本稿執筆の時点では安保法制の結末は分からない。ここでは安保法制が成立したという前提で、安保法制反対運動の意義と今後の政治課題について考えてみたい。
安倍政権は通常国会の会期を3か月以上も延長したにもかかわらず、安保法制の成立が会期末までずれこんだ。それは、反対の世論が当初の予想を超えて盛り上がったためである。この国会における安保法制審議での政府答弁のずさんさは、日本の議会政治史上に残る汚点である。
安保法制反対の世論が高まったことは、憲法9条に象徴される戦後的な価値に対して、戦争を知る世代はもとより、若い世代も強い愛着を持っていることを意味する。安倍首相は集団的自衛権行使に続けて、憲法改正に取り組むつもりかもしれない。来年の参議院選挙で憲法改正を争点にすることも考えられる。しかし、憲法9条の改正は政治的に不可能である。改憲そのものが政治争点となるならば、国民の反対は安保法制以上に激しいものとなるだろう。安保法制の実現のために体力を使い果たし、支持率を大きく下げた安倍政権が来年憲法改正に着手できるとは思えない。
安保法制をめぐる政治過程で浮かび上がった与野党の課題を整理すると、次のようになる。自民党の側では、自己修正能力の欠如が明らかとなった。自民党総裁選挙では安倍総裁の無投票再選が決まったが、立候補を模索した野田聖子氏を封じ込めるために官邸が様々な圧力を加えたことが報じられた。長い自民党の歴史では、党内の権力闘争は、その時々の民意を受け止めた軌道修正という副産物をもたらしてきた。60年安保の時も、岸内閣に対抗するリーダーの存在ゆえに、安保後の路線転換が可能となった。
谷垣幹事長は安倍首相に、安保法制で国論を分裂させた後は、国民を統合するよう路線転換を求めた。一人の権力者がそのように立ち回るのは無理である。リーダー同士の権力闘争がそうした転換を可能にしたのだが、それは中選挙区制時代の滅び去った伝統でしかない。ただし、自民党の将来を考えた時、リーダーの育成、政策路線の練磨など、政権を維持するために不可欠な党内論争ができない体質に変化したことは、この党の生命力を損なうに違いない。安保法制をめぐる議論の中では、若手議員を中心のメディアへの威嚇や沖縄への蔑視など、野蛮な発言が相次いだ。こうした反知性主義体質も、中期的には自民党の統治能力を低下させる。自民党の良識派はどこにいるのだろう。
次に野党の側について見ておきたい。安保法制の審議の中で国民はこの法案の問題点を理解し、安倍政権の支持率は低下、不支持率が支持率よりも大きくなった。しかし、内閣支持の低下は政党支持の変化とは無関係である。野党、特に野党第一党の民主党の支持率は低いままである。9月の時事通信調査では、内閣支持率は38.5%、不支持率41.3%、自民党支持率は23.3%、民主党支持率は4.9%だった。国民は安倍政治には不信を強めているが、自民党以外の選択肢を選ぼうとはしていない。
安保法制反対の世論はどこへ行くのか。来年の参議院選挙で野党がバラバラに戦い、自民党が漁夫の利を得ることになれば、安保法制反対の戦いの意味も雲散霧消する。野党が安倍政治に対抗する基本理念を共有し、統一することが必要となる。野党第二党の維新の党は、民主党との提携を志向するグループと安倍政権に近い橋下大阪市長が率いるグループの2派に分裂しようとしている。このことは野党再編を容易にした。民主、維新、社民、生活の各党は安保法制反対で協力した実績を作った。憲法理念の擁護を基軸に野党を結集することは、来年の参議院選挙、特に地方の一人区で野党が勝つために不可欠である。今後の政治の焦点は野党の動きである。
韓国語原文入力:2015-09-13 18:38