日本は長野県の冠着山(かむりきやま)は「姨捨(老婆を捨てに行く)山」という別称を持つ。 暮らしが苦しく、実母のように奉養してきた老いた叔母をこの山に捨てたが、月の光を見てすぐに後悔して翌日連れてきて再び迎えたという伝説がある所だ。 “姨捨”話はこの伝説を基に日本人が作り出したという説が有力だが、この頃韓国でも似たようなことが時々起きている。誰を恨めば良いのだろうか?
2007年6月、私は「無礼な子供の国」という題名のコラムを書いたことがある。 孫の可愛いしぐさでも楽しむ年齢で、低賃金の働き口でも得るために多くの老人が経済活動に飛び込んで、相当数が貧困に苦しんで、老人自殺率が世界最高水準という内容だった。 表現が過ぎた。 昨年、韓国の家計は経済的に独立した両親や子供に与える金銭が含まれる“世帯間移転支出”に月平均年金保険料(12万ウォン)の2倍にあたる21万ウォンを使った。“無礼な子供”は個人ではなく、老人扶養の荷をほとんど個人責任に押しつけているこの国のシステムに対して言うことだ。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時期の2008年に基礎老齢年金が導入されたが、さして変わったことはない。 65歳以上の老人の経済活動参加率は、2005年の30.0%から昨年は31.9%に高まった。 2013年の老人貧困率(中位所得の50%以下)は48%に達し、65歳以上の老人10万人のうち64.2人が自ら命を絶った。 老人自殺率は2000年の35.5人から2010年には81.9人まで高まり、その後少し低くなった。
今後も老人貧困は深刻だろう。このまま行けば韓国の65歳以上の老人人口比率は、2013年の12.2%から2030年には24.3%、2040年には32.3%に上がる。 かろうじて小遣い水準を受け取る今の国民年金では彼らの生活を支えることはできない。 その上、深刻な“少子化”は老人扶養負担が簡単には緩和されないことを予告する。
韓国で妊娠可能な女性1人が一生に産むと予想される平均出生数(合計特殊出産率)は、2013年基準で1.19人であり、世界最低水準だ。 人口を現状維持する程度である2.1人をはるかに下回る。 米国ペンシルバニア人口研究センターのミコ・ムィルスクィレらは2008年8月6日付科学雑誌ネイチャーに載せた論文で、1975年から2005年まで37カ国の人間開発指数(HDI)と合計出産率の関係を分析した。 最高値が1.0である人間開発指数が0.85~0.90に達すると下落一方だった合計出産率が再上昇する傾向が共通的に現れた。 だが、それにも例外があるとして、それが日本と韓国だった。 女性が仕事をする環境や保育環境の整備が相対的に遅れている国だ。 研究対象ではなかったが、韓国と似た成長経路を歩いてきた台湾(0.9) 香港(1.03) シンガポール(1.26,以上2012年)も事情が似ている。
人口高齢化が加速する中で、老人貧困は当事者だけの苦痛には留まらない。韓国の経済を内需不振のさらに深いドロ沼に陥れるだろう。 貧しい人どうしが激しく働き口を争って、賃金水準をさらに引き下げるだろう。 公的年金制度の強化と保育・教育における公共の役割を育てなければこのような悪循環から脱却し難い。
勤勉・誠実を前面に出して労働者に長時間労働を要求し、輸出大企業に各種補助金を集中する力強い政府ではなく、社会の隅々に必要な手助けを繰り広げる繊細な政府こそが経済成長も導くことができる。 国民年金所得代替率を引き上げようという与野党合意を一刀のもとに断ち切ってしまった大統領府と朴槿恵(パク・クネ)大統領の反応は、だから絶望的だ。 国の未来を深い山の中に捨ててきて気楽に背を向けた者の顔がそこにはあった。