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[特派員コラム]危機にさらされる軍艦島

登録:2021-08-06 03:20 修正:2021-08-06 07:15
キム・ソヨン東京特派員
NHKが1955年に制作・放映した軍艦島に関する20分のドキュメンタリー「緑なき島」が右翼の集中攻撃を受けている=「緑なき島」の一場面をキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 最近「軍艦島」に関して重要な決定があった。2015年7月の近代産業施設の世界遺産登録に際して、23カ所のうち7カ所では朝鮮人の強制労働などがあったのに、日本はこのような歴史をきちんと伝えていないとし、ユネスコが強い遺憾を表明した決議案が先月22日に採択されたのだ。代表的なのが「軍艦島」と呼ばれた長崎沖にある島、端島だ。太平洋戦争当時、強制動員された朝鮮人たちが炭鉱で過酷な労働に苦しめられ、死んでいった場所だ。

 日本政府は来年12月1日までに履行報告書を提出しなければならない。日本が強制動員を認めて犠牲者を追悼する展示をすることが最も望ましいが、可能性は低い。日本政府は、朝鮮人は当時は日本国民だったため、違法な強制動員ではないとの立場だ。差別もなかったと強調する。これは朝鮮半島の植民地支配が正当で合法的だったという日本の歴史観に通じる。

 こうした理由から、日本ではむしろ「軍艦島の歴史に対する揺さぶり」が激しくなる可能性がある。攻撃はすでに始まっている。NHKが1955年に制作した軍艦島に関する20分のドキュメンタリー「緑なき島」が右翼の集中砲火を浴びているのだ。この映像には、炭鉱労働者が腰を伸ばすこともできない空間で、ヘルメットにフンドシ姿で働いている場面が何度も出てくるが、彼らはこれが捏造だと追及している。

 産業遺産国民会議(国民会議)は、軍艦島の元住民を前面に押し立てて「必ず作業服を着なければならなかった」「低くて狭苦しい坑道はなかった」とし、映像の中の炭鉱は軍艦島ではないと主張している。国民会議は、日本政府の委託を受けて産業遺産情報センターを運営する極右系の団体だ。東京新宿にある同センターは、日本が歴史的事実を伝えるというユネスコとの約束にもとづいて作った場所だ。加藤康子センター長は国民会議を作った人物で、安倍晋三政権で内閣官房参与などを務めた。

 軍艦島が危ういのは、極右団体だけでなく政府、政界も積極的に「歴史に対する揺さぶり」をかけているからだ。事実上、全面戦争を展開している格好だ。自民党の保守議員たちはNHK関係者を国会に呼び、映像が偽りであることを認めさせようと圧力をかけている。NHK側が、内部検証を行ったが端島炭鉱ではないという証拠はないと主張すると、NHK会長まで呼んで捏造を認めることを迫ったほどだ。

 なぜここまでするのか。彼らは映像に問題があったことを認めさせ、「韓国の主張はうそだった」と針小棒大に主張するという目的があるのだ。彼らは「韓国がこの映像を(軍艦島に関する)強制労働、奴隷労働の証拠として使っている」、「端島の否定的イメージはNHKの捏造に根がある」という方向へと世論を誘導している。

 この映像は、軍艦島の炭鉱の劣悪な労働環境を類推しうる貴重な資料ではある。しかし韓日の学界などは、ほかの数多くの資料や被害者の証言などによって、かなり前から軍艦島の実情を伝えてきた。たとえ映像に問題があったとしても、日本の強制動員の歴史を否定することは難しいということだ。それでも彼らが執着するのは、日本軍「慰安婦」問題では似たようなやり方で大きな効果を上げた経験があるからだとみられる。

 様々な波紋とは関係なしに、この映像を一度でも見たことのある人間なら、捏造だという主張には困惑せざるを得ない。このドキュメンタリーは、軍艦島の劣悪な実態を告発するために作られたものではない。むしろ住民たちがショッピングをしたり余暇生活を楽しんだりする姿が紹介されているなど、宣伝映像に近い。炭鉱の場面でも「石炭を掘る鉱夫の顔には喜びがあふれている」という、産業の担い手の誇りに満ちたナレーションが出てくる。NHKがこのような宣伝ドキュメンタリーを歪曲する理由はない。これは常識の問題である。

//ハンギョレ新聞社

東京/キム・ソヨン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1006616.html韓国語原文入力:2021-08-05 18:36
訳D.K

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