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[コラム]加湿器殺菌剤事件の企業犯罪とダンピング資本主義

登録:2016-05-18 00:26 修正:2016-05-18 07:14

 オキシー加湿器殺菌剤事態を見て、セウォル号、MERS事態の悪夢を想起した。 韓国の政府与党は200人以上の国民が命を失い、少なくとも30万人余の被害者が発生しても、その責任を認めないのみならず、国民の生命を守ることに極めて消極的だ。 2013年に野党が被害者救済法案を提出した時、企画財政部と与党は「因果関係が明確でない」として法案処理に反対した。 セウォル号事故の対処とそっくりだ。 「交通事故」のようなものであり、企業と被害者の間の訴訟で解決しろという。 外国に本社を置く多国籍企業が有害製品を作り、その韓国支社が販売をしたのだから原因提供者は外国企業だ。 しかし加湿器殺菌剤被害は唯一韓国でのみ起きた。 米国環境庁と加湿器殺菌剤製造企業はかなり以前から毒性警告文を通じてこのような事故を予防したという。 韓国政府の対応を問題にせざるをえない。

 企業オーナーが会計帳簿を操作したり、税金を踏み倒したり、価格談合などで公正取引秩序に違反するというのが通常の企業犯罪だ。 しかし、さらに深刻な企業犯罪は、利益のために毒性物質を使い、すべての安全性検査や政府の規制を避けることだ。 消費者と労働者の健康と貴重な「生命」を脅かしてまで利益を握ろうとする多国籍企業の行動は、このグローバル化された新自由主義時代の最大の「人為的危険」だ。 ところで、経済成長と企業競争力の名分の下に国家が消費者保護や労働者保護を次順位に繰り下げる後発国家において「企業」の自由は最大化され、消費者や労働者の健康と生命はつまらないものとして扱われる。 これは一種のソーシャルダンピングである。

 今回の加湿器殺菌剤事件のように、被害が孤立分散的であるのみならず因果関係の糾明に相当な専門性が要求される場合、生産企業や企業主に責任を問うことは容易でない。 特に韓国のように企業が露骨な法律違反を犯しても課徴金も微小で企業主がほとんど処罰を受けなかったり、例え拘束されても直ちに赦免復権される国では、企業の反社会的行動を法的に断罪することはかなり難しい。 外国でも企業犯罪を「ホワイトカラー犯罪」として責任の主体をぼかしてしまう傾向があるが、会計帳簿を操作した米国のエンロンや油流出事故で大きな被害を与えた多国籍企業BPは破産したり大きな打撃を受けた。 韓国のように毎年数十人の労災死亡事故、自殺者を産んだ「死の企業」の使用者が処罰どころか何の罪の意識も持たずに闊歩していることはできない。

 5年前、韓国政府は被害疫学調査を実施したが公正取引委員会はオキシー製品の有毒性を発見しても5千万ウォンの課徴金賦課に終わったし、検察は捜査意志を見せなかった。 結局これほどまでに消費者の死の行進が続いた理由も、金大中(キムデジュン)政権後に韓国が企業競争力を最優先目標にする「企業国家」に変わり、政界、政府、司法府、言論、専門家が企業犯罪のほう助者、ないしは弁護人の役割をしたためだ。 彼らは全て経済のために企業を生かし、企業主の士気を高めなければならないという論理で企業犯罪という概念自体を消した。

 オキシーの弁護をする金・張法律事務所の不法性はさらに見守る必要があるが、今回の事態を見て韓国における専門家の職業倫理は教科書だけにある話ということを改めて実感する。 少なくとも数百人の専門家が4大河川環境評価、セウォル号事故、MERS事態の実状を自ら知っていながら、所信を持って発言した内部者や専門家は殆どいなかった。 今回のオキシーなど加湿器殺菌剤被害も環境運動家チェ・イェヨン氏やペク・トミョン教授ら数人の意識ある学者が自分のポケットマネーで実態を調査しその危険性を警告しなかったなら、明らかにならなかっただろう。

キム・ドンチュン聖公会大社会学科教授 //ハンギョレ新聞社

 企業監視など経済民主主義、司法の正義、そして職業倫理のない資本主義は、最も浅薄で堕落したもので、人命を価値の低いものとして扱い金を儲けた@ダンピング資本主義だ。 韓国の市場経済、企業文化、教育、法曹人養成制度は全て原点から再検討しなければならない。 民主主義なき資本主義は戦争よりさらに危険だ。

キム・ドンチュン聖公会大社会学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/744254.html 韓国語原文入力:2016-05-17 19:15
訳J.S(1834字)

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