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[寄稿]金正恩の非核化意志と“江南経済開発区”

登録:2018-03-25 22:58 修正:2018-03-26 08:48
平壌大同江沿いの高級マンション団地//ハンギョレ新聞社

 過去6年間、金正恩(キム・ジョンウン)は、私たちが穴があくほど見つめてきた一方の手で核・ミサイル開発を指揮し、私たちが見逃した他方の手では自身が約束した“人民の富貴と栄華”に向かって北朝鮮の経済を変えてきた。彼は経済を開放し、国際標準を追って北朝鮮経済の構造と体質を変化させてきた。

 北朝鮮の金正恩委員長は本当に核を放棄するだろうか?金正恩が「軍事的威嚇の解消と体制の安全保障」を条件に核放棄の用意ができていると明らかにし、これを基に南北首脳会談と朝米首脳会談の開催が予定されている今でも、多くの人がこの疑問を提起している。筆者が見るに、金正恩には核放棄の代わりに切実に得たいものがあるので、彼の非核化の意志は信じるに値する。信じ難いことだが彼が渇望するのは北朝鮮経済の跳躍だ。

 北朝鮮当局は昨年12月21日、大同江岸に位置する平壌市江南郡(カンナムグン)古邑里(コウムリ)一帯を“江南経済開発区”に指定した。2013年5月に経済開発区法を作って以来、22番目に指定された経済開発区だ。北朝鮮で経済開発区とは「他国の投資を引き込んで経済を発展させる目的で投資と企業の諸般の活動に有利な環境を保障する特定地域」を称する。すなわち、外国企業の投資を誘致して経済を発展させるために作った経済特区だ。

 ところが、北朝鮮メディアの“江南経済開発区”指定報道に接した専門家たちは、ほとんどがとんでもないことだと感じた。昨年末は北朝鮮の相次ぐ核・ミサイル挑発に対抗して国際社会の対北朝鮮制裁が最高潮に達した時期なので、外部の対北朝鮮投資は不可能な時期だった。こうした状況で経済開発区を新設するとは理解し難い行動だった。それではなぜそうしたのだろうか?実は、金正恩はすでに国連の対北朝鮮経済制裁を早期に解くための戦略として、条件付き非核化を決心していたためではないか。

 金正恩は権力の座に上がった後の初めての演説(2012年4月)で「我が人民が再び腰のベルトを引き締めずにすむようにし、社会主義の富貴と栄華を思う存分享受できるようにしようということ」が自身の「確固たる決心」だと明らかにした。数十万人の餓死者を出した「苦難の行軍」時代を生き抜いてきた北朝鮮住民に送るメシア的メッセージであった。もちろん外部観察者にとっては、この言葉は「慢性的貧困」を遺産として譲り受けた経験の乏しい若い指導者の幼稚な実力以上の虚勢と感じられた。

 しかし、私たちが核・ミサイル挑発という窓を通してのみ金正恩を見ている間に、彼は他方でこのメッセージの実現のために動き、伝統的な北朝鮮の指導者イメージとは異なる姿を見せた。彼は形式に縛られず、内容を重視する実用主義的側面を見せ、目標の実現可能性に集中し、与えられた課題が履行されているかを点検する実践型リーダーシップも見せた。

 過去6年間、金正恩は私たちが穴があくほど見つめてきた一方の手で核・ミサイル開発を指揮し、私たちが見逃した他方の手では自身が約束した“人民の富貴と栄華”に向かって北朝鮮の経済を変えてきた。彼は経済を開放し、国際標準を追って北朝鮮経済の構造と体質を変化させてきた。その結果、制裁の中でも北朝鮮経済は緩やかながらも成長した。そして他の低開発国では見られなかった次の様な特別な経済資源を保有することになった。

 まず、北朝鮮は世界で最も低い文盲率と最短11年制の義務教育を終えた勤勉な労働力を保有した。彼らの優秀性は、開城(ケソン)工業団地の経験と中国企業に雇用されて示した高い労働生産性で立証された。そのうえ、最近は軽工業の技術力も尋常でない。先日、ある集いで平壌に行ってきた海外僑胞が、北朝鮮産の「ゴマチョコレート」一袋を取り出した。多くの人が食べてみて、国産製品に遜色ないと品評した。低開発国家で生産した嗜好品とは思えないほどだった。それだけではない。北朝鮮は、低開発国家では想像さえできない数万人の情報技術(IT)高級人材を有している。

 おそらく外部の資本と技術がこの特別な資源と結合すれば、北朝鮮経済は私たちが想像する以上にはるかに飛躍的に成長するだろう。金正恩もそのことをよく知っているので、経済を開放し全国各地に経済開発区を作ったのだろう。しかし彼は、北朝鮮が高強度の経済制裁を受ける限りは自身が夢見るユートピアに近づけないということを悟った。それでは残る手は経済制裁の解除だ。

イ・ジョンソク元統一部長官・世宗研究所首席研究委員//ハンギョレ新聞社

 まさにこうした脈絡で、金正恩が非核化の意志を持つことになったのだろう。金正恩のユートピアが、一日三食“人民”が飢えない程度だったとすれば、彼は非核化に応じずに持ちこたえただろう。しかし、彼は中国やベトナムよりさらに高い水準で高度成長を繰り返す北朝鮮経済を夢見る。そして幸いなことに、彼は北朝鮮が経済制裁から抜け出して米国との外交関係を樹立した正常国家として出てこそ、このユートピアに向かった道が開かれるという事実を知っていると見られる。

イ・ジョンソク元統一部長官・世宗研究所首席研究委員

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/837587.html韓国語原文入力:2018-03-25 19:05
訳J.S

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