ユン・ソクヨル前検察総長が「日本の福島原発は崩壊せず、放射能流出はなかった」と主張した事実が遅れて明らかになった。ユン前総長は4日、「釜山日報」とのインタビューで、「釜山(プサン)・蔚山(ウルサン)・慶尚南道は世界的に原発の最大密集地域であり、原発拡大に対する懸念がある」との原発の安全に関する立場を聞く質問に対し、「私は(原発の)安全問題だけは科学と専門性に基づいて判断すべきだと思う」とし「日本でも福島原発が爆発したわけではない。地震と津波があって被害は大きかったが、原発自体が崩壊したわけではない。だから放射能流出は基本的になかった」と答えた。続けて「科学的に見て安全問題があるならば話す必要はない。だが、科学的に見て安全に問題がなければ過度にそうする必要があるのか」と付け加えた。
ユン前総長がこの発言の前後に科学的判断について言及したことを考慮すれば、福島原発は技術的に原発自体の欠陥によって爆発し放射能が流出したわけではないと主張し、原発の安全性を強調したものと受け止められる。事実関係の歪曲であるだけでなく、原発の安全問題に対して無知をあらわにした発言であることは間違いない。
まず、福島原発は爆発・崩壊しておらず放射能流出はなかったというユン前総長の主張は事実ではない。福島原発事故は、地震と津波によって非常電力装置が故障し、冷却水の供給が途絶え、原子炉の炉心が溶けて格納容器が破損し、大量の放射能が大気中に広がった事故だ。原発周辺だけでなく、首都東京まで大気と土壌を汚染させた。格納容器から下に流れ出た核物質は、地下水に混ざって海に流れ込んでいる。また、使用済み核燃料貯蔵庫から発生した水素が爆発し、格納建屋を破壊し、放射能を大量に流出させた。
その結果、近隣住民数万人が避難しなければならず、10年が経った今でも住民たちが帰って来られず、幽霊村として残っている所も少なくない。それだけではない。汚染水の放流問題で、韓国など周辺国の安全にも大きな負担を与えている。原子炉の溶融や原発爆発、放射能流出など、原発事故の危険性を最も克明に示す事例だ。しかし、爆発もなく放射能流出もなかったとは、一体何の根拠でこのような発言をしたのか理解できない。
「地震と津波があって被害が大きかっただけで、原発自体が崩壊したわけではない」という発言に込められた原発の安全に対する認識も安易極まりない。福島原発事故は、津波による電力装置の故障という小さな事故が冷却水の供給中断につながり、さらに炉心融解と爆発という取り返しのつかない事態につながることを示した。それなら、ここで私たちが学ぶべき教訓は、科学的に100パーセント安全な原発などは不可能であり、原発システムの微細な欠陥がいつでも手に負えない大災害につながりかねないということだ。電力装置もまた原発システム全体の一つだという点で、電力装置と原発自体を区分して原発は安全だと主張するのはまさに非科学的だ。国民の生命と安全を守ることが第一の責務である大統領を目指すのなら、原発問題に対しては最大限総合的に判断し、慎重に発言するのが当然だ。事実関係すらもまともに把握できていないユン前総長の発言を見ると、「原発賛成論者」たちとの断片的な接触を通じて偏った認識を持つようになったのではないかと疑われる。
ユン前総長は大統領選出馬宣言後わずかひと月の間で、「週120時間労働」や「コロナが初期に拡散した所が大邱(テグ)でなかったら民乱が起きていた」、「(お金の)ない人は不正食品でも選べるようにすべき」など、これまで韓国社会がようやく合意に達した多くの価値や常識を否定する水準以下の発言を相次いで発している。「1日1妄言」という皮肉まで出ている。
ユン前総長が本当に韓国社会の未来を開く指導者になることを望むなら、今のような姿をこれ以上繰り返してはならない。今回の原発発言の過ちを率直に認め、これからは大統領選候補にふさわしい言動を見せてほしい。
さらに、ユン前総長の原発発言が当初インターネット記事に載せられた後、4時間後に削除された経緯も明らかにすべきだ。波紋が広がったために問題の部分を削除してほしいというユン前総長側の不当な圧力や請託が万が一あったとしたら、これもまた大統領選候補としてマスコミに対する正しい姿勢とは言えない。もし自らも過ちに気づき、削除を要請したのなら、それとなくやり過ごすのではなく正式な説明と謝罪を明確にするのが正当な対応だ。