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[社説] 歴史教科書国定化は常識と国の品格の破壊だ

登録:2015-10-13 08:48 修正:2015-10-13 10:27
全国466の市民団体で構成された「韓国史教科書国定化阻止ネットワーク」のメンバーが7日午前、政府ソウル庁舎前で「韓国史教科書国定化反対 全国同時市民宣言」を行い、朴槿恵大統領と金武星セヌリ党代表の発言を書いたプラカードを掲げている=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 政府は12日、ついに韓国史教科書発行体制を国定に切り替える行政予告をした。国定歴史教科書を2017年1学期から学校現場に適用するという。朴槿恵(パク・クネ)大統領の任期が終了する前に強引に国定教科書を実現させたい政権次元の意志が読み取れる。歴史解釈を国家が独占する国定体制の世界的な後進性と、質の良い教科書を作るために必要な最小限度の準備期間も無視したまま、政権の欲にまかせて国家百年の大計を揺さぶりかねない事態を招いている。

 教育部はこの日に出した資料で、発行体制転換の最初の理由を「歴史教科書検定制導入後、憲法価値である自由民主主義に基づく健全な国家観と均衡の取れた歴史認識を育てることに寄与できなかったため」と明らかにした。戯言としか言いようがない。歴史教科書国定化こそが自由民主主義理念に正面から外れるためだ。

■ 家族史のための教科書を作ろうというのか

 何度も指摘されてきたように、国定歴史教科書は世界で探すのも難しいほどになった独裁・全体主義の悪しき習慣だ。北朝鮮をはじめとするごく一部の国家を除き、中高校はもちろん小学校過程でも多様な教科書を自由に使っている。それが国連勧告でもある。歴史歪曲に血眼になり、あらゆる手段で教科書に介入しようとする日本の右翼政権でさえ、国定化という“マジノ線”は越えないでいる。国定体制転換は執権勢力が特定の歴史観を国民に強制的に教え込んでもかまわないという“不健全な国家観”、すなわち独裁を正当化する国家観を教えることと変わらない。

 しかも、それが執権者個人の利害関係から始まったものであるなら問題は一層深刻だ。朴大統領は父親の朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の反民主的で不道徳な統治に対する歴史的評価を受け入れられないと知られる。個人的怨念を解消するため、維新独裁を美化する教科書を作る意図があるという疑いが社会に蔓延している。事実なら、世界史で類例のない「家族史のための国定教科書」が誕生することになる。

 教育部も教科書検定制の趣旨が「多様性」にあることを認めている。ところが、執筆陣が多様に構成されなかったため、その多様性が色褪せ、だから国定化が必要だと主張する。多様性のき損を正すため、単一な国定教科書を作るというのだから、小学生でも呆れかえってしまう論理だ。教育部が言う執筆陣の偏向性が何を指すのか分からないが、本当にそう判断しているなら、多様な検定教科書が出てくるように政策を展開すればいいだけのことだ。一国の教育部がこういう恥ずべき詭弁を堂々と発表資料に収録するのをみても、どれほど論理が破綻しているかが分かる。また国定教科書という用語を努めて避け、「正しい歴史教科書」と命名したところからも後ろめたさを感じていることが分かる。

 国定化問題は「歴史戦争」とか「理念対決」といった言葉で包まれているが、事実と論理に基づく歴史論争とは距離がある。力で民主国家の常識を破壊し、後進国を自任することによる、国の品格を壊す暴挙であるだけだ。こうした事情もあって歴史学界はもちろん、各分野の学者、教師、大学生、父兄などが名乗り出て国定化反対の声をあげているのだ。その渦中にあって国定化に賛同する教授、教師、言論人などが果たして知識人といえるか疑問だ。

 現実的にも2017年に国定歴史教科書を学校現場に適用するのは不可能に近い。教育部は11月に執筆陣を構成し1年間で執筆作業を終わらせるという。完全に新しい教科書を書くには3年でも足りないという専門家たちの意見からしても、とんでもない日程だ。また、執筆を終えた後、たったの1カ月で審議・修正を終えるというのだから驚く。教育部自らの政策研究資料でも審議・修正期間を11カ月としている。教育部の日程は教科書を適当に作ると公言しているのも同然だ。

 政府は、学界で権威と専門性が認められる教科書執筆陣を構成するというが、歴史学界と教師たちがいっせいに反発する状況で、まともな権威者・専門家が執筆に参加できるのか疑わしい。執筆陣の多様性を備えるのはさらに期待しづらい。結局、ニューライトなど右翼的見解と事実誤認がごった煮になったくだらない教科書が出てくる公算が高い。

■ 教育現場の混乱呼ぶ1年分の教科書

 教育監(教育委員長に相当)の間では、すでに代案教科書や補助教材の開発などの対策が議論されている。歴史教師たちも不服従運動を宣言し、野党は国定化禁止の法制化を訴え始めた。政権が変われば検定制に戻せとの世論が再び起きるだろうし、常識や時代の流れに合わない国定体制を次の政権が維持するのも容易ではない。

 結局、“1年分の教科書”で終わるという指摘も間違いではない。2017学年度の大学修学能力試験から韓国史が必修課目になるので、国定・検定で一進一退するのは入試の不安要因として作用することになる。

 このように名分と実利を失うほかない歴史教科書国定化にここまで執着する政権をまったく理解することができない。過去2年半の間、これといった成果をあげられなかった政権が、自ら強調してきた他の国政懸案をすべて投げ出したまま、無意味な波紋を起こす情けない事態である。政権の無能を理念追求で覆おうとする下心があるなら、とんでもない誤算だ。拙い見識で国の品格を貶め教育を混乱に陥れる教科書国定化こそ、朴槿恵政権の数ある失政の中でも最悪のものと記憶されるだろう。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-10-12 18:34

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/712421.html?_fr=mt0 訳Y.B

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