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[キム・ドンチュン コラム]もう一つのセウォル号、キム・ムンギの尚志大学「奪還」

登録:2014-09-03 20:27 修正:2014-09-04 07:54
キム・ドンチュン聖公会大学社会科学部教授//ハンギョレ新聞社

 不正の疑いで追放された尚志(サンジ)大学のキム・ムンギ元理事長が、総長として華麗に戻ってきた。かつて尚志大は“私学不正の総合ギフトセット”と呼ばれるほどに不正私学の代名詞であった。土地投機、裏口入学、教授不正任用、親戚不正、容共事件ねつ造などを犯したキム・ムンギ元理事長は、「文民政府」ができた1993年に拘束され大学から追放されたが、20年余りの“闘争”と李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権の強力な後光を得て再び学校を“取り戻した”。

 彼の電撃的復帰には、セヌリ党、司法府、教育部、マスコミなどすべての有力機関が総動員され、“投資能力”という経営論理が教育機関の根本価値を押し倒した。そのため私は彼の復帰をもう一つのセウォル号事故と見る。セウォル号事故に韓国のすべての積弊が集約されているように、彼の復帰には民主主義の後退、韓国のよじれた資本主義、それを動かす巨大宗教、巨大メディアの人的ネットワークがクモの巣のように絡まっている。

 現行の私立学校法は、学校法人を他の財団法人とは差別化し、公共性を持っていると見ているが、学校の運営資格を備えていない財団が退いた場合、新たに選任された臨時理事や理事長、そして総長が実質的な権限を行使することが難しくなっていて、不正理事陣の復帰余地を残している。 そして、現セヌリ党は私学の公共性よりは理事長が全権を行使できる“財団”としての性格を維持する私学法を死守したり、“改悪”を試みて不正私学の代弁者の役割を忠実に果たしてきた。朴槿恵大統領もやはり父親の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が強奪した疑いがある嶺南(ヨンナム)大学の理事長を歴任した私学の利害当事者だ。

 しかし、今回のキム・ムンギ復帰を可能にした主役は裁判所と教育部であった。高裁は既存の私学法の精神をうち捨ててまで“設立者”の“財産権”を擁護する判決を下し、実際には尚志大の設立者でもないキム・ムンギ復帰の道を開き、最高裁は尚志大の臨時理事は正理事を選任できないとする判決を下すことによって彼の復帰を保障してあげた。 臨時理事体制がこのように持続する間、尚志大の正常化を先送りしてきた教育部は李明博政権以後に私学紛争調停委員会(私紛委)を通じてこの問題を処理したが、私紛委は最高裁の決定をもって過去の財団が正理事の過半数を選任できると恣意的に解釈し、彼に正理事の過半数の推薦権を与え、結局彼の復帰は秒読みに入った。 尚志大は“正常化”により“混沌”の道に入った。

 キム・ムンギは与野党の有力政治家らに政治資金をばらまき、この事件に直接関与はしなかったものの前私紛委委員長はローファームの代表として、紛争私学はこれらローファームの“顧客”であり、教育部官僚らにも私学は未来の“職場”なので、これらすべてワニとワニ千鳥のように共生関係で絡まっている。現教育部はキム・ムンギの尚志大総長選任取り消しを勧告すると言っているが、それは責任逃れにすぎないという疑いを拭えない。 なぜならファン・ウヨ教育部長官自身が2004年の私学法改正当時に私学側に立った人物であるためだ。

 尚志大は最も露骨な事例だが、そこまでいかずとも、全国の数十校の私立中高等学校や大学校が財団不正、理事長の専横、内部告発者の罷免などで疲弊している。私学側は自主性と自律性を主張しているが、それは理事長が学校を専横する“自由”を意味する場合が多い。セウォル号事故の200人をはるかに超える生徒たちの死はこの上なく大きな悲しみだが、1万、いや100万人余の学生たちがこういう“専制君主”が支配する“凍土の王国”で、内部不正を告発する良心的義人が報復され、大多数の教育者が卑屈に生きていくのを見習わせていること自体が、清浄な上水源に毒劇物をまくような行為で、青年たちの正義感や民主意識が咲く前に枯れさせていると言わずに何だろうか?

 だから今回の尚志大のキム・ムンギ復帰により、韓国社会の正義と民主主義が確実に死んだだけでなく、韓国の教育と未来までが同時に死ぬことになったと考えるのである。

キム・ドンチュン聖公会(ソンゴンフェ)大学社会科学部教授

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/653875.html 韓国語原文入力:2014/09/02 18:34
訳J.S(1869字)

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