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[寄稿]制裁と信頼の関係

登録:2018-09-04 06:14 修正:2018-09-05 03:17

過去、力で解決しようとした人たちは、よく「時間は誰の味方か」という質問を投げかけた。振り返ってみると、愚かな質問だった。選挙を行う国とそうでない国の時間の概念をどうやって比較できるだろうか。時間はいつも、待っている人ではなく、解決しようとする人の味方だ。

6月12日シンガポールで初の首脳会談に臨んだ金正恩北朝鮮国務委員長とドナルド・トランプ米大統領=シンガポール//ハンギョレ新聞社

 人類初の経済制裁は失敗した。なぜ2421年前のアテネがメガラに加えた貿易禁輸措置は、ペロポネソス戦争の導火線になったのだろうか。アテネはメガラ布令を「些細な措置」と思ったが、メガラは「敵対の意図」として受け止めた。圧力は相手を屈服させることができず、むしろ憤りを生んだ。脅威が恐怖を呼び、制裁は戦争へとつながった。現代の外交でよく使われる制裁も同じだ。北朝鮮の核問題を解決する過程で制裁という手段は、どれほど効果的なのだろうか?

 米国は(北朝鮮が)非核化するまでは制裁を維持すると言い、9月1日付けで北朝鮮に対する旅行禁止措置を再び延長した。果たして制裁の維持は、朝米関係にどのように作用するだろうか? まず、制裁は6月12日シンガポール首脳会談で朝米両国が合意した「新たな関係」にふさわしくない。制裁は力で解決する過去のアプローチであるからだ。

 さらに、制裁を維持は「関係正常化」の合意とも衝突する。法律的に外交関係と経済関係を区別するのは難しい。もし北朝鮮と米国が外交関係の正常化を目指して、連絡事務所を互いに設置するとしよう。果たして敵国でありテロ支援国と連絡事務所を開設することができるだろうか? 敵と規定する法律を維持しながら、関係を正常化することは難しい。だから「制裁を維持する」というのは、「関係正常化をしない」という宣言に他ならない。

 一部では交渉を有利に進めるために、制裁を維持しなければならないと主張する。確かに、制裁は北朝鮮経済に否定的影響を及ぼす。2017年下半期に採択された国連の対北朝鮮制裁は包括的かつ具体的であるため、昨年より今年は(北朝鮮の状況は)さらに深刻になるだろう。制裁は経済建設に集中しようとする北朝鮮を圧迫する手段であるのは間違いない。だからこそ、交渉力を高められる。

 しかし、制裁を続ければ、失うものがある。他ならぬ信頼だ。朝米首脳会談で「信頼構築で非核化を成し遂げよう」と合意した理由は、「力に基づいた過去のアプローチ」が失敗したからだ。新たな関係、新たな出発、新たな歴史に合意しておいて、なぜ失敗した過去を繰り返そうとするのか、理解に苦しむ。制裁を維持した場合、得られるのは過去の失敗であり、失うものは歴史の機会だ。

 一般的に、長期にわたって包括的制裁を続けるのが困難なのには理由がある。制裁はいつも人道的苦痛を伴っており、制裁の最も大きな被害者は脆弱階層であるからだ。本来の意図とは関係なく、制裁対象国の政策決定者は外部の脅威を名分に掲げ、権力を強化する傾向がある。まさに「結集効果」だ。だから、一般的な国際政治で、包括的制裁は概ね「スマート制裁」に切り替える傾向があるが、北朝鮮に関しては逆方向になっている。包括的制裁は悪化の時期の産物だが、解決局面でもそのまま維持しようという主張が果たして国際社会の共感を得られるだろうか?

 制裁が成功するためには、国際的協力が重要であるが、容易ではなさそうだ。国際社会の対北朝鮮制裁が実質的な効果を発揮した理由は、北朝鮮の対外貿易で90%以上を占める中国が制裁に参加してからだ。しかし、現在トランプ政権は中国と貿易戦争を繰り広げている。関税報復から金融制裁へ、さらに技術覇権をめぐる対決の様相は当分の間は出口を探すのが難しいだろう。国際協力を否定して、制裁の連携を保つことができるだろうか。米国が中国と対決しながら制裁協力を維持するのは難しいだろう。

 中国はすでに朝中関係の修復に伴い、国連制裁を「厳格な履行」から「正常な履行」へと転換した。北朝鮮が現在のように状況を悪化させない限り、中国は国連決議内容のうち「北朝鮮の行動によって措置を強化・修正・中断・解除できる」という条項を本格的に提起できる。米中貿易戦争によって北朝鮮の裏口に隙が生まれた。

キム・ヨンチョル統一研究院院長//ハンギョレ新聞社

 制裁は手段であって、目的ではない。制裁という手段に執着して非核化という目標を失ってはならない。現在の膠着状況で、再び非核化交渉を加速化させるためには、安全保証の日程を提示しなければならない。終戦宣言をはじめ、平和体制の日程だけでなく、関係正常化のタイムテーブルを提示してこそ、本格的な非核化の扉を開くことができる。もちろん、関係正常化には当然制裁緩和のタイムテーブルも盛り込まれなならない。

 過去、力で解決しようとした人たちは、よく「時間は誰の味方か」という質問を投げかけた。振り返ってみると、愚かな質問だった。選挙を行う国とそうでない国の時間の概念をどうやって比較できるだろうか。時間はいつも、待っている人ではなく、解決しようとする人の味方だ。

キム・ヨンチョル統一研究院院長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/860301.html韓国語原文入力:2018-09-02 19:11
訳H.J

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