワクチンを回避する新しい変異株の出現は現実的にありうる」として「新しい変異株がパンデミックとの戦争を1年前に戻すことがありうる」と警告した。「免疫は全世界的公共財」(昨年11月、G20首脳会議共同声明)という合意を今後も無視するならば、人類はしばらくの間、変異株にともなう再流行の反復という「シーシュポスの刑罰」を受けることになるかも知れない。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジョンギュ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1008299.html韓国語原文入力:2021-08-19 17:11
訳J.S

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