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[寄稿]瀬戸際に追い込まれた日本の戦後民主主義

登録:2016-01-10 23:29 修正:2016-01-11 07:15

 新年早々、北朝鮮が核実験を行った。これに対しては、大量破壊兵器の開発よりも、自国民を食わせることの方が先だろうという怒りがあるのみである。

 日本の国内政治との関連で考えれば、このニュースは民主主義や自由な言論に対する大量破壊兵器ともなりうる。核兵器の専門家にはあれが水爆の爆発だったかどうか疑問視する声も多い。メディアが正確を期するなら、あの実験を核実験と呼び、北朝鮮は水爆実験と主張していると報じなければならないところである。

 近年政府広報機関と化した感のあるNHKテレビのニュースでは、北朝鮮の主張をうのみにして水爆実験と繰り返し、水爆は広島型原爆の数百倍以上の威力を持つとか、過去に米国などが行った水爆実験の映像を流すとか、これでもかと視聴者を怖がらせていた。また、ゲストの朝鮮半島情勢の専門家は、水爆は小型なので弾道ミサイルに搭載すれば米国東部も攻撃可能となり、朝鮮半島有事の際、米国は核攻撃を恐れて韓国や日本を守る意欲を失うかもしれないと述べた。これも北朝鮮の誇大宣伝を額面通り受け止め、日米安保が無効化するという恐怖を呼び起こす言説である。

 北朝鮮の核実験の日は、たまたま通常国会冒頭の代表質問が行われた日でもあった。これに関するNHKの報道もひどいものであった。民主党の岡田代表は安倍政権が進める低額年金受給者への3万円の現金支給を選挙目当てのバラマキだと非難し、与野党の対決は激しいものであった。しかし、NHKニュースは岡田氏が北朝鮮の核実験を批判する部分だけを紹介し、この質問に対して安倍首相が断固たる姿勢で対応すると答えた部分を組み合わせて伝えた。日本のテレビは北の核脅威を利用し、日本国内における正常な政治論争の枠組みを壊しているということができる。

 一連の報道からは、危機を口実に国民の恐怖心をあおり、現政権が進める安全保障立法への支持を引き出すという意図が見え隠れする。しかし、ここは冷静さが必要である。北の核開発を止めることは、東アジアの平和にとって不可欠である。そのために日本も韓国、米国、中国と協力し、努力しなければならない。1つ明白なのは、核の脅威を除去するために軍事力を行使するという選択肢はあり得ないという現実である。イラク戦争のような体制転覆を図れば、北朝鮮を死なばもろともの自暴自棄に追いやり、そこから核戦争が現実になる恐れもあるからである。日本の保守派は、憲法9条があっても北の核武装は防げないと非難する。しかし、米国の軍事力が存在しても北の核武装を防げないというのが圧倒的な事実である。安倍政権が進める集団的自衛権の行使は、朝鮮半島の核危機を解決する際、何の関係もない。

山口二郎・法政大学法学科教授 //ハンギョレ新聞社

 核開発を進める独裁国家への対応は、危険物の処理のようなものである。慎重さと周到さが何より必要である。一見迂遠に見えても、交渉による政治的解決以外に、核の脅威を除去する方法はない。軍事力の行使を志向する安倍政権の安全保障政策は、日本と東アジアの安全を高めるものではない。

 今年夏には参議院選挙が予定されており、与党と改憲に賛成する一部野党が憲法改正発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するかどうかが最大の争点となる。安倍首相自身が年頭の記者会見でそうした意図を表明している。昨年夏には安全保障法制に反対する大きな市民運動が出現した。この運動に参加した人々はこの参院選で安倍政権の憲法破壊を食い止めたいと切望し、様々な運動を継続している。問題は野党がそうした市民の動きに呼応し、安倍政権との対決姿勢を明確にできるかどうかである。与党が参院選で楽勝するならば、2016年は戦後民主主義の崩壊過程におけるポイント・オブ・ノー・リターン(もはや引き返せない)の年となる。メディアにも野党にもそうした危機感が必要である。

山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-01-10 19:00

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/725502.html

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