来年1月20日にドナルド・トランプ米行政府がスタートする。外交安保分野の閣僚指名者の面々は、トランプの政策が剛性に出るだろうことを示唆している。12月2日、トランプが「一つの中国」の原則を破って台湾総統と通話し、中国の逆鱗に触れた。22日、プーチンが核能力強化を宣言するとトランプも直ちに核能力強化を宣言した。米・中・ロ間の葛藤と離合集散が複雑に展開されることが予想され、その余波が朝鮮半島にまで押し寄せるだろう。
したがって、来年選出される韓国の大統領は就任初めから押し寄せる外交安保の荒波の中で「韓国号」が難破しないように死闘を繰り広げなければならないようだ。大統領が自ら第一線に立たねばならない場合も少なくないだろう。ところで、首脳外交では参謀が書いてくれたものだけ読んでいては国家利益をちゃんと守ることができない。大統領本人の確固たる哲学と所信をもって絶対に相手を説得するのだという底力が必要だ。読者の理解を助けるために、大統領の哲学と所信と果断性がなかったなら戦争に巻き込まれるところだったというエピソードを紹介する。
2002年1月29日(米国時刻)、ブッシュ米大統領が議会演説で、イラン・イラク・北朝鮮を「悪の枢軸」と規定した。2001年の9・11テロがアルカエダの仕業であったから、その背後と推定される国々を悪の枢軸として規定することにはそれなりの理由があった。しかし北朝鮮が悪の枢軸に含まれたのは若干意外であった。あの頃は北核問題もミサイル問題もなかったからだ。筆者はちょうどその日の午前(韓国時刻)に統一部長官の発令を受けたのだが、そのわずか12時間後に米国の対北政策が超強硬に転換することを通報されたわけだ。韓国軍の戦時作戦統制権を持っている米国が彼らの必要のために対北軍事措置を取れば、それはすなわち朝鮮半島の戦争だ。そんなことになれば 6・15南北首脳会談以後順行していた南北関係はオールストップとなり、経済は破綻せざるを得ない。ブッシュの「悪の枢軸」演説は悪材中の悪材であった。
ところが20日余り後の2月20日午前、大統領府で開かれた金大中-ブッシュ首脳会談後に状況が反転した。 その日の午後、韓米首脳が都羅山(トラサン)駅(京義線の最北端駅)のホールで合同演説をすることになっていたが、先に演説に立ったブッシュが「私は金大中大統領の勧告に従って、北朝鮮を攻撃しない。北朝鮮と話し合う。対北人道的支援もする」と言ったのだ。意外だった。「いったい午前中に大統領府で何があったからあのように変わったのか」という疑問を持たざるを得なかった。 その答はソウルに戻る大統領専用列車の中で分かった。金大中大統領が「さっきのブッシュ大統領の演説、聞きましたか? 私は今日の午前中100分間、全身の力を振り絞ってブッシュを説得した。そうやって一旦戦争は防いでおいたから、あとは統一部長官がうまく解いて行きなさい」と言われたのだ。
大統領外交安保秘書官、統一部次官・長官として歴代大統領を比較的近くで見守った筆者は、「悪の枢軸」演説をきっかけに分断国である韓国の大統領が備えるべき識見と資質について次のような結論を下した。米国の絶対的影響下にある韓国。その大統領に自国中心性が明らかな外交安保哲学と所信がなければ、米国の言う通りにするしかなく、将来国家利益が侵害されることを重々知りながらも敢えて「NO!」と言えない。そんな感覚さえ持たない大統領をこの3~4年間直接目撃したではないか? だから大統領は、自国を中心とする透徹した哲学と所信に立って相手と無制限討論をしてでも国民の生命と財産を守り抜こうとする剛毅と果断性がなければならない。
じきに行われることになる大統領選挙を控えて、候補者たちがさまざまな話をしている。ところで彼らの中に、自国中心性の明らかな外交安保哲学と所信とで国家利益のために無制限討論も厭わない果断性を持った人が果してどのくらいいるか? 経済や改憲について語る人はまあいるが、外交安保の哲学と所信を表明する人はあまり見られない。これは大統領候補の大部分が、外交安保状況が悪くなれば国内経済も悪くなり、経済民主化も福祉増大もできなくなるという原理をまだよく分かっていないという話だ。「南北関係がすなわち経済であり安保」であるのにだ。
トランプ式対外政策が展開され国際情勢が大きく揺れる中で、韓国の国家利益は侵害される可能性もあり、また機会をつかむ可能性もある。こうした状況で国家の利益のためならば全身の力を振り絞った金大中(キム・デジュン)大統領ほどの哲学と所信と果断性を持った大統領候補がいるのか、それが知りたい。
韓国語原文入力: 2016-12-25 17:08