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[キル・ユンヒョンの新冷戦韓日戦12]「非核化の定義」なき非核化交渉、破局へ

登録:2020-12-19 10:13 修正:2021-01-28 08:48
朝鮮半島の冷戦解体を予言する「歴史的演説」になるところだったこの日の演説の隠された重要な発言は別にあった。ビーガン代表が、朝米の間でいまだに「非核化が伴うものについて詳しい定義や共通した合意はなかった」と答えたのだ。首脳会談を目前に控えた状況で「非核化とは何か」についての合意がなされていないなら、どうして非核化に対し意味のある合意に達することができるのか!
北朝鮮の金正恩国務委員長と米国のドナルド・トランプ大統領が2019年2月28日午前、ベトナム・ハノイのメトロポールホテルで会い、2日目の単独首脳会談を行う前に固い表情を見せている=ハノイ/AFP・聯合ニュース

 キム・ヨンチョル朝鮮労働党副委員長兼統一戦線部長を乗せた北京発ユナイテッド航空808便が雪の降るワシントン近隣のダラス空港に到着したのは、2019年1月17日(現地時間)午後6時32分だった。ベトナム・ハノイで開かれる第2回朝米首脳会談でスティーブン・ビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表の交渉パートナーとなる北朝鮮のキム・ヒョクチョル国務委員会対米特別代表や、キム・ソンヘ統一戦線部統一戦略室長、チェ・ガンイル外務省北米局長代行ら約10人が彼に随行した。

 翌18日午後12時15分、ドナルド・トランプ米大統領が、2018年6月のシンガポール以来7カ月ぶりにキム・ヨンチョル副委員長と再び顔を合わせた。キム副委員長はこの日、トランプ大統領に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の親書を手渡した。ボブ・ウッドワードの著書『怒り(RAGE)』によると、金委員長は親書で「今年は我々両者の関係がもう一段階高い段階に発展する、(昨年より)さらに重要な一年になるだろう」と書いた。トランプ大統領は黒いマジックで「私たちはまた会うだろう。あなたの友人、ドナルド・J・トランプ」と書いた手紙を返事として手渡した。その直後、ホワイトハウスのサラ・サンダース報道官は声明を出し、「トランプ大統領が非核化について議論するため、1時間半にわたってキム・ヨンチョル副委員長と面談した。2回目の(朝米)首脳会談は2月末に開かれるだろう」と発表した。

 2回目の朝米首脳会談の日程は決まったが、核心の懸案である「非核化」についての朝米間の見解の差は依然として残っていた。いまや実務会談を通じて“深淵のような”意見の違いを縮めなければならなかった。1回目の実務会談の場所に決まったのは「中立国」スウェーデンだった。現場でビーガン特別代表を待っていたのは、“強硬派”であるチェ・ソンヒ北朝鮮外務次官だった。19日、スウェーデン・ストックホルム市内から北西に50キロ離れたメラーレン湖畔の「ハックホルムスンド・カンファレンス」で3日間の合宿会談が始まった。交渉を促進するために、イ・ドフン外交部朝鮮半島平和交渉本部長ら韓国代表団も出席した。急な状況展開に当惑した日本も、金杉憲治外務省アジア大洋州局長(当時)を現地に急遽派遣し、「ジャパン・パッシング」を避けようと必死になった。

 2018年3月末に本格的な朝米対話が始まって以来、日本が警戒したのはトランプの「安易な譲歩」だった。朝日新聞は20日、複数の米政府関係者の話として、「米側は非核化の第一歩として、北朝鮮側にすべての核関連施設のリストを提出するように求めてきたが、北朝鮮が拒否を続けた結果、米側の要求は軟化しつつあるという」とし、「成果を演出したいトランプ氏が安易に妥協してしまうリスクを指摘する声も根強い」と懸念を示した。現場に派遣された金杉局長は21日、スウェーデンの米大使館で会談を終えたビーガン特別代表に会った。金杉局長は現場について回る日本の記者たちに「制裁を実施したり解除する時はタイミングが重要だ」とし「制裁緩和」には慎重でなければならないと主張した。これを受け、北朝鮮官営「朝鮮中央通信」は29日に論評を出し、「日本が狂ったように朝鮮に対する圧迫を鼓吹し、情勢激化をもたらすためにあがくことこそ、人類の平和念願に対する真っ向からの挑戦だ」と叩いた。

 ジョン・ボルトン元大統領補佐官は、北朝鮮と交渉したビーガン代表など国務省の交渉チームが「会談を成功させようとする熱意が非常に高かった」と評した。ビーガン代表は、ボルトン氏が「トランプ政権が北朝鮮の要求する『行動対行動』の公式にそのまま従おうとしているという印象を与えた」と表現した31日のスタンフォード大学での演説で、非常に印象深い言葉を残した。トランプ大統領には「朝鮮半島で70年余り続いた戦争と敵対を終わらせる意志を持った指導者」という表現を使い、金正恩委員長に対しては「非核化を実施して自分の情熱を完全に北朝鮮住民の必要と経済開発に注ぐという意志を表明」したリーダーだと評価した。そして、ついに北朝鮮が待ち望んだ発言が出た。「北朝鮮が『最終的かつ完全に検証された非核化』(FFVD)という約束を守るなら」という前提の上で、米国が「昨年夏にシンガポール共同声明で行ったすべての約束を『同時にかつ並行的に』(simultaneously and in parallel)推進する準備ができている」と述べたのだ。

 しかし、朝鮮半島の冷戦解体を予言する「歴史的演説」になるところだったこの日の演説の隠された重要な発言は別にあった。「非核化という用語はどのような意味なのか、朝米は共有しているのか」というスタンフォード大学アジア太平洋研究所のシン・ギウク所長の質問に対し、ビーガン代表は「非核化が伴うものについて詳しい定義や共通した合意はなかった」と答えたのだ。首脳会談を目前に控えた状況で「非核化とは何か」についての合意がなされていないなら、どうして非核化に対し意味のある合意に達することができるのか!

 2回目の実務会談は2月6~8日、平壌(ピョンヤン)で開かれた。ビーガン代表は6日午前10時頃に平壌に到着し、8日午後5時30分までの55時間、キム・ヒョクチョル代表と交渉を進めた。ソウルに戻ったビーガン代表は、本国に交渉結果を報告した後、ホワイトハウスのアリソン・フッカー国家安全保障会議アジア担当先任補佐官と共に夜11時ごろ宿舎の光化門フォーシーズンズホテル前のタッカンマリ(鶏の水炊き)屋で遅い夕食をとった。複数の韓国政府高官はハンギョレに「平壌の実務交渉はうまくいったと聞いている」と述べたが、ビーガン代表は11日にワシントンを訪れたムン・ヒサン国会議長らに対して「双方が何を望んでいるかを正確に説明する時間だった。次の会議からは意見の差を縮める」と述べた。これらすべての出来事が「無念の昔ばなし」となってしまっている現在、退任をひと月後に控えたビーガン代表は今月8日、韓国を訪れた。ビーガン代表は10日、峨山政策研究院の特別講演で「我々は行動のロードマップを作成することに合意すべきだった。(しかし)北朝鮮のカウンターパートが非核化についての権限を委任されていなかった」と残念がった。

 ビーガン代表が「権限のない相手」と実務交渉に奔走している間、“強硬タカ派”のボルトン氏のちゃぶ台返しが始まっていた。ボルトン氏の回顧によると、ホワイトハウスでハノイ会談の準備のための最初の会議が開かれたのは12日午後4時45分だった。この席でボルトン氏は、トランプ大統領にロナルド・レーガン大統領がソ連のゴルバチョフ共産党書記長を相手に、1986年10月にアイスランドのレイキャビクで行なった核兵器軍縮交渉に関する動画を見せた。レーガン大統領が交渉を決裂させた後、果敢に会談会場を去る姿だった。この映像が効果を発揮したのか、トランプ大統領は「わたしは急ぐ必要はない」という言葉を繰り返し始めた。2回目の会議は15日午後2時過ぎに始まった。この席でトランプ大統領はボルトン氏に「完全な非核化」とは何なのか、結論を1ページにまとめるよう要求した。実務会談で合意できなかった「非核化の定義」を、超強硬タカ派のボルトン氏が作ってトランプに伝えたのだ。トランプはこの文書をハノイで金委員長に伝えることになる。第3回会議は21日に開かれた。ボルトン氏はこの日の会議について「ちょうどその前日にトランプ大統領が安倍首相と電話で話し、会議に必要な条件がぴったりそろった」と書いた。安易な妥協は絶対に禁物だとした安倍晋三首相の執拗な説得が続いたことだろう。

 会談の成功という「バラ色の展望」に酔っていた韓国政府は、徐々に悪化するホワイトハウス内の微妙な雰囲気を感知できなかった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は19日夜10時、トランプ大統領との電話会談で「北朝鮮の非核化措置を牽引するための相応措置として、韓国の役割を活用してほしい。南北間の鉄道・道路連結から南北経済協力事業まで、トランプ大統領が要求するならその役割を担う覚悟ができている」と述べ、25日の首席・補佐官会議の冒頭発言では「歴史の辺境ではなく中心に立ち、戦争と対立から平和と共存へ、陣営と理念から経済と繁栄へと向かう新朝鮮半島体制を主導的に準備する」と宣言した。

 北朝鮮が「ついに」自らのカードを公開したのは、ハノイ会談初日の27日夜、ハノイのメトロポールホテルで開かれた1対1会談と晩餐会でのことだった。金正恩委員長は、寧辺(ヨンビョン)の核施設を廃棄する見返りに、2016年以降に国連安全保障理事会が取った5つの決議による制裁を解除するよう要求した。複雑な実務会談を飛び越え、首脳会談を通じた「一本勝負」に出たのだ。ボルトン氏はこの事実を伝えたマイク・ポンペオ国務長官に「もしかして金正恩は他のカードを持っているのではないか」と尋ねた。ポンペオ長官は「そうではないようだ」と答えた。

 28日、破局の日がきた。午前9時に始まった会談に先立ち、金正恩委員長は「私たちが素晴らしい時間を過ごしていることについて、まるでファンタジー映画の一場面のように見る人がいると思う。今日も良い結果が出るようあらゆる努力を尽くす」と述べたが、トランプは固い表情のままだった。トランプの神経を支配していたのは、担当弁護士だったマイケル・コーエンの27日の米下院公聴会での暴露だった。コーエンがぶちまけた話の中でも圧巻は、大統領が不倫相手のポルノ俳優のステファニー・クリフォードに口止め料として13万ドルを支払ったというものだった。東アジアの冷戦体制を一気に崩すかもしれない会談の展望を尋ねる記者らの質問に、トランプ氏は腹立たし気に「ノー・ラッシュ」(急がない)と3回叫んだ後、「重要なことは正しい合意に達することだ」と述べた。この時点で、会談決裂はすでに決まっていたのかもしれない。(続)

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|統一外交チーム長。大学で政治外交学を専攻。駆け出し記者時代から強制動員の被害問題と韓日関係に関心を持ち、多くの記事を書いてきた。2013年秋から2017年春までハンギョレ東京特派員を務め、安倍政権が推進してきた様々な政策を間近で探った。韓国語著書に『私は朝鮮人カミカゼだ』、『安倍とは何者か』、『26日間の光復』など、訳書に『真実: 私は「捏造記者」ではない」(植村隆著)、『安倍三代』(青木理著)がある。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/974363.html韓国語原文入力:2020-12-16 08:23
訳C.M

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