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[キル・ユンヒョンの新冷戦韓日戦8]朝米交渉の膠着で日本が「北朝鮮圧迫」を再稼働

登録:2020-10-23 10:38 修正:2021-01-28 08:49
北朝鮮の瀬取り密輸が後を絶たず、外務省と防衛省は8月31日、海上自衛隊が撮影した北朝鮮船舶の瀬取り密輸シーンを3分19秒の映像にし、ユーチューブを通じて公開した。さらに、海上自衛隊は朝鮮半島周辺海域の偵察強化に乗り出す。自衛隊の活動の変化は2018年12月20日、東海(日本海)で発生した「海上自衛隊の脅威飛行および韓国海軍のレーダー照準」事態という大きな嵐を呼び起こすことになる。
シンガポールで開かれた6・12首脳会談後、朝米核交渉が膠着状態に陥ると、日本が力を注いだのは北朝鮮船舶の密輸取り締まりだった。2018年6月12日午前9時10分頃、北朝鮮船舶の「ユピョン5号」が小型船舶からホースで何かを供給されている=日本の海上自衛隊提供//ハンギョレ新聞社

 シンガポールで開かれた6・12朝米初の首脳会談を説明するため、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安保問題担当)が回顧録『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』で最初に使った形容詞は「曖昧だ」(ambiguous)というものだった。ドナルド・トランプ米大統領から会談結果を伝え聞いた韓日両国もまた混乱(confused)するほかなかった。会談に直接参加したボルトン氏とマイク・ポンペオ国務長官の事情も大きな違いはなかった。彼らは「トランプが一体何を考えているのかまったく分からなかった」のだ。

 しかし会談後、最も大きな混乱に陥った人は、間違いなく交渉当事者である金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長だったに違いない。金委員長は会談を通じて、トランプが北朝鮮の主張してきた「行動対行動」、つまり朝米がお互いに信頼を築きながら一つひとつ非核化作業を進めていく「段階的非核化」の解決策に同意したと信じていた。そのため会談翌日の13日、「労働新聞」は3面で「朝米首脳は朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を実現していく過程で段階別、同時行動原則を遵守することが重要だということについて認識を共にした」と書いた。

 米国は「決して」そうは思わなかった。6・12首脳会談を治績の誇示のための「巨大広報イベント」と考えたトランプはどうだったか分からないが、ボルトン氏とポンペオ国務長官は「行動対行動」原則に同意したことはなかった。彼らの唯一の関心は「一日も早く」北朝鮮を非核化過程に引き込むことだった。そして北朝鮮に非核化の意志があるなら、自分たちの持っている核兵器や弾道ミサイルなど核関連リストを申告するだろうと考えた。

 こうした認識の不一致を伴ったまま、7月6~7日、ポンペオ国務長官の3回目の訪朝が実現した。ポンペオ国務長官が交渉相手のキム・ヨンチョル労働党副委員長(当時)兼統一戦線部長にどのような話をしたかは、想像に難くない。非核化の第一歩として核施設などの「申告」を要求するポンペオ国務長官に対し、キム・ヨンチョル副委員長は携帯電話を投げて「トランプに電話をかけろ。トランプならそんなことは言わない」と声を上げた。キム副委員長の強硬な姿勢にポンペオ国務長官は大きく落胆した。彼は平壌行きに同行した米国記者団に対し「大半の中心的な問題について進展があった」と述べたが、7日午前7時半(韓国時間)、ワシントンに電話をかけ、会談は「信じられないほど不満で、ほとんど進展がなかった」と告白するしかなかった。ポンペオ国務長官は、金正恩委員長に会うこともできず、平壌を発った。

 しかし、北朝鮮はその100倍は大きな当惑を感じた。これを示す文書がある。ポンペオ国務長官が平壌を去ったまさに「その日の夜」、外務省報道官は「朝鮮中央通信」を通じて米国に対する「深い裏切り」を吐露する談話を発表した。本文に書かれた「強盗のような要求」という独特の表現で歴史に記録された、鬱憤に満ちた談話だった。

 「(我々は)朝米関係の改善に向けた多方面的な交流を実現することに対する問題と、朝鮮半島での平和体制構築のためにまず朝鮮停戦協定締結65周年を契機に終戦宣言を発表することに対する問題、非核化措置の一環として大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産中断を物理的に確証するための大出力発動機試験場を廃棄する問題、米軍の遺骨発掘のための実務交渉を速やかに施行する問題など、広範囲な行動措置をそれぞれ同時に取る問題を討議することを提起した」 「しかし米国側はシンガポール首脳会談の精神に反する『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』(CVID)だの、申告だの、検証だのと一方的で強盗のような非核化要求ばかりを持ち出した。すでに合意されている終戦宣言の問題までいろいろな条件と口実を並べ、先延ばしにしようとする立場を取った」

 本当に6・12シンガポール会談が朝鮮半島の冷戦構造を一気に破る「歴史的会談」だったとしら、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が頑なに強調する終戦宣言も2年前の2018年7月27日に現実化したかもしれない。結局、すべてが「蜃気楼」にすぎなかった。ボルトン回顧録によると、トランプ大統領もまたポンペオ国務長官が電話で伝えてきた北朝鮮の信頼構築要求に「ばかげたこと」という反応を見せた。この時点で6・12シンガポール共同宣言は、朝米首脳間の奇妙な「ブロマンス」を除けば事実上無用の長物になったも同然だった。

 そこへ、韓国政府の凄絶な仲裁努力が続いた。カン・ギョンファ外交部長官は7月19~21日、チョン・ウィヨン大統領府国家安保室長(当時)が20~21日、ソ・フン国家情報院長(当時)が26~29日と、相次いでワシントンを訪れた。南北が合意した4・27板門店宣言履行と膠着状態に陥った朝米対話を促進するためだった。韓国政府が終戦宣言に執着すると、ハリー・ハリス駐韓米国大使は8月2日、国内メディアのインタビューで「終戦宣言をするには、北朝鮮が非核化に向けて相当な動きを見せなければならない。北朝鮮が信頼構築の道に進むことができる核心であり本質的な措置は、完全な核施設リストを提供することだ」と断言した。終戦宣言のためには、北朝鮮が核施設を先に申告しなければならないという強硬な立場だった。

 朝米対話が暗礁に乗り上げると、日本は北朝鮮への圧迫強化に精力を傾け始めた。国連安全保障理事会は2017年9月に決議第2375号で北朝鮮船舶と公海での物品の移転を禁止し、第2397号では北朝鮮への精油製品供給量を年間200万バレルから50万バレルに大幅に減らした。すると、2018年初めから朝鮮半島周辺の公海で北朝鮮船舶が怪しい船と精油製品と推定される何かを取り交わす、いわゆる「積み替え」(ship to ship transfer)、日本語では「瀬取り」方式の密輸をする姿がよく目撃されるようになった。河野太郎外相は8月4日、ポンペオ国務長官と会い、「安保理決議の完全な履行のために瀬取り方式を利用した密輸対策のために協力」することで合意し、25日の電話会談では「瀬取り密輸が対北朝鮮制裁の大きな穴になっている」ともどかしさを見せた。それでも北朝鮮の瀬取り密輸が後を絶たず、外務省と防衛省は8月31日、海上自衛隊が撮影した北朝鮮船舶の瀬取り密輸シーンを3分19秒の映像にし、ユーチューブを通じて公開した。この映像を見ると、北朝鮮船籍のタンカー「ユピョン5号」が上海南南東400キロ海上で正体不明の小規模船舶とホースで何かをやり取りする場面が確認できる。さらに、海上自衛隊は朝鮮半島周辺海域の偵察強化に乗り出す。自衛隊の活動の変化は2018年12月20日、東海(日本海)で発生した「海上自衛隊の脅威飛行および韓国海軍のレーダー照準」事態という大きな嵐を呼び起こすことになる。

 状況がこうなると、文在寅大統領はもう一度大きな「外交的冒険」に出た。朝米の膠着を一気に崩すため、平壌で金正恩(キム・ジョンウン)委員長と3回目の首脳会談に臨んだのだ。この会談は言葉通り「南北会談が朝米会談を促進し、朝米会談が南北会談を繰り上げる好循環のための会談」(キム・ウィギョム当時大統領府報道官)だった。そして南北首脳は期待に応えるかのように、9・19平壌宣言を通じて朝鮮半島非核化に関する重大な進展を成し遂げた。北朝鮮が新しい大陸間弾道ミサイルを開発するために必ず必要な施設である「東倉里(トンチャンニ)エンジン試験場とミサイル発射台を関係国の専門家たちの参観の下、永久的に廃棄」し、「米国が6・12朝米共同宣言の精神に従って相応措置を取るなら、寧辺(ヨンビョン)核施設の永久廃棄のような追加の措置を続けて取る用意がある」と明らかにしたのだ。文在寅大統領は第3回首脳会談直後、ソウルで進行した国民向け報告を通じて、金委員長が「可能な限り早い時期に完全な非核化を終え、経済発展に集中したいという希望を明らかにした」と述べた。

 その直前に、急な日程変更で訪問した白頭山(ペクトゥサン)で、金正恩委員長は白頭山頂上の湖である天地を見下ろしながら、意味深長な言葉を残した。

「この天地の水に筆をつけて、北南関係における新しい歴史を我々は書き続けていかなければならないと思います」

 文在寅大統領が満面に笑みを浮かべながら言った。

「今回私が(平壌)に来て、新しい歴史を少々書きました。平壌市民の前で演説もしたので」

 今回も日本の反応はこの上なく冷ややかだった。菅義偉官房長官(当時)は19日の定例記者会見で「南北首脳の努力に敬意を表する」という外交的レトリックを使ったが、メディアは懸念の声をもらした。朝日新聞でさえ20日付の分析記事で、政府内で「今回の会談を通じて非核化より南北融和が先に進めば、日米韓の共同歩調が乱れるという懸念の声が出ている」と伝えた。

 もはや残された焦眉の関心事は、北朝鮮が寧辺を見返りに米国に要求することになる「相応の措置」とは何かだった。その答えは近いうちに国連総会に出席するリ・ヨンホ外相が持ってくるはずだった。そして、韓国と日本の間に潜伏していた核心の対立要因がついに姿を現し始めた。韓国の最高裁(大法院)の強制労働被害者賠償判決が翌月末(10月30日)に迫っていた。(続)

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|統一外交チーム記者。大学で政治外交学を専攻。駆け出し記者時代から強制動員の被害問題と韓日関係に関心を持ち、多くの記事を書いてきた。2013年秋から2017年春までハンギョレ東京特派員を務め、安倍政権が推進してきた様々な政策を間近で探った。韓国語著書に『私は朝鮮人カミカゼだ』、『安倍とは何者か』、『26日間の光復』など、訳書に『真実: 私は「捏造記者」ではない」(植村隆著)、『安倍三代』(青木理著)がある。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/966521.html韓国語原文入力:2020-10-21 02:06
訳C.M

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