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[キル・ユンヒョンの新冷戦韓日戦13]ハノイの失敗、韓国を「四面楚歌の危機」に

登録:2021-01-14 10:58 修正:2021-01-28 08:48
振り返ってみると、この時が韓国が日本との極限の衝突を避けられる最後のチャンスだった。最も至急下さなければならない判断は、日本政府が1月9日に韓日請求権協定3条1項に基づいて要請した「外交協議」を受け入れるかどうかだった。しかし韓国政府の反応はなかった。文在寅大統領の視線は相変わらずハノイの失敗を挽回する3回目の朝米首脳会談に注がれていたからだ。
麻生太郎財務相の2019年3月12日の「報復措置」発言に驚いた外交部は、2日後の14日にソウルで韓日局長級協議を行った。硬い表情でソウル都染洞の外交部庁舎に到着した金杉憲治外務省アジア大洋州局長/聯合ニュース

 ベトナムのハノイで開かれた2回目の朝米首脳会談の決裂の後、2019年2月28日午後6時50分(韓国時間)、ドナルド・トランプ米大統領は米国に帰るエアフォースワンに搭乗した後、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に電話をかけた。文大統領は25分間続いたこの電話会談で「朝鮮半島の冷戦的葛藤と対立の時代を終え、平和の新時代を切り開く歴史的課題の達成に向けた大統領の持続的な意志と決断を期待する」と述べた。日本の安倍晋三首相との電話会談は、夜7時30分から10分間行われた。安倍首相はその直後の夜7時47分、首相官邸前で記者団に対し「安易な譲歩をせず建設的な議論を続け、北朝鮮の具体的な行動を追求するというトランプ大統領の決断を全面的に支持する」と感想を述べた。文大統領が会談決裂に対する深い遺憾を隠しつつ次の会談に対する期待を示したことに比べ、安倍首相はトランプ氏が「安易な譲歩」をしなかったことに胸をなでおろして喜んだのだった。

 韓日両国首脳の対照的な反応からも分かるように、2・28ハノイ会談は「朝鮮半島非核化」の具体的な実現方策を論議するために朝米間で繰り広げられた「世紀の談判」でもあったが、一方では「成長した韓国」が東アジアの望ましい未来像をめぐって日本を相手に繰り広げた熾烈な「間接外交戦」でもあった。

 2017年の激しい対立の後、2018年1月に劇的に対話の局面が始まり、韓国は南北関係を改善して朝米対話を促進し、70年以上朝鮮半島を抑え込んできた冷戦秩序を解体する「現状変更」を試みた。文在寅政権は自らの力で「過去の対立と葛藤を終わらせた新しい平和協力共同体」である「新朝鮮半島体制」を構築したいと望んでいた。文大統領はハノイ会談を2日後に控えた26日、異例にも白凡記念館で国務会議(閣議に相当)を開き「朝鮮半島をめぐる国際秩序も変わりつつある。何よりも重要なことは、我々が自らその変化を主導できるようになったという事実だ」と述べ、その後の3・1節(独立運動記念日)100周年記念演説では「新朝鮮半島体制に大胆に転換し、統一を準備していきたい。(中略)南北関係の発展が朝米関係の正常化と日朝関係の正常化へとつながり、北東アジア地域の新たな平和と安保秩序へと拡大するだろう」と宣言した。

 日本はこのような韓国内の変化を憂慮の目で見つめていた。これに対抗して日本は北朝鮮の核開発と中国の浮上がもたらす東アジアの「新冷戦」に備え、日米同盟を強化し、韓国をその枠組みの下に置く「現状維持」戦略を推進した。北岡伸一・東京大学名誉教授など安倍政権の外交安保ブレーンが集まって作った「富士山会合」が、2017年4月に発行した政策提言集「より強固な同盟を目指して」によると、「日米は韓国が今後も日米韓協力の枠組みにとどまるよう協力していかなければならない。今後は(中国と北朝鮮の脅威に対応して)『日米韓防衛協力ガイドライン』(3カ国共同作戦計画)を策定しなければならない」と述べている。冷戦解体と統一を目標に独自外交を推進する韓国の動きを封鎖し、現在のように日米同盟の下位パートナーにしておかなければならないという主張だった。この後、韓日間で展開される激しい攻防は、東アジアの望ましい未来像に対して両国が抱いていた和解できない戦略観の対立が「ハノイ・ノーディール」を通じて爆発した結果だといえるかもしれない。

 この頃、韓日関係が事実上「どん詰まり」に至ったことを示すエピソードがある。朝鮮日報と東亜日報の2月11日付の報道によると、9日、慶応大学の現代韓国研究センターで「北東アジアの新しい秩序構想」と題した韓日共同シンポジウムが開かれた。ムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官の基調演説が終わると、日本国内の代表的な韓国専門家である木宮正史東京大学教授が「日本に対して何の言及もないことに衝撃を受けた。これは現在の韓国の見解を反映するものではないか」と不快感をあらわにした。これに対してムン特別補佐官は「日本は否定的な外交ばかり積極的にするのではなく、(今進められている朝鮮半島の和解という)土台になる方向へ積極性を持たなければならない」とし、それまでに募っていた不満を表した。2・28ハノイ破局以降、「日本の役割」に対する韓国の不快感は疑いを超えて敵対感情として具体化し始める。一例として、チョン・ドンヨン元統一部長官は3月2日、フェイスブックに「ハノイ談判決裂の陰に日本の影が見え隠れする。ハノイ外交の惨事が安倍政権の快哉につながる北東アジアの現実こそ、厳しい国際政治の中身だ」と評した。日本は対抗して戦わねばならない「敵」だという世論が起こりはじめたのだった。

 しかし、残念ながらハノイの破局で四面楚歌の危機に直面したのは、日本ではなく韓国だった。ハノイの大失敗で文在寅政権は「韓国仲裁者論」に根本的な懐疑を抱くようになった「北朝鮮の反発」、強制動員被害者賠償判決に関して対応を要求する「日本の圧迫」、韓国の北朝鮮に対する影響力を疑うようになった「米国の不信」という三つの外交的難題に対処しなければならなくなったためだ。

 最初に始まったのは、予想通り日本の圧迫だった。ハノイ破局から10日余りたった3月12日午後4時14分、丸山穂高議員が衆議院財務委員会の発言台に上り「政府が(韓国に対する報復措置として)関税引き上げを検討するという記事が出た」とし、韓国に「報復措置」を検討しているのかを繰り返し質問した。丸山議員の質問は、強制動員被害者に対する賠償判決問題で悪化するだけ悪化した韓日関係の脈絡を考えると、非常に敏感な内容だった。結局、麻生太郎副首相兼財務相が答弁台に立ち「いろいろな対抗措置がある。関税だけでなく送金停止、ビザ発給停止など、いくつかの報復措置があると思う」と述べた。この頃から、韓国メディアにも、日本が麻生氏の言及したいくつかの措置の他にも「(7月に実際に稼働される)半導体製造の必須材料であるフッ化水素の輸出中止などのカードを検討している」といった報道が出始める。

 この衝撃的な問答に驚いた韓国外交部は翌13日、慌てて報道資料を出し「キム・ヨンギル北東アジア局長が14日午後、外交部で金杉憲治外務省アジア大洋州局長と韓日局長級協議を開催する予定」と伝えた。振り返ってみると、この時が韓国が日本との極限の衝突を避けられる最後のチャンスだった。ハノイの破局で発生した危機を乗り超えるには、日本を刺激しない「繊細な外交」を繰り広げるべきだった。最も至急下さなければならない判断は、日本政府が1月9日に韓日請求権協定3条1項に基づいて要請した「外交協議」を受け入れるかどうかだった。この要請を受け入れなければ、爆発寸前の日本の不満をなだめながら(つまり時間を稼ぎながら)、韓日の外交当局が問題を解決するための真剣な交渉を始めることはできないと思われた。しかし、この状況でも「司法府の判決に政府は関与できない」という文大統領の1月10日の年頭記者会見の答弁のためか、政府の決定は下されなかった。大統領府の方針がない状況で局長級当局者が会っても、効果的な解決策が出るはずがなかった。会談後、金杉局長は日本のメディアに対し、「『対抗措置を含め、さまざまな選択肢を検討している』という意思を韓国に伝えた」としながらも、「対応措置を取らないほうが(日本の立場からも)はるかに良い。まずは(韓国の)対応を見守る」と述べ、余地を残した。

 しかし金杉が「見守る」と述べた韓国政府の対応は、その後もなかなか出てこなかった。イ・スフン大使が4月8日に離任のあいさつをするために安倍首相を訪問した時も、河野太郎外相が12日にイ大使を再度呼び出した時も、23日に両国局長がソウルで再び会った時も、韓国政府はだんまりを決め込んだ。理由は簡単だった。韓日が巨大な衝突に向かって突き進んでいた4月中旬にも、文大統領の視線はハノイの失敗を挽回する第3回朝米首脳会談に注がれていたからだ。

 文大統領は11日、「朝米間の対話の動力を早いうちに復活させる」(文大統領首席・補佐官会議)ために、ホワイトハウスでトランプ氏と首脳会談に臨んだ。文大統領は冒頭発言で「重要なのは、対話のモメンタムを維持し続け、また近いうちに第3回朝米会談が開催されるという見通しを世界に植えつけること」だと述べた。しかし、北朝鮮に対するトランプの情熱は以前より冷めていた。ジョン・ボルトン元大統領補佐官(国家安保問題担当)は回顧録で、第3回首脳会談を「板門店や米海軍の艦艇で開こう」という文大統領の提案にトランプ氏が「提案に感謝するが、私が望むのは次回の会談で実質的な協定を結ぶこと」と答えたという。興味深いのは、同盟国の対立に無関心なトランプ氏でさえ「韓日関係はどうか」と懸念を伝えてきたという点だ。文大統領は「過去の歴史が未来の両国関係に障害になってはいけないが、ときに日本がイシューを作るのが問題だ」という従来の立場を繰り返した。

 そうこうするうちに、別の複雑な情報が伝わってきた。まず、韓国原告人団が日本の年号が「令和」に変わった5月1日に差し押さえ状態にあった日本企業の資産を現金化する手続きに入った。次のニュースは、それよりさらに衝撃的だった。沈黙していた北朝鮮が5月4日午前、元山(ウォンサン)の虎島(ホド)半島で火力攻撃訓練を実施したのだ。(続)

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|統一外交チーム長。大学で政治外交学を専攻。駆け出し記者時代から強制動員の被害問題と韓日関係に関心を持ち、多くの記事を書いてきた。2013年秋から2017年春までハンギョレ東京特派員を務め、安倍政権が推進してきた様々な政策を間近で探った。韓国語著書に『私は朝鮮人カミカゼだ』、『安倍とは何者か』、『26日間の光復』など、訳書に『真実: 私は「捏造記者」ではない」(植村隆著)、『安倍三代』(青木理著)がある。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/976385.html韓国語原文入力:2020-12-3002:37
訳C.M

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