26日から始まる新型コロナウイルスのワクチンの接種を控え、政界で時ならぬ攻防が起きた。1人目のワクチン接種者に誰がなるべきかをめぐってだ。19日にユ・スンミン前未来統合党（現「国民の力」）議員が、文在寅（ムン・ジェイン）大統領が「アストラゼネカ製ワクチンの接種者第1号」になるべきだと主張すると、共に民主党のチョン・チョンネ議員は自身のフェイスブックを通じて「国家元首が実験対象」なのかと切り返した。これに「国民は実験対象になってもいいのか」という反発の世論が激しくなると、チョン・ウンギョン疾病管理庁長が「（実験対象というのは）適切ではない表現」（22日）だと述べ、鎮火に乗りだした。大統領府と政府は「必要ならば」大統領と保険福祉部長官らが先にワクチンを受けることも可能だとしたが、原則的には、療養病院や施設の入院患者と職員、新型コロナの治療にあたる医療陣など、決めておいた順序通りに進めようという立場だ。
各国のワクチン接種事例をみると、最初の接種者には国ごとに付与するメッセージが込められている。昨年12月に英国で最初にワクチンを受けたのは、90歳の高齢女性だった。新型コロナによる死亡リスクを減らすことに主眼点を置いた英国では、接種順位を決める主な要因は年齢だった。フランスとスペインでも療養施設の高齢者が第1号にあてられた。
これに対し、米国のワクチン接種者第1号は、患者に付き添う看護師（当時52歳）だった。感染拡大の遮断により重きを置いて接種計画を組んだためだ。日本では国立東京医療センター院長が第1号だったが、国民を安心させる観点から、医療スタッフの接種後の状態を公開する予定だ。イスラエルやインドネシアでは、首相と大統領が接種者第1号になりもした。米国のジョー・バイデン大統領も第1号ではないが、大統領当選後就任前にワクチンを受けた。新型コロナの感染者があふれる局面で、指導者が先に出てワクチン接種を勧奨したケースだ。
韓国の政界で広がった接種第1号をめぐる攻防によって、接種優先の順位の妥当性を問う代わりにワクチンに対する不信ばかりを助長する恐れがあるというのは実に頂けない話だ。アストラゼネカのワクチンが高齢層に効果があるかの議論を口実に、野党が攻勢をかけているからだ。しかし、アストラゼネカのワクチンは、これまでの臨床試験において高齢層の標本が少ないだけであり、安全性と有効性に問題がないという分析が大半を占めている。最近では、英国のスコットランドから、アストラゼネカのワクチンの入院予防効果が高齢層にも80％ほどあるという調査結果も出た。
したがって、ワクチンが政争の手段になってしまうと、結果的には接種率を下げる要因になるだけだ。実際、インフルエンザのワクチンの常温露出事故の後に生じた議論によって、昨年のインフルエンザの無料ワクチンの接種率は64％で、前年（73.1％）より9.1ポイント落ちた。韓国は他国よりワクチンの接種開始が遅れただけでなく、大規模な流行を経た国に比べ抗体陽性率も極めて低い水準だ。11月までに集団免疫を形成しようとするならば、ワクチン接種率を高めるしかない。ワクチン接種の進度が速いイスラエルでも、「ワクチンを拒否する“コンクリート層”が20％ほどおり、ある地点からは進捗がよくならない状況」（高麗大学九老病院のキム・ウジュ教授）だ。専門家らは、新型コロナワクチンの1次接種対象者の約94％が接種に同意したが、接種が次の順位に下るほど同意率が落ちることを懸念している。ソウル大学保健大学院のユ・ミョンスン教授のチームが5～7日にアンケート調査を行った結果によると、26.8％は「接種時期や順番を先送りしたい」、4.9％は「接種を拒否する」と答えた。
野党の消耗的な攻勢も問題だが、政府・与党も頼りないのが事実だ。必ずしも大統領が接種第1号になる必要はないが、これを「公正の問題に結びつきかねない」（クォン・ドクチョル福祉部長官）などと言い、世論の顔色伺いをするようなことなのか。すでに、高齢層に対するアストラゼネカのワクチン接種を米国の臨床試験などの追加資料が確保されるまで保留し、「決定を先送りした」（嘉泉大学医学部チョン・ジェフン教授）との指摘を受けたところだ。その上、ワクチンの数量確保と国内導入などをめぐり、疾病庁よりも「「上部」の政府が先に発表するという“マルチボイス”によって混乱を招いた前歴もある。一貫したメッセージと透明な情報公開、積極的なリスクコミュニケーションが切実だ。
ファンボ・ヨン｜社会政策部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
訳M.S
