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[コラム]歴史教科書国定化という名の墨塗り

登録:2015-10-08 05:15 修正:2015-10-12 15:46

 1945年に戦争に敗北した日本で米国の占領統治が始まった当時、世の中が変わったことを実感させられた体験の一つは、黒塗り教科書だった。

 「新しい教科書が出るまで、学生は教師の指導に基づいて古い教科書の軍国主義や国家主義を賛美する文章、あるいはどのような理由であれ、民主的ではないと判断された文章を一つひとつ黒く塗りつぶさなければならなかった。 『墨塗り作業』は、これまでかけがえもなく神聖であると考えられていた教えを否定する儀式だった」

 日本の敗戦後を取りあげた代表的な歴史書として知られるジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』の、この部分を読み返すと、1970年代と1980年代に小中高校を通って国定教科書を丸暗記し、大学に入学してから教科書が歪曲した真実に直面して感じた裏切り感と怒りが思い浮かぶ。その時に戻れるなら、「5・16クーデター(1961年の朴正煕の軍事クーデター)は救国の革命であり4・19義挙(1960年の学生革命)の継承発展」や「民族中興の歴史的使命を達成する政治、社会風土を整えるために、10月維新を断行した」などの教科書の部分に何度でも力の限り墨で塗りつぶしたい。

 それから30年以上が過ぎ、私たちの子供たちは墨塗りしなければならない教科書からは解放されるだろうと安堵していたのは、保守勢力の執拗さに対するナイーブすぎる判断だっただろうか。大統領府とセヌリ党の歴史翻しのこだわりが、結局韓国史国定教科書という怪物を子供たちに押し付けている。

 現在の検定教科書を「左寄り」「全教組」の教科書だとして、国定化総攻勢を繰り広げるセヌリ党議員の発言が、日本の右翼政治家たちの歴史観に酷似していて背筋が凍りつく。セヌリ党のチョ・ウォンジン院内首席副代表は6日、国政監査対策会議で「(現行の教科書には)自虐の歴史観、敗北の歴史観を若者たちに注入する内容が多数含まれている」とし、先月2日には金武星(キム・ムソン)セヌリ党代表が交渉団体代表演説で「自虐の歴史観、否定の歴史観は絶対避けなければならない」と述べた。

 慰安婦の強制動員を否認して植民地支配を美化する日本の右翼歴史教科書も「日本を不当に貶めている自虐史観を排除すべきだ」という主張と共に生まれた。日本の右翼は侵略の歴史を反省し、慰安婦強制動員や南京大虐殺を教えて過去の国の過ちを反省することを自虐史観と非難した。彼らがまさに右翼教科書を作り出し、集団的自衛権を盛り込んだ安全保障法制を立法して日本を「戦争できる国」として蘇らせた。

 韓国の保守勢力が自虐史観と責め立てているのは、李承晩(イ・スンマン)、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領に対する批判だ。大韓民国は成功した国であり、李承晩と朴正煕の業績のおかげで成功したのに、彼らの過ちを指摘するのは、自虐史観というのだ。その論理通りなら、日本の植民地統治も朝鮮を近代化させた功績があるものとして、再認識されることになる。現在、韓国の保守勢力の根源である親日勢力の正当化だ。

 韓日の保守勢力が共にジョージ・オーウェルの小説『1984』で、鉄拳独裁政治で支配する党のスローガンである「過去を支配する者は、未来を支配し、現在の支配する者は、過去を支配する」を信条にしているようだ。しかし、日本の右翼たちもあえて掲げられない国定化の旗を、韓国の政治家だけが高く掲げている姿は、さらに惨憺たるものだ。主権者である国民の代理人に過ぎない大統領の言葉が帝王的命令として強行され、牽制の力がますます無気力になる、韓国社会の現実も痛々しい。

パク・ミンヒ文化スポーツエディター//ハンギョレ新聞社

 『資治通鑑』『東国通鑑』など、東アジアの伝統的歴史書には、鑑の字を題名に入れることで、歴史の教訓を鑑として正しい政治をすべきだという意味が込められた。『中国哲学史』を「私の人生を変えた」愛読書だと自慢してきた大統領は、子供たちに自分の退行的な歴史観を強要する前に、歴史の鏡に歴史を巻き戻している狂気の政治を映してみてほしい。

パク・ミンヒ文化スポーツエディター(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015-10-07 18:39

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/711824.html 訳H.J

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