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[寄稿]ウォールマートとイーマートの違い

登録:2015-03-04 16:36 修正:2015-03-05 06:31
イ・カングク立命館大学経済学部教授

 アメリカで最も多くの労働者を雇用する企業は? 5100を超える売場で130万人の労働者が働くウォールマートだ。ウォールマートは総売上額が500兆ウォン(約55兆円)を超える世界最大の企業だが、劣悪な賃金と労働条件で悪名が高い。極端な低賃金、低コストで企業だけを肥らせ不平等さを深刻化させた、いわゆるウォルーマート・モデルの元祖である。そのウォールマートが最近、時間当り最低賃金の引き上げを発表して大きな話題を呼んでいる。 “悪の帝国”が改過自新でもしようというのか。

 ウォールマートの今回の賃金引き上げは、第一に労働市場の変化を反映した結果だ。米国では昨年約300万人の仕事が増え、特に2012年以後に下位10パーセントの労働者の賃金が相対的に上昇し、最下位層の労働市場が狭まった。したがって平均50%に達する離職率といい加減なサービスを続けてきたウォールマートも低賃金を維持することが困難になったのだ。ギャップ(GAP)やイケアはすでに昨年賃金を引き上げ、コストコは競争業者よりはるかに高い賃金を支払い高い生産性を誇っている。

 もう一つの重要な理由は、労働条件の改善を求める企業内外からの圧力だ。2011年からウォールマートの非正規労働者は時間当たり15ドルの賃金と、労組を認めさせるためのブラック・フライデーにデモとストライキを行って闘争し、それが市民社会の反響を呼び起こした。 また、オバマ大統領は年頭演説で共和党議員に向かって、最低賃金で一度暮らしてみろと一喝し、最低賃金の引き上げに追い込んでいる。

 ウォールマートは1998年に韓国にも進出したが、営業権をイーマートに売却し8年で撤収した。現地化の失敗が主な理由だったが、台所市場を守った韓国系大型マートは労働者を絞り取る点でもウォールマートに劣らなかった。 現在イーマートの時給は5670ウォン(約600円)で、生活するにも足りない最低賃金水準より僅か90ウォン高いだけで、いくつかのスーパーでは法定休憩時間を取らせなくするために一日7時間勤務をさせている。 その上、イーマートは2013年に労組を作ろうとした労働者を不法に査察し、怒った市民の不買運動が起きるこもあった。その後イーマートは、非正規労働者9100人を正社員に切り替えたが、条件が悪化して多くの労働者の所得は非正規雇用の時よりさらに低くなった。

 スーパーの外でも貧しい労働者があまりにも多い。韓国の労働者の4人に1人が月に127万ウォン(約13.8万円)も稼げず、最低賃金さえ受け取れない人々が230万人を超えている。 現実がこうなので最低賃金の大幅引き上げと遵守を要求する声が一層高まっている。 最低賃金の引き上げは、経済全体の需要と生産性も高めるが、零細自営業者には負担も少なくないだろう。 したがって彼らの家賃負担や大企業加盟店のロイヤリティーを下げさせ、雇用保険と積極的労働市場政策を強化するなど様々な努力が同時に行われなければならない。 何より重要なのは、大型スーパーを含む大企業に、一日も早く最低賃金の引き上げと非正規労働者の縮小のために社会的圧力を加えることだ。 昨年の雇用労働部の調査によれば、労働者1万人以上の巨大企業の非正規雇用の比率が40パーセントになるのが実情だ。

イ・カングク立命館大学経済学部教授//ハンギョレ新聞社

 倉庫管理の仕事で経歴を始めウォールマートの最高経営者になったダグ・マクミロンは、今回の賃金引き上げと関連して「私たちはあなたが熱心に仕事をしただけ上に上がれる能力主義のはしごを作ろうと思う」と述べている。アメリカ人は今、賃金引き上げが経済全体に広がり消費が増えて景気回復が加速することを期待している。 新世界グループのチョン・ヨンジン副会長も「私たちの会社の最も重要な資産は人」であり「社員の業務満足度を高めることが顧客に最高に仕えることになる」と述べた。 韓国人はイーマートが顧客に仕える前に、そこで働く労働者が暮らせるようにすることを願っている。

イ・カングク立命館大学経済学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015/03/02 19:09

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/680371.html
訳J.S(1794字)

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