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[コラム] アベノミクスの教訓

登録:2020-09-22 05:09 修正:2020-09-22 07:55

 先日、日本の安倍晋三首相が首相の座から退いた。彼の残した重要な遺産はやはり、長期不況とデフレに見舞われた日本経済を回復させようとしたアベノミクスだ。人口の変化と経済構造が似ている韓国は、日本を自分たちの未来として注視してきた。また、低成長と低インフレーション、高齢化や政府負債の増加など、最近「日本化」の憂慮が大きい先進国もアベノミクスに注目した。

 アベノミクスは、半分成功であり半分失敗だった。経済成長はやや回復したものの、日本経済は昨年第4四半期以降、再び景気低迷に陥っている。2%のインフレ目標は達成できなかったが、デフレからは脱却しつつあるというのは希望が持てる。一方、高齢者と女性を中心に雇用が大幅に増え、雇用率は2012年の56.5%から2019年には60.6%にまで高まっているが、2019年の実質賃金水準が2012年より低下しているほど、賃金上昇は振るわなかった。ただし時間当たりの実質賃金は高くなり、世帯の所得分配は悪化しておらず、労働所得分配率が最近回復しているのは幸いだ。しかし、2017年以降、家計の可処分所得は増加しているにも関わらず、将来の不確実性のため貯蓄率が高まり、消費拡大はなかなか進まない。

 では、アベノミクスが与えてくれる教訓とは、どのようなものだろうか。第一に、長期不況を克服するためには、政府の一貫した拡張的なマクロ経済政策が重要だということだ。保守的だった日本銀行を動かしたアベノミクスの第一の矢は、金利の引き下げや円安を通じて、日本経済が低迷から脱し、回復する基礎を提供した。もちろん、通貨政策では人々のインフレへの期待を刺激するには限界があったことは事実だ。

 第二に、高い政府負債比率をあまり心配する必要はないということだ。日本経済は国民所得に対する政府負債比率が230%を超えるほど財政問題が深刻で、アベノミクスに対する懐疑論が高かった。しかし、経済回復とデフレ脱却により、名目国民所得は2012年会計年度の494.4兆円から2019年には552.5兆円へと増加し、消費税も引き上げて税収が増加した。また、持続的な国債買い入れで、中央銀行がすでに国債の約47%を保有しており、10年国債の金利はゼロ水準だ。実際、安倍政権になって政府支出はあまり増えていないため、国民所得に対する財政赤字と国債発行額は減り、政府負債比率は安定化した。

 むしろ、低迷を招いた二度の消費税引き上げ問題をあげて、財政拡張は正しかったが、十分ではなかったという主張が提起されている。今年第2四半期は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の衝撃を受け、経済成長率は前期比マイナス7.9%を記録した。日本政府はこれに対応し、全国民に対する10万円の現金支給、自営業者と企業への家賃や雇用維持に対する支援など、国民所得の約10%に及ぶ大規模な財政拡張を実施した。短期的には政府の負債は増えるだろうが、深刻な経済不況を防ぐことが長期的には成長と財政にもプラスとなるだろう。

 アベノミクスの最後の教訓は、健全な経済回復のためには、マクロ経済の構造的バランスを回復することが最も重要だということだ。日本は、非正規労働者の増加などを背景として、2000年代に入ってから、生産性の上昇に比べて賃上げが大幅に遅れた。安倍政権も口では賃金引き上げを求めたものの、限界は大きかった。労働と資本のバランスなくして安定した消費と総需要の拡大は難しいだろう。このため、4本目の矢として賃上げが必要だという声が強く、日本政府も法的に非正規労働者の差別を撤廃し、最低賃金を持続的に引き上げてきた。

 安倍政権の顔だった菅義偉を立てた新政権も、アベノミクスのマクロ経済政策の遺産を継承する見通しだ。彼はメディアで、アベノミクスの点数は90点だと思うと述べ、他の候補より高く評価し、記者会見でも雇用維持に向けた政府の積極的な対応を強調した。それと共に、官僚の既得権を批判してきた彼は、規制改革や行政のデジタル化、そして通信費の引き下げや地方銀行の改革などを推進するものと見られる。

 日本経済はよく、マクロ経済学の墓場と呼ばれてきた。ゼロ金利でも物価は上がらず、失業率が低くても賃金は上がらず、従来の経済学の常識が通じなかったためだ。今や米国や欧州も似たような現象に直面しているのだから、日本は他国の未来を先に経験しているわけだ。アベノミクスは幕を閉じたが、誰の名前をつけようが、不況に立ち向かう政府の努力は続くだろう。重要なのは、マクロ経済学を超えて政治経済学という視点を忘れないことだ。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/963008.html韓国語原文入力:2020-09-21 16:22
訳D.K

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