金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長の“年内”訪韓が事実上できなくなり、ドナルド・トランプ米大統領が“来年初め”と話した2回目の朝米首脳会談日程もはっきり決まらない。むしろ米国は人権や宗教の自由の問題を挙げて対北朝鮮制裁を強化している。南北鉄道連結のための京義線(キョンウィソン)・東海線(トンヘソン)北側区間の共同調査と、非武装地帯(DMZ)監視警戒所(GP)22カ所の破壊・撤収・検証など“分断の歴史に一線を画す”進展がなされているが、非核化交渉の膠着で色があせている。
韓国の対外政策第1位は常に北朝鮮問題だ。経済・通商外交、朝鮮半島関連国との関係などが次の席を占める。南北が対決から対話を経て協力へ進むことは、それ自体が大きな成果だ。
だが、トランプ政府の優先順位は違う。貿易戦争を前面に出した対中国関係が最前面にある。イラン封鎖をはじめとする中東問題、難民・移民者対策、ロシア牽制などがその次の順位だ。トランプ大統領は、金正恩委員長との6月の首脳会談に前後して、北朝鮮問題を最優先事案に上げたことはあるが、今はそうではない。彼は先週末にも非核化交渉と関連して「急ぐことはない」と話した。北朝鮮の気勢を殺して制裁という手綱をうまく掴んでいるのに急ぐ必要はないという態度だ。
ここ一年間、南北と米国の首脳が非核化に関連する議論を主導してきた。これを基に具体的な推進力を作り出し、非核化方法の細部の枠組みを決めて実践に入らなければならないが、現実はそうではなく既存の動力まで萎縮させている。
今年4月に赴任したマイク・ポンペオ米国務長官は、徹底した“トランプマン”だ。トランプだけを眺め、彼の意を推し量って動く。北朝鮮問題で創造力と推進力が弱いのは彼の責任が大きい。次官6人のうち4人がまだ空席であるほどに、国務省の組織力も落ちている。こうした雰囲気では、トランプ大統領が意志を持って方向を定めないかぎり交渉が活力を得ることは容易でない。
金正恩委員長にしても一旦停止状態で苦心している。経済強国と自力更正を強調しているのは弥縫策であり苦肉の策だ。彼がトランプ大統領との首脳会談と1・2・3回目の南北首脳会談を通して明らかにした非核化原則に対して、北朝鮮の権力層のすべてが快く同意したとは思えない。核・ミサイルは、北朝鮮が持っている交渉カードのほとんど全てだ。誰が協議にはいろうが、生半可な提案をすることはできない。危険を甘受できる人は金委員長だけだ。
北朝鮮と米国は、互いに相手の変化を要求し先に動くことをはばかっている。冷戦式対決構造の惰性に加え、失敗した場合に政治的負担を背負うまいとする消極性が作用している。こうした“待ちの戦略”では何も出てきはしない。米国では下院を掌握した民主党がトランプ大統領の対北朝鮮アプローチに文句をつけ、北朝鮮ではこれ以上退いてはならないという雰囲気が大きくなりやすい。状況が今以上に悪くなれば、復元が一層難しくなる。
新たな試みが必要な状況だ。直ちに南北首脳会談をすることが容易でないならば、韓国政府が高位級特使外交を通じて新たな出発を試みることが一つの方法だ。北朝鮮と米国、中国に送る特使は、首脳らに会ってはっきりと意思を伝達し、答を受け取れるクラスでなければならない。
当然ながら、こちらが考える具体的な案がなければならない。非核化における難しい問題は、何を(非核化の内容)、どんな順序で(段階と相応措置)、誰が(執行および検証主体)、いつまでに(目標期間)するかということだ。今はそれらのどれに対しても関連国の立場が完全には一致していない。最も重要なことは、最初と二番目だ。北朝鮮はどういう内容の非核化をするのかを出さなければならず(申告)、米国は段階別の相応措置を提示しなければならない。
こうした議論が葛藤を経ずになされることはありえない。われわれが外交力を集中させ、その間隙を埋めなければならない。北朝鮮と米国を一歩ずつ近寄らせ手を握らせて、中国に合意内容を保証させる基本公式は相変らず有効だ。どの交渉でもそうであるように、信頼の構築が核心要素だ。今すぐにではなくとも、日本とロシアの協力も必須だ。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、数回の南北、韓米首脳会談を通して、非核化・平和体制交渉の動力を維持してきた。ともすればこうした努力が根をおろせないまま宙に浮いてしまいかねない。高位級の特使派遣は、首脳間の信頼水準を高め新たな土台を作る努力の一つだ。首脳たちの意志にすべてを寄り添わせることは、必ずしも望ましくはないものの、より良い代案を考えられないならば行動に出なければならない。意思がなければ道も作られない。