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[寄稿]福島原発汚染水の海洋放出をめぐる米日の危険な協力

登録:2021-04-19 05:20 修正:2021-10-18 08:22
李婷婷ㅣ北京大学教授

 今月13日、日本政府が福島第一原発の汚染水を海に放出することを公式決定した。米国務省は直ちに声明を発表し、日本の決定が「透明」で、「国際的に公認された核の安全基準に合致する」として、支持を表明した。国際社会はもとより、日本内部でも懸念と反対の声が高まっているのとは対照的だ。

 米国は世界で最も影響力の大きい国だ。福島第一原発汚染水の海洋放出は、海洋環境や食品安全、人類の健康に深刻な影響を及ぼし得る問題であるため、慎重かつ責任を持って、客観的な立場を維持しなければならない。しかし、米国務省が出した声明は、少なくとも2つの点で適切でないと言える。

 まず、日本の決定が「透明」というのは理屈に合わない。 放射能汚染水の海洋放出は、周辺国はもとより世界各国の安全と直結している。しかし日本は、事前にこれを関係国に通知しなかった。放出決定後も、放射能汚染水に関する十分な情報を提供しなかった。中国や韓国、ロシア、北朝鮮などが強く抗議したのもそのためだ。それだけではない。日本は5種類の汚染水の排出方式を比較したと主張しているが、企業の費用を考慮し、従来の汚染水の保管容量を増やす案は最初から外していた。これに対しては、日本国内でも合理性と正当性に対する十分な合意がなされていない。日本が汚染水の放出決定を公開し、これを米国と事前に協議したとの理由だけで、「透明な決定」とは言えない。

 いわゆる「国際的に公認された核安全基準に合致する」という主張も慎重ではない。福島第一原発事故は、これまで世界で発生した原発事故のなかで最も深刻なものの一つだ。正常な原発稼動によって生成された汚染水を放出する基準を単純に適用するには不確実性が高すぎる。放射性トリチウム(三重水素)のほかにも、一部の学者たちは海洋生物と海底沈殿物に簡単に溶け込めるルテニウム106やコバルト60、ストロンチウム90などの放射能同位体についても注目すべきだと指摘する。また、半減期が5700年に達する炭素14の大規模な放出による影響も予測が難しく、炭素14の測定の正確度を歪曲するなどまた別の悪影響に対する懸念の声もあがっている。

 すでに多くの指摘があったように、米国が日本寄りの偏った態度を示す理由は政治的かつ戦略的考慮によるものであり、日本の外交的準備作業ともつながっている。それに加え、日本のフレーム(問題を捉える枠組み)の設定も注目に値する。日本は、「放射能汚染水の海洋放出」という世界共通の環境安全問題を、経済的コストと汚染水処理技術の問題として再規定した。 さらに、少数国家と専門家集団が発言権を掌握している専門性と技術性をめぐる論争にすり替え、大多数の直接利害当事者たちを排除し、少数の支持をもとに自分の計画を推し進めている。

 このようなやり方は日本外交ではおなじみの風景だ。最も典型的な事例は、第二次世界大戦後の戦後処理問題で見られる。日本は第一次世界大戦処理の事例を参考にし、植民地に関する問題を平等な交戦当事国間の領土分割方式で処理することを米国に提案した。これを通じて、植民支配と侵略に対する清算問題を戦後処理という統一した枠組みの中に組み入れる国際法の根拠を作った。このようなやり方はその後、米国の地域戦略と合致してサンフランシスコ講和条約の骨組みとなり、さらに日本と周辺国の個別的正常化交渉の原則と方向を規定するようになった。慰安婦と強制徴用など、植民支配の清算問題もこのようなフレームのもとで注目されにくくなり、今でも北東アジアの和解と協力の大きな障害になっている。

 福島第一原発の放射能汚染水の海洋放出問題は、世界の環境安全と人類共通の命運がかかった問題だ。処理を誤ると、深刻な否定的影響を招く可能性がある。いかなる国にも、自国の利益だけを考えフレームの設定と発言権の優位をもとに他の利害当事者を迂回し、依然として不確実性が残っている決定を一方的に押し通したり、それを支持する権利はない。

//ハンギョレ新聞社
李婷婷ㅣ北京大学教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
http://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/991513.html韓国語原文入力:2021-04-1902:05
訳H.J

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