本文に移動

[コラム]コロナと共に生きる? 世の中にただはない

登録:2021-07-24 03:52 修正:2021-07-24 07:46
イ・ジョンギュ論説委員
22日午前、ソウルの松坡区保健所の選別診療所で、市民がコロナ検査を受けるために待機している/聯合ニュース

 昨年10月初め、米国のマサチューセッツ州の小さな村、グレートバリントンで、ハーバード大学医学部のマーティン・クルドーフ教授ら3人の感染症学者が、新型コロナウイルス防疫の方向転換を求める宣言を発表した。彼らは、「封鎖」政策は心血管疾患の悪化、がん検診の減少、精神の健康の悪化などをもたらし、長期的には公衆保健に悪影響を及ぼすと主張した。したがって封鎖は解除する一方、高齢者などの高危険群の保護に集中し、死亡率や社会的被害を最小化することを目標とすべきだ、と述べた。死亡の危険性が低い若年層は日常に復帰し、「自然感染」を通じて免疫力をつけよう、とも提案した。「封鎖防疫」をめぐる論争を触発した「グレートバリントン宣言」だ。

 およそ10日後、国際医学学術誌「ランセット」にこの宣言に対する反論が載った。欧米の科学者と医療専門家79人が「高危険群の集中保護」と「集団免疫」戦略は「科学的証拠によって裏付けられていない危険な誤り」と主張したのだ。若者の間で感染が広がれば全人口の感染率と致命率が高まる危険性があり、医療システムの崩壊をもたらす恐れもあるというのだ。高危険群を選別して保護することも現実的に難しいと指摘した。ワクチンと治療薬が出るまでの間、社会を保護する最善の方法は、コロナの地域社会への拡散を防ぐことだと彼らは主張した。この文章は「ジョン・スノー覚書」と名付けられた。ジョン・スノーとは、1850年代に英国ロンドンで流行したコレラが、汚染された飲み水による水因性の感染症であることを突き止めた感染症学者だ。

 当時、コロナ拡散の勢いがあまりにも強かったため、両者の論争が大きな注目を浴びることはなく、まもなくワクチンが開発されたことで尻すぼみになった。死者の規模などのこれまでの「防疫成績表」を見れば、ジョン・スノー陣営の勝利は明らかなように見える。ワクチンが出る前に防疫を疎かにしていた国の方が「防疫模範国」よりはるかに大きな被害を受けたからだ。

 最近はワクチン接種率が高まっていることで「防疫パラダイム」をめぐる論争が再燃している。今回は専門家同士の論争にとどまらず、実際に「実験」に乗り出す国があるという点が異なる。最も「果敢な」国は英国だ。英国は19日を「自由の日」と宣言し、ほぼすべての防疫規制を廃止した。デルタ株で1日に数万人もの患者が発生しているが、予定通り「防疫の武装解除」を強行した。シンガポールも先月、コロナを一つの「季節性インフルエンザ」のように扱うと宣言した。防疫の重心を「感染者増加の抑制」から「重症患者と死者の最小化」へと移していくということだ。こうした実験の背景には高いワクチン接種率がある。英国の人口に対する接種率は68.2%(2次接種完了53.2%)、シンガポールは71.2%(同47.7%)に達する。ワクチン接種率が高まるにつれ重症化率と致命率が低くなっていることが、こうした「緩和戦略」の根本にはある。

 しかし、このような実験が成功するかどうかは未知数だ。特に、急激に防疫の壁を取り壊した英国に対しては、懸念の声が大きい。「ジョン・スノー覚書」を率いた120人あまりの科学者は最近、英国の措置について「危険で時期尚早」と批判する文章を「ランセット」に掲載した。彼らは「集団免疫を達成するのに十分なワクチン接種が行われるまでは『比例的な緩和』が必要だ」と提案した。英国内の防疫専門家からも、感染激増を警告する声があがっている。1カ月前に「コロナとの共存」を宣言したシンガポールも、ここ数日間で集団感染が相次ぎ、再び防疫の手綱を引き締めている。「コロナと共に生きる(ウィズコロナ)」ことがどれほど厳しいものなのかを示している。

 最近は韓国国内でも、コロナと共に生きる方向へと防疫パラダイムを変えるべき、との主張が出ている。高危険群へのワクチン接種で致命率と重症化率が徐々に下がっているのに、いつまで大きな社会的コストがかかる強力な社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)を維持しているのか、という問題提起だ。その土台には、コロナ禍の終息は現実的に不可能だとの認識もある。のんきなことを言っていると聞き流すべきことでもなく、かといって急ぐべきでもない。持続可能な防疫システムへの転換は絶対に必要だが、世の中にただはない。どの程度の防疫水準にするかは社会的合意が必要であり、変化した状況に合わせて医療システムも整備しなければならない。緻密な準備をしなければ大きな混乱を招く恐れがある。秩序ある出口戦略を、今から着実に準備していかなければならない。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジョンギュ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1004743.html韓国語原文入力:2021-07-22 19:49
訳D.K

関連記事