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[朴露子ハンギョレブログより]兄ちゃん馬鹿スタイル?

登録:2012-11-11 09:59 修正:2012-11-12 06:52
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授

 率直に言えば、こんな文を書くのも後ろめたい気持ちです。チョン・ウィボン、チェ・ビョンスン同志たちが送電塔の上で篭城しているこの瞬間、「国内」のことなら、彼らが代表になって闘っている非正規雇用問題が真っ先に思い浮かび、いかにすれば彼らと連帯できるかということを先ずは考えるからです。それでも、どうしても書かざるをえないような気がします。非正規労働者をいくら絞り取っても船や自動車輸出の分野で中国との競争が次第に難しくなることを把握した南韓の支配階級は、内需主導の、民衆生活中心の新しい経済への転換の代りに、もう一つの「輸出ドライブ」という切り札を打ち出したからです。今や彼らが売り出そうとしているものは派手で便利で高そうに見えて、安楽な「産業化と民主化の奇蹟の国コリア」のイメージが埋め込まれている洗脳剤(俗に「大衆文化」という)、つまりは「韓流」です。その新しく偉大な輸出立国ドライブの先頭に立っている輸出戦士とは玉冠文化勲章(!)までも授与された「サイ」パク・ジェサン(朴載相)氏と彼の「江南スタイル」であるため、その「奇蹟の輸出商品」をめぐって、それでも一言触れなければならないと思います。もちろん、この商品そのものを私が「評論」しようとするつもりはまったくありません。それに値するほどの、個性的なテキストや動画がまったくないからです。しかし、このような「江南産洗脳剤」が「ヒット輸出商品」になったこと自体は、今日の新自由主義的な世界が到逹したある袋小路に関して、あまりにも多くのことを物語っているので、少し言及したいと思います。

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授

 「韓流商品」などの絶対多数がそうであるように、「江南スタイル」の最大の特徴はその限りない陳腐さにあるようです。たとえば、北朝鮮の指導者が開口一番におそらく「自主性」や「主体」を言及し「強盛大国」を言い出すのと同じように、自惚れに陥った江南特別市の市民だけが作れる洗脳剤もあまりにも陳腐です。万事意のままに運び、ボルテールのある主人公のように「私は歴史上最高の世の中に生きている」ことを確信する男性主人公、感覚的な足と尻、そして「露出が激しくなくてもとてもエッチなダンス」を踊る女性たちという「背景」、豪華そうなバス、豪華そうなビル、豪華そうなダンス教室、豪華そうな乗馬教育……平壌発の宣伝動画に必ず出てくる主体思想塔のように陳腐です。とてもつまりません。映像もそうですが、それ以上に―最近息子が無意識におうむのように繰り返している―歌詞の陳腐さは鼻持ちならない域に逹しています。「淑やかにみえるけど 遊ぶ時は遊び、隠していながらさらけ出す、よりセクシーでここぞという時には結んでいた髪をほどく女」―これは近代的マッチョたちの夢の女性です。A lady at table, a whore in bed(食卓では淑女、ベッドでは娼婦)。そのような女性を相手にして、社会的な位相の確保から性欲までのすべてを満たそうとするのは男性優越主義的な社会の最も平凡な男性の最も平凡な欲望でしょう。「夜になると心臓が熱くなる女」……女性の皆様、こんなポルノ的な想像は聞くだけで頭に来ませんか。女性を先ずは「性」として捉えようとする態度が明らかですね。ああ、男の私でも聞けば聞くほどじわじわと腹が立ってきます。しかし、この動画に接した6億とか7億とかの「世界人」の絶対多数はまさか歌詞の意味まではわからないでしょう?

 視聴者の多くは歌詞の意味は分からないでしょうが、たとえ分かっていても大差ないはずです。この動画が体現する男女の欲望が資本主義的な世界で極めて平凡で当たり前だから、この動画がこれほどまで「受けた」のです。「セクシー・レディー」が披露する豪華なブランド服を身に着けてみたいという欲望、摩天桜のような彼方に見える住商複合マンションで暮らしてみたい欲望、悠々自適に高価なダンスやヨガ教室に通いながら体を鍛えてみたい欲望、これらのあらゆるものをお金で満たしてくれそうな朴載相のような男を ―太っているとはいえ― うまく引っ掛けてみたい欲望、そして無数の感覚的な女性の脚を目の保養のために鑑賞しながら、あらゆる女体に対する征服的でエッチな想像をしてみようとする男性的な欲望……。つまらないでしょう?鼻持ちならないでしょう?陳腐で気持ち悪いですが、これこそが「韓流」のかなりの部分を売りさばく核心コードなのです。「江南スタイル」のような最低の「韓流」は最も低俗で最も粗野で最も動物的な資本主義的な欲望を極めて「素敵に」作りかえることをセールス・ポイントにしています。多くの朝鮮族などの外国人労働者と国内の非正規職労働者の血と汗で建設されたあの華麗きわまりないビルの森を背景にして、不動産投機などの反社会的な行為で富を築いた「江南族」の子女たちのよく鍛えられた健脚などを視覚的な材料に利用することによってです。

 こんな水準のビデオが「受ける」世界はいったい如何なる世界なのでしょうか?何らの出口も見えない長期恐慌の泥沼、中国の硬着陸と東アジア経済全体の長期的な沈滞可能性、未曽有の格差社会の到来を迎える新自由主義的な世界は、私たちの目の前の深淵を直視する勇気さえも持ち合わせていません。私たちが「タイタニック」に乗っていることをはっきり自覚する勇気ももちろんありません。断崖に向かってひたすら走り続けても、彼らは目をつぶって感覚的な江南のお嬢さんたちの脚に対するエッチな夢から一種の想像の逃避先を見つけようとしているようなものです。まあ、そうしたところで、断崖から落ちてしまう瞬間を引き延ばすわけにもいきませんが。

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学

http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/53356 韓国語原文入力:2012/11/09 04:23
訳J.S(2459字)

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