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[朴露子の韓国、内と外] 大韓民国のイデオロギー、経済人種主義

登録:2014-11-26 20:53 修正:2014-11-27 06:43

「他人」(米国の財閥の海外下請け企業で働く低賃金労働者や移民者)から過度に絞り取ることにより収益性の回復に出た米国とは異なり、韓国の新自由主義は自国民賃金労働者の半数以上を現代版賎民に降格させ、集中的に絞り取ることを意味した。

 米国における種族的人種主義との闘争で黒人と白人の活動家が連帯したように、韓国の経済人種主義との闘争を非正規職と正規職が同じ考えをもって当然だ。 たとえ本人が正規職だとしても、その子供が非正規職になる確率が高いのが今日の韓国だ。

イラストレーション キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 私は最近10日間、特講のために米国のカリフォルニア州を巡った。米国の現実を見て、常に頭をよぎるものは韓国の現実だった。 顧みれば両国の関係は十分に宿命的だったと言える。米国が新自由主義の本山ならば、韓国は新自由主義の模範社会だ。 ある面では新自由主義時代の韓国は米国以上に米国的な社会だ。 例えば、人文学軽視の風潮は韓米両国の大学の共通点だが、“不人気学科”を完全になくすこともためらわない韓国の企業型大学に較べれば、米国の大学の人文学枯死政策は漸進的だ。 韓国の大学の果敢な市場主義を羨望する米国の大学当局者も同じようにしたいと思っているが、学生や教員の抵抗があまりに激しいのでそれほど容易には人文学の抹殺政策を使えない。 それほど米国で抵抗の中心としての大学の役割が大きいためでもあるが、韓国の新自由主義政策のレベルがさらに高いためだ。

 米国の新自由主義は約35年の歴史を持つ。1970年代に著しい企業収益性危機に対する解答としての新自由主義は、短期利潤の最大化を骨格とする。 労働者の実質賃金は事実上凍結ないしは引き下げ、外国の低賃金地帯に任せられるすべての生産を国外に引き出すことが米国式新自由主義政策の基盤だ。 これに対し、韓国の新自由主義は米国の半分程度の約17年の歴史しか持たない。 その短期間に米国以上に新自由主義化を敢行したというのは、それだけその速度が速く政策の強度が非常に高かったという意味だ。 それがどういう意味を持つのか?

 金融資本・技術生産の中心である米国とは異なり、韓国は製造業国家だ。 それだけに米国のような低賃金地帯への生産移転は韓国としては容易でない。 韓国の国内総生産に占める製造業の比重は、1980年代末以後継続して約30~31%であり、この数値は減らなかった。 反対に持続的な生産移転の結果、米国の製造業比重は13%に過ぎない。また、韓国とは違い、歴史的に移民者の国として成長してきた米国は、新自由主義時期に移民者の低賃金労働に対する超搾取を通じて利潤率を部分的に回復できた。 ほとんど奴隷の境遇に近い約1100万人の不法滞留者をはじめ、米国の総人口のうち一世移民者は15%を占めるが、これは大多数のヨーロッパ国家と比べても高い水準だ。 反対に韓国ではいくら外国人の数が増えたと言っても、まだ外国系人口の比率は2.9%程度だ。 それでは、米国ほどの外国人搾取も工場移転もできない韓国政府・資本の「アメリカ以上に強い新自由主義措置」の実体とは果たして何か?

 私たちに非正規職量産という名前で知られている二重労働市場を作ったことこそが、米国など世界体制の核心部と準周辺部国家である韓国における新自由主義導入の核心だ。正規職と非正規職間の格差は、単純に雇用形態の差ではない。 韓国社会は基本的に企業社会だ。 企業と職場を離れては、韓国社会では社会的市民権は存在しない。 医療や教育など本人の生存と子供の成長に最も必要な社会的サービスさえも無料ではなく、また失業手当から国民年金、ないし基礎生活手当まで各種の社会的賃金はその支給期間が短かかったり、条件が厳しかったり、生活不能な小額だ。 結局、(正規職の)職場がない以上、韓国社会で人間らしい生活というのは不可能に近い。 このような側面で、勤労人口全体の半分以上になる非正規職層の量産という新自由主義的措置は、単純に雇用市場の悪化ではなかった。 新しい現代版賎民階級を作り、その賎民に対する超搾取を通じて利潤危機の打破を試みたのだ。

 荒っぽく言えば、「他人」(米国の財閥の海外下請け企業の低賃金労働者や移民者)から過度に絞り取ることによって収益性の回復に出た米国とは異なり、韓国での新自由主義は自国民賃金労働者の半数以上を現代版賎民に降格させ、集中的に絞り取ることを意味した。 経済植民地の確保が米国に比べてはるかに難しい韓国の資本は、結局自国民の相当部分を植民化したのだ。この自国民の植民化過程は、私たちの日常の中の通念にどのような影響を与えたのか?

 米国に行って感じたことは、いくら形式上で人種差別が1960年代の闘争で撤廃されたと言っても、基本的に米国社会は相変らず人種ピラミッドの形態を帯びているということだ。 すべての白人が皆特権を享受しているわけではないが、特権層の絶対多数は相変らず白人だ。

 『フォーチュン』誌が選定する米国500大企業の最高経営者(CEO)のうち、黒人、アジア人、ラテン(中南米)系は合わせても4%しか獲得できない。 米経済界の支配者の残りの96%は白人だ。 米国の人口全体のうちで白人は62%程度だけを占めているのにだ。 アングロサクソン系の白人が相変らず支配層の骨格を形成している反面、私が旅行したカリフォルニアの日常の中で会う多くのサービス労働者は全てラテン系だ。 さらにLAのコリアタウンに行っても、韓国人が経営するレストランや店でサービス労働に従事して賃金搾取を受けている人はたいていラテン系だ。 徹底して種族階級(ethnoclass)別に序列化されている米国社会で、例えば韓国人を含む東アジア出身者はたいてい技術者や中小企業人など中間階層に該当する。 一見「成功したマイノリティ」のようだが、実際には集団的にも個人的にもある程度から上には成長することは難しい。 露骨な人種差別は退潮を示しても、人種的境界線はそのままに残っているだけでなく、むしろ新自由主義時代にさらに強化された。

 それなら同じ韓国人を賎民化させて絞り取っている韓国はどうなのか? 韓国の宗主国の慢性的な人種主義に相応するのは、大韓民国の徹底した経済人種主義だ。韓国は血統主義社会だが、血統主義はその社会的差別の構図を全く決定しない。 私が韓国で会った非韓国人労働者の中で、韓国での差別と暴力に最も深い怨恨を有していたのはむしろ「同じ血統」である中国の朝鮮族と北朝鮮脱出者たちだった。 他者でも自国民でも、韓国での差別構図は明確に経済本位だ。もちろん湖南(ホナム)人に対する地域差別とか、地方大学ないし高卒出身者に対する学歴差別など、地縁・学縁にともなう差別構造は昔から非常に複雑だったが、新自由主義時代の新興賎民階級の出現によりこれらすべての差別関係は周辺化され、非正規職に対する殺人的差別は差別構造全体の中心を占めることになった。そしてこの差別の深度は、米国における人種主義より優るとも劣らない。

 数週間前にソウル狎鴎亭(アックジョン)洞のある高級アパート団地で、食物を投げるなど住民から「動物のような」扱いを受けて、使い走りと言語暴力に苦しんだあげく焼身自殺したイ・マンス烈士のことを覚えているか? そのような境遇にある全国25万人の警備労働者が耐えなければならない差別は、1960年代以前の米国で黒人が甘受しなければならなかった日常的な侮辱と何一つ違わない。 模範的新自由主義国家である大韓民国での経済人種主義は、今日の米国の種族的人種主義を凌駕する水準だ。 その被害者は警備労働者だけか? たいがいは非正規職である銀行・証券・生保・損保会社など金融機関職員のうち、顧客応対業務担当者の66%もが顧客の暴言に苦しんでいるというのが最近発表された調査結果だ。 老人や女性である可能性が高い非正規職労働者を苛めているのは、韓国で現代版良民と言われる「市民」、すなわち中産層の大衆的な気晴らしになったわけだ。

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学

 米国における種族的人種主義との闘争で、黒人と白人の活動家が連帯したように、韓国の経済人種主義との闘争を非正規職と正規職は同じ考えをもって当然だ。 白人だからと言って、経済的没落をいつまでも防げないように、永久的な正規職もない。 たとえ本人が一生正規職だったとしても、その子供が非正規職になる確率が高いのが今日の韓国だ。 入居者が警備労働者を見下して食べ物を投げつける、不安な労働者には焼身以外の抵抗手段がなくなった社会、私たちは果たしてそんな社会で永遠に生き続けたいか?

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/666064.html 韓国語原文入力:2014/11/25 18:55
訳J.S(3802字)

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