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[寄稿]「韓米ミサイル指針」廃棄と韓国が握る両刃の剣

登録:2021-06-01 06:41 修正:2021-06-01 08:01
チョン・ウォンシク|共生文化研究所研究委員

 5月21日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、米国のジョー・バイデン大統領とのホワイトハウスでの共同記者会見で「喜ばしい気持ちで『韓米ミサイル指針』終了の事実を伝えます」と発表した。韓国がついに「ミサイル軍事主権」を取り戻した瞬間だった。

 「韓米ミサイル指針」は、朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代の1979年9月、ノ・ジェヒョン国防部長官がジョン・ウィッカム在韓米軍司令官に送った書簡から始まったもので、米国から弾道ミサイルの開発技術を移転される代わりに、韓国軍のミサイルの性能を射程距離180キロメートル、弾頭重量500キログラムに制限する内容だった。この時から韓国のミサイル開発の制約となる足かせをはめられた。

 これまで韓国政府は、4回の改訂を経てそれなりの成果を得ていたが、最後の障害だった800キロメートルの制限を今回の韓米会談で最終的に廃棄した。

 「ミサイル指針」の廃棄は、米国にとっていわゆる「ミサイル非対称域外バランス戦略」という次元で絶妙な戦略だった。例えば、2019年に中距離核戦力全廃条約(INF)から脱退し、北東アジア域内で中距離ミサイルの配備を推進していた米国は、今回の合意を通じて韓国の2000キロメートルを超えるミサイルの開発能力を積極的に活用し、中国をけん制するという布石だ。この程度の射程距離であれば、北東アジア域内のすべての戦略打撃目標が射程圏内に入ってくる。このような米国の戦略は、韓国を自然に対中国ミサイルけん制体制に自動編入させる効果と、「クアッド」の反中国の枠組みへの参加を誘導し韓米同盟の堅固さを誇示する象徴的かつ実質的な効果をあげることができた。米国は今回の合意で、多くのウサギを捕まえる知能的な外交プレイを遺憾なく見せた。

 しかし、米国とは異なり韓国にとっては「ミサイル指針」の廃棄は「両刃の剣」というジレンマになり得る。

 今回の合意は、主権国家として韓国の宿願だったミサイル主権を42年ぶりに回復させ、北東アジア域内で「ハリネズミ型軍事強国」へと飛躍できる足場を用意したものだとみられる。特に、非対称戦略兵器として強い抑止力を持つミサイル体系が構築されるのであれば、実際に自主国防を早期実現するきっかけにすることができる。同時に、韓国の経済産業地図も宇宙にまで拡大し、新たな形での国家成長発展のティッピング・ポイント(転換点)になり得るという点に大きな意義がある。

 一方、ミサイル指針廃棄の合意により、米中間の対決構図において、韓国と中国の間での軍事的・経済的な緊張を招き、過去のTHAAD(高高度防衛ミサイル)問題が再発することが起こり得る。もちろん韓国政府は、主権国家として当然の防衛戦略だと強弁できる。しかし中国には、今回の合意によって米中関係においてこれまでグレーゾーンにとどまっていた韓国が最前線に志願することにより、米国の対中国けん制の以夷制夷(いいせいい)の手段に転落し、中国を包囲けん制するつもりだと読まれてしまうことがあり得る。

 一国の軍事力強化は、周辺国に安全保障のジレンマを引き起こし、軍拡競争を触発することがある。そうだとしても、韓国政府は国防力強化を決して止めてはならない。ただし、洗練された形で、軍事と外交の側面で敏感に反応する周辺諸国との軍事対話チャンネルを稼動し、不必要な対立を最小化しなければならない。また、技術的な観点で準中距離ミサイルと宇宙ロケットを開発する「ツートラック」戦略を通じて技術を蓄積し、周辺国との信頼を築く「ローキー(Low Key)戦略」を駆使して、両刃の剣というジレンマを解消し、安定したミサイル主権を確立していかなければならない。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウォンシク|共生文化研究所研究委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/997411.html韓国語原文入力:2021-06-01 02:35
訳M.S

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