第44回ユネスコ世界遺産委員会が、日本が近代産業施設を世界遺産として登録する際、勧告した後続措置を履行しなかったことに対して強い遺憾の意を表明し、忠実な履行を促す決議を22日(現地時間)に採択した。国際機関ユネスコが日本による植民地時代時の強制動員被害事実を日本政府が歪曲しているとして、事実上の警告状を突きつけたのだ。これに対し日本政府は「これまでユネスコの勧告を誠実に履行してきた」と反論しながらも、ある程度補完する動きを見せている。
この問題は2015年7月に遡る。ユネスコは「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」23カ所が世界遺産に登録された当時、日本政府に各施設の「歴史の全容」を理解できる「解釈戦略」を講じるよう勧告した。23カ所のうち7カ所で朝鮮人強制労働などが行われたため、このような歴史的事実もきちんと知らせるべきだと、前提条件をつけたのだ。なかでも代表的なのが「軍艦島」と呼ばれる日本の長崎沖の端島だ。太平洋戦争の時期に強制動員された朝鮮人が炭鉱で過酷な労働に苦しみ、多くの人々が命を落とした場所だ。
「日本は1940年代、一部の施設で多くの朝鮮半島出身者やその他の国民が本人の意思に反して連れてこられ、過酷な条件の下で強制労働をさせられ、第2次世界大戦当時、日本政府も徴用政策を施行したという事実が理解できるような措置を取る準備ができている」
2015年7月5日、当時のユネスコ日本政府代表部の佐藤地大使は、ドイツのボンで開かれた第39回ユネスコ世界遺産委員会でこのように述べた。 日本政府が強制動員を認め、これをきちんと伝えることを国際社会に約束したのだ。日本政府はまた、情報センターの設置など犠牲者を記憶に留めるために必要な措置をユネスコが勧告した「解釈戦略」に盛り込むことを明らかにした。これを根拠に、端島を含め23ヵ所がすべて世界遺産に登録された。
日本が歴史的事実を伝えるために作ったのが、東京新宿にある「産業遺産情報センター」だ。世界遺産登録後、有名な観光地として多くの人々が訪れる端島ではなく、1200キロメートルも離れた東京にセンターを作ることも論議を呼んだ。さらに、昨年6月に一般に公開された同センターは、明らかに歴史を歪曲した内容で埋め尽くされていた。センターには、佐藤地ユネスコ大使の発言のほかには、強制動員の歴史と犠牲者を記憶に留めるための措置は見当たらない。朝鮮人に対する展示は、良い環境で生活したという歪曲された内容の展示がほとんどだった。韓国外交部は駐韓日本大使を呼ぶなど、強く反発した。
ユネスコも共同調査団を構成し、産業遺産情報センターを点検した。産経新聞は「6月7~9日、ユネスコが派遣したドイツ人の専門家が産業遺産情報センターを訪れた」とし、「現地を訪れたのは1人だが、ほか2人の専門家もオンライン形式で視察した」と報じた。
共同調査団は現場点検などを経て作成した60ページ分量の報告書で、各施設は全体の歴史記述が不十分だという結論を下した。 具体的には、1940年代に朝鮮半島出身者などが強制労働させられた事実を理解するための措置が不十分(insufficient)であり▽犠牲者を記憶に留めるための展示などがなかった点▽国際的な模範事例に照らして不十分である点▽当事国間の対話継続の必要性などを強調した。これまで韓国などで提起した問題点の大半をユネスコが認めたのだ。
日本政府と産業遺産情報センターは不満を示している。極右メディアの産経新聞は外務省幹部の言葉を引用し、「『遺憾決議』が採択に至った要因は、韓国政府がユネスコ事務局に働きかけた影響が強い」とし「韓国が専門家の意見を金科玉条のように扱うユネスコの雰囲気につけこみ、政治利用した」と、23日付で報道した。
ユネスコの専門家らによる現場点検の際、同行していた加藤康子産業遺産情報センター長は同紙に対し、「事実関係も確認できないのに、(韓国が主張するような)元島民の人権を踏みにじる展示ができるわけがないと説明したが、(ユネスコの)専門家は納得せず、韓国側の主張を一方的に唱えた」と述べた。加藤センター長は続いて「ユネスコは歴史的な物事を判断する知識はない。歴史の行司役を務めることはできない」とし、専門家を非難した。
国際機関の公開的な警告であるだけに、日本政府の悩みも深くなっている。読売新聞は「日本政府は、ユネスコ世界遺産委員会の決議採択を受け、産業遺産情報センターの展示内容の充実を検討する」と、23日付で報じた。ただ「韓国側が問題とする強制労働については、国際法違反ではなかったことを引き続き訴えていく構えだ」と付け加えた。外務省幹部は同紙に「展示は史実に基づいており、修正の必要はないが、より手厚い内容にすることは可能だ」と述べた。
日本政府は一応産業遺産情報センターの展示を補完する構えであるが、朝鮮人の強制動員について十分説明する可能性は低いものとみられる。日本政府はユネスコ決議の採択について「これまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」という立場を示した。
日本政府が朝鮮人強制動員自体を認めていないため、ユネスコの決議を全面的に受け入れるのは難しいと予想される。強制動員を認めるのは世界遺産をめぐる問題だけでなく、韓日関係の最大懸案である強制動員被害者訴訟などにも影響を与える可能性があるためだ。日本政府は、端島炭鉱など朝鮮人強制動員被害者に対し、本人の自由意思▽民間企業による募集▽行政によるあっせん▽国民徴用令による動員などの類型があったと主張している。このうち、徴用令による動員は、日本人にも適用された戦時徴用であり、国際法上の強制労働ではないという立場を貫いている。
ユネスコの決議文草案が公開された翌日の13日、茂木敏充外相は定例記者会見でこの部分を再度強調した。
産経新聞記者「ユネスコ関連だが、朝鮮半島出身労働者に関して、日本政府の立場を確認させてほしい。日本政府は、これまで徴用というものは、当時国内法によって合法的に行われており、違法な形で強制労働を行ったことを意味するものではないというふうにしていたと思うが、その立場に変わりはないか」
茂木外相「ない」
日本政府は来年12月1日までに履行報告書を提出しなければならない。世界遺産委員会は、2023年に予定された第46回会議でこれを検討する計画だが、ここでも「警告状」を突き付けられた場合、日本政府は国際的に恥をかくことになる。