気候危機を防ぐため、化石燃料エネルギー源は太陽光と風力エネルギーに切り替えなければならない。二酸化炭素が排出されない原子力発電を拡大すべきだという主張もある。
自動車事故で多くの人が死んでも、社会的な弾性力は崩れない。しかし、原発事故が起これば、その後始末には、それまでに原子力発電で享受してきたすべての便益を上回る被害が発生する。福島原発の処理費用は、2018年までに236兆ウォン(約22兆5000億円)かかっている。その費用でもすべては解決できておらず、放射能汚染水を海に放出するという。費用のほとんどは原発会社ではなく税金から支払われている。
原発事故にうまく対処できる政府はない。最も緻密に構築された日本の安全網も無力だということが示された。事故だけではない。原子炉からは、何万年にもわたって放射能が失われない廃棄物が出る。原発のコストはこの10年間で26%も増えている。福島原発事故のような、かつては考慮されていなかった危険を防ぐためのコストが増加しているとともに、最近は世界的に原子力発電所に対する需要が縮小して市場から押し出されているからだ。
ビル・ゲイツ氏は自身の著書『気候災害を避ける方法(原題:How to Avoid a Climate Disaster)』で、「原子力発電は1日24時間供給し続けられる、炭素排出のない唯一のエネルギー源であるため、気候危機に対応するのに理想的」と主張する。再生可能エネルギーは太陽、風などの条件に依存して断続的に生産されるため、原発は電力を安定的に供給する基底負荷として重要な役割を果たすというのだ。
2020年、英国サセックス大学のベンジャミン・ソバクールと研究員たちは「ネイチャー・エネルギー」と題する論文で、再生可能エネルギーと原子力発電の炭素削減効果を分析した。それによると、再生可能エネルギーと原発の関係は排他的で、一つがもう一つを押し出す。政府が低炭素エネルギー予算を原発に投入すれば、再生エネルギー技術に投資する資金はその分減ることになる。このような関係は、原発と再生可能エネルギーは共存すべきという主張の根拠を突き崩し、原発の拡大はむしろ再生可能エネルギーの活性化の障害となることを意味する。
この10年間で、太陽光発電のコストは89%、風力は70%下がった。再生可能エネルギーに技術革新が集中し、同時に大規模な投資が行われているからだ。2020年、国際エネルギー機関(IEA)は、太陽光発電が最も安い電気供給源だと宣言した。これまで再生可能エネルギーに集中的に投資してきた国は、政府補助金を減らしたり、究極的には無くしたりしても、再生可能エネルギーが市場で優位を占めている。2019年には、世界の新規電力のうち太陽光と風力が72%を占めた。再生エネルギーの比重が大きくなればなるほど、出力調節ができないため柔軟性に欠ける原子力発電は、エネルギーシステムの障害となる。
ゲイツ氏は、自身の会社であるテラパワー(TerraPower)を通じて、安全だと主張する小型次世代原子炉を設計したという。しかし、2019年時点で1056億ドルの資産を持っているゲイツ氏でさえ、莫大な納税者の資金なしには、その原発を建設できないようだ。ゲイツ氏はテラパワーが設計した原子炉技術をテスト運用するために、今後10年間で数十億ドルを支援してもらえるよう議会を説得しようとした。
韓国の保守メディアが主張するように、原発がそれほど莫大な利益の出る宝の山なら、なぜ企業と個人の投資だけで海外進出できないのか。原発は、莫大な政策支援と莫大な税金による支援なしでは建設できないのだ。
アップル、グーグル、マイクロソフトなどのグローバル大企業は、自社に納入する企業各社に対し、100%再生エネルギーで作った商品を要求しようとしている。ここには原発は含まれない。原発は低炭素エネルギーではあるが、核廃棄物を吐き出しすため、再生エネルギーではないからだ。原発と再生可能エネルギーはそのパラダイムが異なるため、両者を共に選択することはできない。私たちは何を選択するのか。
チョ・チョンホ|慶熙サイバー大学気候変動特任教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )