本文に移動

中国左派学生の問い「中国は果たして社会主義なのか」

登録:2020-10-28 02:06 修正:2020-10-28 09:28
習近平思想を「21世紀のマルクス思想」としてまつり上げる中国共産党が、不平等に立ち向かって労働者を支援する左派学生を弾圧する現実は、奇妙な問いを投げかける。習近平指導部が掲げるマルクス主義の旗と、大学生や労働者が掲げるマルクス主義の旗のうち、どちらが本物なのか。
沈夢雨が2018年夏、佳士科技の工場労働者の労組設立を支援する活動の中で撮った写真。シャツには「団結は力だ」と書いてある=微博より//ハンギョレ新聞社

 2015年6月、沈夢雨(28)は中国南部に位置する広東省広州の名門、中山大学で数学・コンピューターを専攻し、修士号を取得した。最先端の情報通信(IT)企業に就職し、華やかな生活を送るには十分なスペックだった。彼女が選んだ道は、工場労働者だった。沈夢雨は「瞬間の興味のためではなく、私の人生の旅路に深く根ざした選択」と語る。

 彼女は、大学でサークル活動に参加したことで労働者の現実に目覚めた。ある日、彼女が農民工たちの現実についての講座を聞いていると、ある学生が聞いた。「先生、私たち大学生も既得権者だと言えるんですか」。「既得権者」という言葉に彼女の胸は痛んだ。豊かな家に生まれ、良い教育を受け、明るい未来の開けている自分とはあまりにもかけ離れた境遇の若者たち。「世界の工場」と呼ばれる中国東南部の工業地帯で青春を捧げて重労働に従事しているものの、何も持たない2億9000万の農民工たちの境遇を彼女は思い浮かべた。

 彼女は労働法を学びはじめるとともに、工業団地、農民工の居住地域、工事現場などを回り、労働者の現実を知った。2014年夏、広州の大学街で起きた清掃労働者たちのストは、彼女に大きな影響を与えた。管理会社が賃金と福祉費を搾取し、社会保険を滞納するなどの不当な行為を行ってきたことを労働者が告発したのだが、担当公務員らは何の関心も示さなかった。沈夢雨をはじめとする学生たちが20日あまり労働者とともに闘った末、管理会社から労働者の要求を受け入れるという約束を取り付けた。「今後も労働者と共に奪われた尊厳と権利を取り戻す」と彼女は誓った。

 大学院を卒業した沈夢雨は、広州の自動車部品会社の「日弘機械電子」の工場でエンジンと変速機を生産する労働者となった。「簡単な訓練を受けて初めて作業場に入った時、機械のごう音が鼓膜を突き、油のにおいがした。作業場には金属のほこりが充満していた。私はベンゼンなどの化学物質の危険を示す表示に胸がどきっとしたが、ほかの労働者たちは薄い使い捨てマスクをしていたり、それすらしていない人もいた」

 彼女はこのように劣悪な環境で働く労働者たちが鼻炎、気管支炎、難聴、白血球減少など、あらゆる病に侵されていることを知った。労働者にとって選択の権利とは、「賃金が低すぎて週末も休日勤務を選択せざるを得ず、労災を申請すればボーナスが削られるため、労災申請の放棄を選択せざるを得ず、管理者による虐待や悪口にも黙々と耐えることを選択するしかない」ということだと悟った。2018年3月末、同僚労働者の支持を得て賃金交渉代表に選出された沈夢雨が積極的な活動を始めると、会社の幹部は彼女を脅し、脅迫の末に解雇した。

 その頃、広東省深センの機械メーカー「佳士科技(Jasic)」で、労働者たちが独立労組の設立に乗り出していた。休日のない1日12時間労働、食事時間以外の休息禁止、罰金と超過勤務の強要など、抑圧的な労務管理に不満を感じた労働者が独立労組の結成に動いた。会社側は先手を打って御用労組を設立した。これに抗議する労働者は、急きょ1000人あまりの職員の中から89人の署名を得て、当局が管轄する中華総工会の地域事務所に労組設立届を提出したが、拒否された。独立労組の設立を主導した10人あまりの労働者は解雇され、逮捕された。

 7月末、沈夢雨は全国各地の左派大学生たちと「佳士科技労働者支援団」を結成した。沈夢雨と約50人の大学生は、警察署と佳士科技の工場の前で抗議デモを行うとともに、労働者の状況を伝える文章や写真などをSNSに掲載し、全国的な関心と呼応を得た。

 彼らの小さな羽ばたきは、無慈悲な弾圧に踏みにじられた。8月11日、沈夢雨は正体不明の男性たちに連れ去られた。8月24日未明、武装警察が宿舎を襲い、北京大学の学生だった岳昕をはじめとする大学生と佳士科技の労働者50人あまりを一斉に逮捕した。

 これを皮切りに、当局は2018年末から2019年初頭にかけて、中国各地で左派学生組織や労働運動組織の根絶に乗り出した。2018年11月、佳士科技の支援活動に参加した学生が関係する北京大学、人民大学、南京大学などの全国の主要大学で、マルクス主義学習組織の登録が禁止された。当局はマルクス主義学会の学生たちを呼び、沈夢雨、岳昕ら逮捕された学生10人が強制的に罪を自白させられる動画を見せながら、労働者に関するいかなる行動にも参加しないよう警告した。逮捕された岳昕の釈放を求める運動を繰り広げていた北京大学の学生数十人も逮捕された。2019年には広東省の代表的な労働関係NGOの活動家たち、労働者の情報を伝える独立メディアを運営していた人々が相次いで逮捕され、「国家政権転覆」「社会騒乱」などの容疑で懲役刑を言い渡された。沈夢雨や岳昕らは依然として行方が分かっていない。

佳士科技のストに参加した労働者と学生たち=佳士科技支援団ホームページより//ハンギョレ新聞社

 わずか50人あまりの大学生が労組を結成しようとして解雇された労働者を支援した「小さな事件」に、なぜ当局はこのような惨い弾圧を仕掛けたのか。

 2001年の世界貿易機関(WTO)への加盟以降、中国の輸出産業は急成長し、全国各地から農村出身の労働者が東部や南部の沿海地域の工場に集まった。戸籍で「農民」に分類されている者たちは都市で低賃金の長時間労働に耐え、住居、子どもの教育、福祉、医療などで差別を受けながら「2等市民」として生きていく。彼ら2億9000万の農民工たちの犠牲によって中国が稼いだ莫大な貿易黒字は、共産党、国有企業、権力層とつながった企業家たちに大きな富をもたらしたが、農民や農民工たちは成長の正当な分け前を受け取れていない。

 2010年代に入って、より良い処遇や独立労組設立などを求める若い労働者たちのデモと抵抗が広がり始めた。2010年、ホンダ自動車の部品工場で新世代の農民工たちが大規模ストに乗り出し、SNSを活用して自分たちの大義を広く伝え、ついに会社との交渉を通じて自分たちの要求を貫徹させたことは、中国労働運動史の重要な事件として記録された。

 その頃、中国南部では香港の市民団体などの支援を受けて労働運動組織が成長していた。一方では、中国の深刻な貧富の差や腐敗などの社会問題に関心を持った大学生たちが、マルクス学会で毛沢東思想の影響を受け、労働者たちと連帯する組職を作り始めた。

 中国共産党の歴史を振り返ると、エリートたちが農民と手を握った時、小さな火種が広野を焼き尽くすように革命の炎を巻き起こした。1989年の天安門デモの限界は、学生たちが労働者、農民としっかり連帯できなかったことだった。佳士科技事件は、マルクス主義と毛沢東思想(毛沢東主義)によって中国社会を変えようとした大学生と労働者が初めて「労学連帯」を実現し、共に行動に出たという点で、中国共産党には非常に敏感な警告音となったことだろう。その年春に始まった米中貿易戦争で当局が感じた危機感も、強硬弾圧の原因とみられる。

 左派学生たちが労働者と連帯した背景には、今の中国を社会主義とみなせるのかをめぐる論争があった。改革開放以降の中国の状況を中国共産党は「中国の特色ある社会主義」と規定しているが、その現実が果たして社会主義なのか、うわべを替えただけの資本主義なのかという論争は数十年間続いてきた。

 1990年代初め、共産党内の左派が鄧小平の推し進める市場化改革に反対して提起した「姓は社会主義なのか資本主義なのか(姓社姓資)」という論争があった。国有企業の労働者たちが大規模なリストラに見舞われた1990年代には、新左派が「中国が新自由主義を受け入れ、不平等が拡大している」と批判したが、彼らはその後、胡錦濤政権が農業税廃止などで不平等を緩和しようとする政策を推進し、2008年のグローバル金融危機で西欧型モデルへの不信が増大すると、中国国家の役割を肯定する「中国モデル論」へと急速に傾いた。

2010年、中国広東省のホンダ自動車の部品工場で、若い労働者たちがストに突入した/AP・聯合ニュース

 習近平政権の成立後、中国共産党が労働運動を強く弾圧すると、2016年には左派のオンラインサイトで再び論争が始まった。人民大学の蘆荻教授らは、中国国家が金融化を抑制し、国有経済を土台として人民の福祉を向上させて新自由主義に一定程度対抗しているため、進歩的変化の軸と評価すべきと主張した。これに対し、香港大学の潘毅教授らは、中国はすでに新自由主義的な世界システムに完全に同化した資本主義国家となり、労働者を弾圧しているため、労働者と連帯して中国の現体制を打倒の対象とすべきと主張した。

 佳士科技の労働者を支援した左派大学生たちは、潘毅教授の影響を強く受けていたことが知られる。ソウル市立大学のハ・ナムソク教授は「佳士科技労働者と連帯した学生たちは『社会主義国家である中国が、なぜその体制の主人たる労働者たちの権利を保障せず、むしろ資本家の肩を持つのか』という問いを投げかけ、この現実を正すための行動に出た。共産党による統治と社会主義体制を否定するのではなく、直接労働者たちを組織して革命の理想からかけ離れた体制を正すことを目標とした」と説明する。

 しかし、佳士科技運動は無残にも敗北した。彼らの活動を糸口として、当局はあらゆる困難を乗り越えて成長してきた労働運動と学生運動の主要人物と組織を壊滅させた。労働者と学生の理想主義と犠牲の精神にもかかわらず、彼らが拙速な戦略によってあまりにも大きな犠牲を招いたという非難が起こった。彼らが毛沢東主義路線を掲げたため、自由主義勢力と連帯できないという批判もなされた。

 中国共産党は「習近平思想は現代中国のマルクス主義であり、21世紀マルクス主義の新たな発展」と強調する。今学期から北京大学、清華大学など、中国の37の主要大学が習近平思想の講義を始めた。習近平思想を「21世紀のマルクス思想」としてまつり上げる中国共産党が、不平等に立ち向かって労働者を支援する左派学生を弾圧する現実は、奇妙な問いを投げかける。習近平指導部が掲げるマルクス主義の旗と、大学生や労働者が掲げるマルクス主義の旗のうち、どちらが本物なのか。

※沈夢雨の書いた文「後悔のない選択」(2018)、中国労働通信(CLB)、クンチャオなどの資料をもとに作成

//ハンギョレ新聞社

パク・ミンヒ|論説委員。大学と大学院で中国と中央アジアの歴史を学ぶ。中国の人民大学で国際関係を学び、2009年から2013年まで北京特派員として中国各地を取材。著書に『中国にインタビューする』(共著)、翻訳書に『中国とイラン』などがある。「嫌中」に反対している。中国と中国人に対する公正な理解と同行を望んでいる。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/967414.html韓国語原文入力:2020-10-27 15:35
訳D.K

関連記事