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[寄稿]マイナス金利が不安な渡辺さん

登録:2016-02-23 02:15 修正:2016-02-23 08:18

 ご近所の渡辺さんは、混乱した表情だった。「金利がマイナスになるということですか?」。「ああ、はい、一般の人たちの預金ではなく、銀行が中央銀行に預けておくお金があまりにも多いときは、そこだけに罰金のようなマイナス金利を適用するのです。貸し付けを増やして経済活動を促進し、円安も誘導しようとするものです。それでもお金を借りる需要自体が少ないので、大きな効果は期待できないと思います」

 日本の中央銀行が、マイナス金利という一度も行ったことのない道を選んだ。昨年第4四半期(10~12月)の国内総生産(GDP)成長率が年率マイナス1.4%を記録するなど、不況への懸念が高まる中で出てきた苦肉の策だ。これにより、規模が大きい銀行は普通預金1年の金利を0.02%から0.001%に引き下げた。100万円を1年間貯金すると利子がわずか10円。放送では、なかでも比較的に高い金利を与えるところを紹介している。

 数日後、不安な顔の渡辺さん。「マイナス金利を適用するというのに、なぜ株価が暴落するのですか?」。「影響が割と大きいようですね。しばらく見守って見ましょう」。日本政府の期待とは逆に、マイナス金利発表以降の3週間、株価は約6%下落し、円は約5%の切り上げになった。収益性の悪化が懸念されて銀行株が急落し、10年間の長期国債金利もマイナスを記録した。海外経済が不安で、中央銀行が引き続き国債を購入しているから、投機資本が日本国債市場に押し寄せて、円高と株価下落が現れたのだ。

 「あの~、アベノミクスで経済を活性化できるでしょうか?何か新しい方法はないでしょうか?」。「それでも働く人口が減っていることを考えると、そこまで悪いわけではありません。構造改革や移民の促進は時間がかかるだろうし、とにかく需要を増やさなければなりませんが、海外では、日本政府がお金を刷って、国民に直接分けたらどうだという主張まで出ています」。「ええと、そうなればいいのですが、可能でしょうか?インフレはどうしましょう?」。「まさにそのインフレが必要な時ですからね。そして、マイナス金利も現実になったでしょう」

 金融危機の火消し役を務めた功臣だったが、今やマイナス金利まで取り出す中央銀行の限界に関する議論が、世界的に高まっている。財政支出の拡大が有効であるが、膨大な国家負債を抱えているため、それも容易ではない。日本のような場合は、さらに急進的な方策が求められるという主張もされている。中央銀行が保有している国債の一部を焼却したり、減税を行い、財政赤字を通貨の発行で埋める方法も考えてみようということだ。これは、財政政策と金融政策を結びつけた、いわゆる「ヘリコプター・マネー」だが、米国の元FRB議長のバーナンキ氏も日本に提案したことがある。もちろん、財政が放漫になりかねないなど、いくつか問題点もあるだろうが、既存のマクロ経済政策があまり効果を上げていないため、このような主張が出てくるのも理解できる。

イ・カングク立命館大学経済学部教授//ハンギョレ新聞社

 渡辺さんの声も少し高まった。「毎日の消費が低迷して問題だというが、使うお金はありますか。」「はい、賃金が増えなければ、消費が増えませんから、労働者たちももっと大きな声で賃上げを主張してほしいですね」。最大の問題は、アベノミクスが期待する好循環の核心である賃上げがあまり進んでいないということだ。企業の利益は増えたが、日本の実質賃金は4年連続で下落して、昨年も0.9%減少した。政府も企業に賃上げを求めると共に、最低賃金の引き上げなどを進めているが、あまり効果は見られない。海外の経済学者たちは、国の債務を減らすのに不可欠なインフレを刺激するために、政府と雇用者と労働者の代表が賃金を5〜10%引き上げることで合意することを勧めている。そういえば、資本と労働の間の不均衡が経済の回復も妨げている。

 あまり役に立たない話に、まだ不安な表情の渡辺さん、ゆっくりと歩き始めるその姿が、さらに老けて見えた。

イ・カングク立命館大学経済学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-02-22 19:56

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/731575.html 訳H.J

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