今回の米大統領選挙で、中国と香港の多くの民主化運動家がトランプ大統領を支持したことには戸惑いを感じると共に、胸が痛んだ。「習近平時代」の中国の人権悪化を憂慮する亡命中国人や、国家安全維持法の施行に絶望した香港人の一部がトランプ大統領支持を表明した。トランプ大統領の激しい“中国叩き”が中国に変化をもたらせると、彼らは期待した。
反論と省察もあった。中国初のエイズ患者支援団体「愛知行」を設立して人権運動を展開し、数回投獄された後、米国に滞在している萬延海氏は「トランプは民主主義を深刻に傷つけた。中国共産党と戦うことを願っているとしても、怪物がまたほかの怪物を食べてしまうことを期待してはならない。中国を変化させる道は、中国人が民主主義に参加できるように変えていくことだ」と訴えた。人権を中国叩きに利用するだけで、民主と人権に興味のないトランプ大統領のような強者に対する幻想を捨て、中国人が自ら変化を作ることができるように持続的に連帯しようという彼の呼びかけに共感した人も多かった。 私も彼の考えを支持する。人権とは、外部の強者が恩恵のように与えるものではない。
北朝鮮の人権についても同じ悩みを抱えてきた。北朝鮮の強制収容所と拷問、性的暴行と恣意的拘禁などの問題は改善しなければならない。しかし、北朝鮮の人々の暮らしのために真剣に努力することと、北朝鮮の人権を利用することを混同してはならない
軍事境界線一帯におけるビラ散布と対北朝鮮拡声器放送などを処罰する南北関係発展法(対北朝鮮ビラ禁止法)をめぐり、国際的な論議が続いている。エリオット・エンゲル下院委員長やクリス・スミス下院議員など米国の多くの政治家が、対北朝鮮ビラ禁止法が北朝鮮の人権増進の努力と表現の自由を損ねるとして、問題を提起している。聴聞会も開くという。
米国の政治家たちはまず、一部の脱北民団体が米国などから巨額の支援金を受け取って無数に飛ばした対北朝鮮ビラで、はたして北朝鮮の人権と北朝鮮の人たちの暮らしが改善されたのかという質問に答えてほしい。対北朝鮮ビラが軍事境界線地域で暮らす120万人の韓国人の生活にどのような苦痛を与えたのかも一緒に考えてほしい。表現の自由と人権はとても大切な価値であるため、それをちゃんと実践するためには深い省察が必要だ。民主化を掲げ、“救いの手”を装った米国のイラク侵攻が中東でどれほど多くの人の人生を破壊し、米国の衰退の決定的な契機になったかを教訓にしてほしい。
国内の保守勢力は一部の脱北団体と手を携え、米国を“主戦場”とし、南北和解を批判するための道具として北朝鮮人権問題を執拗に提起してきた。これはブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言と北朝鮮人権法に大きな影響を及ぼした。2018年1月30日、トランプ大統領は一般教書演説で「北朝鮮の残酷な独裁政権ほど自国民を徹底的に野蛮に抑圧した政権はなかった」とし、6分間北朝鮮の人権について言及した。1万キロメートルを歩いて脱北したというチ・ソンホ氏は、この場に松葉杖をついて登場し、「松葉杖の英雄」として歓声を浴びた。彼はその名声をもとに現在国会議員となった。しかし「悪の枢軸」の圧迫も、トランプ大統領の“両極を行き来する外交”も、北朝鮮の人権改善には役に立たなかった。
韓国の進歩派が北朝鮮の人権について示してきた態度も、もはや正解とは言えない。北朝鮮核問題が解決され、平和が定着し、北朝鮮経済が発展すれば人権も改善されるという彼らの構想は、大筋間違っていなかったかもしれない。しかし、北朝鮮核問題で足踏み状態が続くにつれ、進歩派が人権問題を北朝鮮核問題と南北関係の後に回し、放置しているという失望が大きくなった。脱北民たちは進歩派が自分たちに背を向けたと挫折した。だからこそ、極右や保守派は彼らを利用でき、彼らが国際社会で“北朝鮮の人権”を独占するようになった。脱北民出身の分断学研究者、チュ・スンヒョン仁川大学教授とこの問題について話したことがある。彼は「韓国の保守派と進歩派は、北朝鮮と脱北民たちを自分たちが見たいように見ている。若い脱北民には進歩的な人が多いが、進歩派が彼らを無視している」と残念そうに述べた。
これからは進歩派も南北和解と平和を進展させると同時に、北朝鮮の人権改善に向けて努力しなければならない。アジアで最も立派に民主化を成し遂げたと自負する韓国が、国連をはじめ国際社会の北朝鮮人権改善に向けた努力により積極的に参加する一貫した姿勢を示すべきだ。進歩派の政治家と市民団体は脱北民たちとより多く交流し、協力をしなければならない。人権が“怪物”に悪用されないよう、できることから始めるべきだ。