登録 : 2017.04.07 00:22 修正 : 2017.04.07 07:10

THAAD軋轢で中国内で反韓感情が拡散する中で、天津市内のあるフィットネスクラブの壁に裂けた太極旗が懸かっている。その横には「我々はロッテ事件を怒っているだけで韓国の民衆に怒っているわけではない」と書いた紙がはられている=天津/聯合ニュース
 妻は夫が靴を履く音を聞いた。「気を付けてね」返事はなかった。「早く帰ってね」やはり返事はなかった。最近、夫の外出は妻にとって最大の心配の種だった。

 仇甫は家を出ると、北京の望京駅に向かいながら、妻に答えなかったことを後悔した。もっとも玄関のドアを閉じて「ウン、分かった」と声を喉まで出してはみたが、ちょうど玄関の前を中国人の男が三人、大声で笑いながら通っていった。とばっちりを食う恐怖。この頃、北京では大きな声で韓国語を喋るのはためらわれる。

 地下鉄に乗った。仇甫はスマートフォンでニュースを見た。先日、ワールドカップ地域予選で中国に敗れた後、ニュースも面白くない。韓国が勝っていたなら中国人の怒りで恐怖感は加重されただろうが自尊心は保てただろう。もう中国に勝てるものなんてあるのか。

 ため息をついて頭を上げた時、仇甫は周辺の乗客が自分の画面を容易に覗ける位置にあることを感じた。中国人と視線があうかと緊張して、新浪とか百度とか普段はよく見もしない中国ニュースアプリをあたふたと押す。ハングル画面を見ている人は他人の目につきやすい。乗客たちは確実に私を見たし、私が韓国人だと分かっただろう。北朝鮮の人のふりをしようか。列車が次の駅に着くなり仇甫は慌てて降りた。

 苦しい息をこらえて、頭を上げると後輩が通うエンターテインメント会社のある所だった。わずか1年前、この会社のドラマが中国で猛烈な人気を得て、肩で風を切って歩いていたが「限韓令」以後の数カ月は仕事がなくて遊んでいると伝え聞いた。後輩を呼び出すと、会社はどんどん職員を整理して、彼もまもなく韓国に行って新しい仕事を探すと言った。彼は「この4~5年が私たちが中国に大きな影響を与えた唯一の時期ではなかったでしょうか。その時期をここで過ごせただけでも私は運が良かったんですよ」と言って別れた。

 その時、韓国大使館の職員が仇甫の視野に飛び込んで来た。仇甫が「この頃、仕事がやりにくいですね」と言うと、彼は「ここの韓国企業は、韓国が決して大国に屈しない強小国だという強靭なイメージが必要だと言って、政府には淡々と対応してほしいと建議しています」と言った。仇甫がいぶかしそうに「中国にいる韓国の企業人が皆THAADの配備に賛成していると思いますか?」と尋ねると、彼は横にいた部下を突然ポンとたたいて「オイ、そうか?」と訊く。部下はかたい表情で「そうです」と答えた。仇甫は二人の外交官を見て笑いながら「今日も良い一日を」と言って別れた。ああ、むなしくて暗たんたる今日この頃。

 大通りでタクシーを呼んだが100メートル手前で誰かが乗った。やられたと思っていると、そのタクシーが仇甫の前に停まり、顔なじみの人が顔を赤くして降りた。特派員として来ている新聞記者だった。「韓国人かと言うので、そうだと言ったら降りろと言われた。クソッ!」彼は石を力いっぱい蹴った。石は飛んで行って、路肩に駐車していた現代車に力なく当たった。これが不幸なのか幸いなのか。2012年、険悪だった時期に日本車に当たったのなら、大勢が群がって寄ってたかって叩きつぶしただろう。今の中国人は「同胞の財産」だと言って、そんな事はしない。記者と仇甫はあわててその場を立ち去った。

 翌午前1時の望京駅。旅行業界で働く先輩が酔って足取りがフラついていた。「仇甫、俺は今日も中国企業に行って、どうか少しでも売ってくれないかと頭を下げてきたよ」。「無駄と分かっているのにそこまでするんですか?」「だからって何もしないでいられるか。祈るだけでもしなけりゃ」。先輩は数日前、インターネットで“護身用”だと言いながら仇甫と一緒に購入した、中国語で“THAAD反対”とプリントされたTシャツを着ていた。

キム・ウェヒョン北京特派員//ハンギョレ新聞社
 仇甫は早足で自宅に向かう。もしかしたら今後は、妻があえて『気を付けて』と言わなくても、外出を自制するかも知れない。

※タイトルの<仇甫氏の一日>は1934年に書かれた朴泰遠の小説<小説家 仇甫氏の一日>から取ったもの。1960年代には作家の崔仁勳も同名小説で60年代後半期の険しく憂鬱な時代を描いた。この作品は仇甫氏を主人公として前に出し、主人公が一日に体験する事件を時間順に配列して作家の自意識を表現した。

キム・ウェヒョン北京特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2017-04-06 18:38
http://www.hani.co.kr/arti/international/china/789654.html 訳J.S(1926字)

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