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[コラム]この頃、北朝鮮が飢えない理由は「多収穫農民」

登録:2019-01-06 22:25 修正:2019-01-07 11:32

 金正恩時代に突入して様々な改革的な実験の末に、個人に特定農地を耕作させ、それにともなう分配を施行する「圃田担当責任制」を定着させた。この制度は、生産と分配の単位が個別農民レベルに下りてきたもので、北朝鮮農業の根本的な改革を意味する。事実上、生産競争の基本単位を集団ではなく個人に再設定したのだ。

イ・ジョンソク元統一部長官・世宗研究所首席研究委員//ハンギョレ新聞社

 今年、金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長の新年の辞に対する関心は、非核化と朝米関係の部分に集中したが、私の視線をひきつけたのは農業部門の成果を評価して使った「多収穫を成し遂げた単位と農場員たち」という表現だった。「協同農場」に象徴される北朝鮮の既存社会主義的集団主義農業方式では生産・分配単位としての個人(農場員)は存在できない。集団主義に反するためだ。農場、作業班、分組があるだけだ。

 ところが、北朝鮮最高指導者の新年の辞に「多収穫農場員(農民)」が登場した。何を意味するのだろうか?北朝鮮で、個別農民が生産と分配の基本単位になる構造的な農業改革が進行していて、これを公式化するという意味だ。

 この頃の北朝鮮を観察して、最も不思議で気になっていたのが食料事情だった。わずか20年前に、少なくとも数十万人の餓死者が発生し、全国が流浪乞食をする住民であふれた北朝鮮だった。2000年代に入ってからも、食料事情が好転するほどの特別な契機はなく、毎年対外援助と大規模食糧輸入でかろうじて餓死状態をまぬがれる程度だった。

 それで多くの人が、最近数年間に加えられた高強度の対北朝鮮制裁によって北朝鮮で深刻な食糧難が発生するだろうと予想した。しかし、そうしたことは起きなかった。北朝鮮に対する国際社会の食糧支援が中断されてから相当の期間が経過した。最近4~5年間、北朝鮮が中国やロシアからとうもろこしや小麦を大規模で輸入したこともない。そのうえ、住民が食料を得るために不法に作った菜園も造林されたり放置されて、むしろ減っている。

 どういうことだろうか?食糧生産が増加しているのだ。多くの専門家が、北朝鮮の慢性的食糧難は集団主義的農業方式に起因すると診断してきた。この方式では、農民の中から生産競争や生産熱意を引き出すことはできないため、食糧増産のためには中国のように個別農家と請負契約を結ぶ方式の個体農の形態に構造改革がなされなければならないと主張した。しかし、北朝鮮が個人主義と市場経済の拡散に追い立てるこうした改革を断行しにくいというのが大勢の見解だった。

 ところが、北朝鮮が本当に生産増大を目標に「圃田担当責任制」という農業改革を推進している。北朝鮮で「圃田」とは「穀類やそれ以外の作物を植え育てる田畑」を意味する。北朝鮮も大規模集団を基準とした生産・分配システムが農民の生産意欲を下げるということを経験的に知り、これまで協同農場の末端生産・分配単位を15~20人程度に縛った班管理制を運営してきた。しかし、これも食糧増産には特別役に立ちえなかった。

 これに対し、金正恩時代に突入して様々な改革的な実験の末に、個人に特定農地を耕作させ、それにともなう分配を施行する「圃田担当責任制」を定着させた。この制度は、生産と分配の単位が個別農民レベルに下りてきたもので、北朝鮮農業の根本的な改革を意味する。事実上、生産競争の基本単位を集団ではなく個人に再設定したのだ。2018年から圃田担当責任制に言及し始めた労働新聞は、農場園別に責任を負う圃田の規模を能力に応じて差別化して、それにともなう分配で差別を強調している。特に分配における平均主義が、農民の生産熱意を下げる主犯だとし、これを社会主義分配原則の違反と規定して、強力に警戒している。同じ班の中でも農民別に生産量と目標達成の有無により所得格差が発生せざるをえないという見解だ。

 このように最近の北朝鮮は、農業管理方式を根本的に改革し、食糧増産の転換期的契機を設けた。もちろん北朝鮮の食料事情は、国連食料農業機構(FAO)が昨年にも64万トンがさらに必要と話すほど、相変らず厳しい。しかし、過去に比べれば持続的に顕著に改善されている。

 金正恩委員長の農業改革意志を推し進めているのは、経済発展に対する熱望だ。彼は新年の辞で「人民により多くの肉と卵」を供給するために、これまで消極的に許容してきた「個人副業畜産」活動を公開的に推奨した。その背景は、より多くの生産が可能ならば、集団も個人も共に必要だという認識だ。

 結局、北朝鮮は経済発展のために「一人は全体のために」服務した社会の限界を突破するために、全体が一人の持つ個別的能力を評価して、制度的にこれを保障する方向で改革を始めた。この変化は、今後の南北協力と朝鮮半島の未来に重大な影響を及ぼすだろう。非核化問題に劣らず、これに対する精密な分析と対応が必要な時だ。

イ・ジョンソク元統一部長官・世宗研究所首席研究委員

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/877203.html韓国語原文入力:2019-01-06 19:32
訳J.S

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