今年に入り北朝鮮がスカッドとノドンミサイル、新型ロケット砲などを発射したのは、国連制裁に対する見慣れた反発の仕方であり目新しいことではない。 とはいえ今回続いた反発に「ムスダン」の発射を含ませたのはやや意外だった。
ムスダンは2007年に実戦配備されたと言われるが、実際には発射されたことがない、検証されていない弾道ミサイルだ。 ミサイルを飛行試験もせずに配備したとのは実に奇妙なことだ。 ミサイル開発に試験発射は必須だ。 何度も発射してみて、不良箇所を把握し補完しなくてはまともなミサイルにならない。 ミサイル専門家のマルクス・シラー氏によれば、ミサイルは配備される前に10余回の試験飛行をするのが通例だ。 不良だらけかもしれないミサイルを配備してしまう発想からも、こうしたミサイルを一発当たり数十億円をかけて作り、維持・管理に資金を浪費することは常識では考えにくい。
とはいえ結果的に北朝鮮が過度な「無駄遣い」をしたわけではない。 米軍は2000年代初期から、精密衛星写真でこのミサイルの形や諸元を確認し、射程距離が3000~4000キロメートルでグアム米軍基地まで到達すると推定した。 その後2013年にグアムに高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備した。 THAAD配備がムスダンだけのためとは言えない。 それでもグアムを打撃する北朝鮮のミサイルがムスダンしかなかったのは事実だ。 北朝鮮としてはミサイルを見せるだけで敵を威嚇したことになり効果は満点だ。
しかし、ムスダンのこうした戦略的価値は、先月の3回連続の発射失敗で一瞬にして「張り子の虎」になってしまった。 なぜ今になって敢えて発射したのだろうか。 失敗すれば「元手」も取れないということを分からなかったのだろうか。 「核弾頭の装着が可能な弾道ロケットを試験発射せよ」という金正恩(キムジョンウン)労働党委員長の指示のためだったのか。 分かりそうで分からないことだ。
ムスダンは北朝鮮では先進的ミサイルだ。 北朝鮮の液体燃料ミサイルは、ほとんど旧ソ連が1950年代に開発した「スカッドB」(R17・射距離300キロメートル)から派生した。 射程距離500~700キロメートルのスカッドC、Dはもちろん、1300キロメートルのノドンミサイルもスカッドBの拡張型だ。 2012年12月と今年2月に衛星を軌道にのせた「銀河3」も、基本的にはスカッド技術がベースだ。 反面、ムスダンは旧ソ連で1960年代に開発された「SS-N-6」(R27)の技術に基づいていると言われる。 当初は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)用に作られたSS-N-6は、スカッドより進んだ技術だ。 マルクス・シラー氏によれば、現在の技術で見てもSS-N-6は技術的最大値に到達したミサイルだ。
ムスダンの発射失敗は乱暴に言えば、北朝鮮が1980年代から始めたミサイル開発の基盤技術が未だ50年代のスカッドに留まっているという宣言だ。 すなわち大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発し、米本土を脅かすミサイル強国というには「値しない」姿だ。
もちろん北朝鮮はスカッドとノドンだけでも韓国や日本を打撃することはできる。 スカッドとノドンを数発まとめて長距離ロケットのエンジンとして使う能力も持っている。 その上、新しい固体燃料エンジンと液体燃料エンジンも開発しているというので、北朝鮮のミサイル能力を過小評価する理由はない。
それでもムスダンの発射失敗に見るように、早合点して過大評価する必要もなさそうだ。 ジョン・シリング氏とヘンリー・カーン氏は昨年4月、「北朝鮮核運搬システムの未来」という報告書で、「当初イランとパキスタンは1990年代に北朝鮮の技術支援を受けたが、今は両国が固体燃料中距離ミサイル(IRBM)まで開発するなど、北朝鮮を凌駕している」として、この間の北朝鮮の技術停滞は驚くべきことだと述べた。