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[キル・ユンヒョンの新冷戦韓日戦9]「ろうそく革命」文政権、日本と宿命的な葛藤へ

登録:2020-11-04 09:23 修正:2021-01-28 08:49
このような状況で、韓国政府が日本の憂慮を受け入れて最高裁の判断に介入するというのは、ろうそく集会の念願を受け止めた文在寅政権が司法の積弊に加担するということと同じだった。しかし、この判決は非常に複雑かつ微妙な「内部矛盾」をはらんでいた。最高裁の結論は、2005年以降韓国政府が守ってきた立場に反するものだった。
強制徴用被害者たちが日本企業の新日鉄住金(現日本製鉄)に対して起こした損害賠償請求訴訟で、13年8カ月ぶりに勝訴判決を得た2018年10月30日、ソウル瑞草洞の最高裁前で被害者のイ・チュンシクさん(右)が感想を述べながら涙を流している=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 2018年9月18~20日、平壌(ピョンヤン)で金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長から「米国が相応の措置を取れば『寧辺(ヨンビョン)核施設』の永久廃棄のようなさらなる措置を取り続けていく用意がある」という約束を取りつけた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、旅の疲れを癒す暇もなく、米国・ニューヨークへ向かった。韓米首脳会談と国連総会での基調演説を通じて、平壌共同宣言の成果を説明するためだった。文大統領は24日、ドナルド・トランプ米大統領と会談し「北朝鮮の非核化に対して進展した合意があった」「もう北朝鮮の核放棄は北朝鮮内部でも後戻りできないほど公式化された」と述べた。トランプ大統領も「第2次米朝首脳会談を遠からず行うことになるだろう」と答えた。

 文大統領の26日の国連総会での演説は、韓国の人々が待ち望んでいた「朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和」に向けた「バラ色の展望」に満ちた感動的なものだった。文大統領は「北朝鮮は長い孤立から自ら抜け出し、再び世界の前に立った」とし「北朝鮮が恒久的で確固たる平和の道を進み続けられるよう(国際社会が)導いてほしい」と強調した。このように場を整えたのだから、今度は北朝鮮が世界の前で非核化の意志を再確認する番だった。

 焦眉の関心の中で行われた北朝鮮のリ・ヨンホ外相の29日の国連総会演説は、韓国の期待とは全く違った。リ外相は「(6月12日の)朝米共同宣言が円満に履行されるには、数十年間積み重ねてきた不信の壁を崩さなければならず、そのためには朝米両国が信頼醸成に労力を傾けなければならない」としながらも「米国の相応の回答が見られない」と切り出した。これに対する北朝鮮の結論は、「そうした状態で我々が一方的に先に核武装を解除することは絶対にあり得ない」ということだった。さらに、寧辺の核施設を廃棄する見返りとして米国に要求する「相応措置」の内容を明らかにした。リ外相は、2017年末以降、北朝鮮が核実験とミサイル発射を停止するなどの措置を取ってきたが、それに対し「(国連)制裁決議は解除されたり緩和されるどころか少しも変わっていない」と指摘した。結局、北朝鮮が望んだのは「終戦宣言」という政治的宣言ではなく、今後の経済開発のために必ず必要な「国連安保理の制裁解除」だった。寧辺の核施設と国連制裁を交換しようとする北朝鮮の試みは、5カ月後「ハノイ会談でのノーディール」という破局を招くことになる。

 リ外相の演説が行われる4日前の25日、ニューヨークで韓日首脳が会談した。この頃、日本は韓国には言えない不満を抱えていた。一つ目には、韓国が韓日米の三カ国協力を通じて北朝鮮が本気で核を放棄するよう圧力をかける代わりに、融和的な態度を見せているという点だった。二つ目は歴史問題だった。文在寅政権は、日本軍「慰安婦」問題解決に向けた12・28韓日合意を無力化しただけでなく、もうすぐ判決が下される韓国最高裁判所(大法院)の強制動員被害者賠償判決に対する日本の懸念に大きな関心を払わなかった。

 この会談の結果を説明する日本の首相官邸の資料には、安倍晋三首相が文大統領に「徴用工問題について、わが国の基本的立場に基づき改めて問題提起をした」という内容が含まれているが、大統領府の資料には12・28合意の結果として作られた「『和解・癒し財団』が本来の機能を果たしていない」という文大統領の発言が紹介されているだけだ。翌日26日に行われた外交長官会談でも、韓国は最高裁判決に対する憂慮を伝える河野太郎外相の発言を省略して「2週間後に迫った金大中(キム・デジュン)・小渕共同宣言発表20周年を迎え、実質的な協力を強化する必要性を確認した」と言及するにとどまった。これは、韓国政府が最高裁の判決に対する日本の深い憂慮を意図的に無視したことを示している。

 日本はひとまず、不満を抑えた。南北が主導する「対話の流れ」は、70年余り続いた東アジアの戦後秩序を一気に崩す状況だった。こうした動きが続く限り、日本は国益に致命的な弊害となる「ジャパンパッシング」を避けるためにも、この対話の流れに賛同しなければならなかった。安倍首相は26日、国連総会の演説で「(北朝鮮の)拉致、核・ミサイル問題を解決した後、不幸な過去を清算して国交正常化を目指すという(2002年9月の平壌宣言で明らかにした)日本の方針は変わっていない。北朝鮮の持つ潜在性を開放するための助力を惜しまない」と宣言した。

 日本は韓国の「意図的な無視」を理解できなかったが、これは2016年末の「ろうそく集会」という巨大な市民革命で誕生した文在寅政権の宿命だった。朴槿恵(パク・クネ)政権は、セウォル号惨事当日に「7時間の空白」をつくり、死にゆく子どもたちの絶叫に対応する意思も能力もないことを自ら立証した無能な人々であり、12・28合意を通じて慰安婦問題を「最終的・不可逆的」に忘却するという安倍政権の肩を持った正義に反する人々だった。司法府も同様だった。ヤン・スンテ長官が牛耳る最高裁は、「上告裁判所の設置」という最高裁の宿願である事業と強制動員被害賠償判決を交換しようとした「司法積弊」の巣窟だった。最高裁企画調整室が2015年3月26日に作成した「上告裁判所に関する大統領府への対応戦略」という文書をみると、大統領府が「日帝時代の強制徴用被害者損害賠償請求事件について、請求棄却の趣旨の破棄差し戻し判決を期待すると予想」という妙な内容が含まれている。この言及どおり最高裁は、イ・チュンシクさん(96)さんら原告が日本製鉄に対して起こした損害賠償裁判に対して2012年5月に行われた原告勝訴の趣旨の破棄差し戻し判決の最終結論を、6年以上先延ばししていた。このような状況で、韓国政府が日本の憂慮を受け入れて最高裁の判断に介入するというのは、ろうそく集会の念願を受け止めた文在寅政権が司法の積弊に加担するということと同じだった。

 ついに10月30日、判決が出た。最高裁全員合議体はこの日、イ・チュンシクさんら4人が日本製鉄(判決当時は新日鉄住金)に対して起こした損害賠償請求訴訟の再上告審で、日本企業が原告に1億ウォン(約930万円)ずつ賠償すべきだという原審を確定した。この判決の核心は、1965年に韓日が交わした請求権協定は両国間の財政的、民事的な債権・債務関係を解決するものであり、慰安婦問題など日本の国家権力が関与した「反人道的不法行為」まで包括するとみなすことはできないということだった。つまり、夫婦が離婚して財産分与(請求権協定)を終えたとしても、夫が妻に暴力を振るった事実があればそれに対する損害賠償責任は残っているという論理だった。ハンギョレは翌日、1面トップ記事のタイトルを「『裁判取引』で遅らされた正義…徴用被害者もあの世で笑うだろうか」とつけた。

 しかし、この判決は非常に複雑かつ微妙な「内部矛盾」をはらんでいた。最高裁の結論が、2005年以降韓国政府が維持してきた立場に反するためだ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の頃に作られた官民共同委員会は2005年8月26日、韓日がまだ解決していない「反人道的不法行為」の範囲を、慰安婦問題▽サハリン残留韓国人問題▽原爆被害など、事実上3つの問題に限定するという結論を下した。これによって盧武鉉政権は、強制動員被害者に対する賠償・補償問題は韓国政府が自主予算で解決し、残った3つの問題に対してのみ日本政府と外交交渉を展開する方針を維持してきた。最高裁判決の核心は、この「反人道的不法行為」の範囲を強制動員問題全般に拡大したことだった。これですべての強制動員問題が「未解決の課題」となった。むろん、2005年の政府も強制動員被害者たちが「強制動員は日帝の不法な朝鮮半島支配の過程で発生した精神的・物質的な総体的被害」という論理で日本に賠償請求しうると予想していた。しかし、日本の裁判所はこれを認めないだろうと予測した(「首相室韓日修交会談文書公開等対策企画団活動」白書、42~43頁)だけであり、原告らが韓国の裁判所で「最終的に勝訴」するとは予想していなかった。

 日本はこの判決が、1965年6月の韓日国交正常化以降築いてきた両国関係の根幹を揺るがす重大な事案だと判断した。大最高裁の判決が出た直後の30日午後4時21分、安倍首相は記者団に対し、強制動員問題は「1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決された。今回の判決は国際法に照らしてもありえない」と述べた。河野外相もイ・スフン駐日韓国大使を招致し「法の支配が貫徹される国際社会で常識的に考えられない判決」と声を高め、相次ぐ談話で「極めて遺憾。決して受け入れられない」と宣言した。

 「難題」であるだけに、政府の迅速で効率的な対応が必要だった。当時のイ・ナギョン首相は判決当日、「判決と関連する事項を綿密に検討」し「諸般の要素を総合的に考慮し、政府の対応策を設ける」と明らかにした。文大統領は2日後の11月1日、国会の施政演説で「二度目の朝米首脳会談が目前に迫っている。金正恩委員長のソウル答礼訪問も近いうちに行われるだろう」と述べたが、日本が待っていた最高裁判決についての言及は一言もなかった。しかし、金委員長の年内訪韓はついに実現せず、「綿密に検討する」とした政府の対応策も年を越しても出てこなかった。(続)

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|統一外交チーム長。大学で政治外交学を専攻。駆け出し記者時代から強制動員の被害問題と韓日関係に関心を持ち、多くの記事を書いてきた。2013年秋から2017年春までハンギョレ東京特派員を務め、安倍政権が推進してきた様々な政策を間近で探った。韓国語著書に『私は朝鮮人カミカゼだ』、『安倍とは何者か』、『26日間の光復』など、訳書に『真実: 私は「捏造記者」ではない」(植村隆著)、『安倍三代』(青木理著)がある。

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/968381.html韓国語原文入力:2020-11-03 19:18
訳C.M

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