昨年10月に公開されたキャスリン・ビグロー監督の新作『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、米国のミサイル防衛網がシカゴに向かって飛来する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の迎撃に失敗したことで巻き起こる事件を描いている。米国が数千億ドルを投じてアラスカとカリフォルニアに地上発射迎撃ミサイルを配備したにもかかわらず、いざ核危機が迫るとこのシステムが無用の長物となるディストピアだ。軍事・安全保障問題を正面から取り上げて来たビグロー監督の新作だけに、大きな波紋を広げた。米国防総省傘下のミサイル防衛局(MDA)は、この映画に対する内部対応指針まで作成し、国防総省と機関の高官たちに配布し、会議や会話で映画が言及されても「現実とは異なる」と説明するよう指示した。
特にこの指針は、映画内のミサイル防衛網の迎撃成功率が50%程度に留まり、国防総省高官がこれを「コイン投げ」に例える場面を問題視している。ブルームバーグが入手した文書は、「映画内の仮想の迎撃ミサイルが目標を撃ち損なうのは、観客の興味を引くための劇的装置」だとし、「実際の発射実験はまったく異なる結果を物語っている」と主張する。映画がミサイル防衛網の能力を過小評価したフィクションだという主張だ。ところが、米国の軍備管理協会(ACA)や米国物理学会(APS)などの主要団体の分析報告書によると、この映画が描くディストピアの方がむしろ現実に近い可能性がある。
米国におけるミサイル防衛システムをめぐる論争は、実際の迎撃成功の可能性と天文学的な投資費用、軍拡競争の誘発リスクなどと関連し、数十年にわたり続いている。ロナルド・レーガン元大統領が1980年代にいわゆる「スターウォーズ」と呼ばれた戦略防衛構想(SDI)を推進したが、途中で断念した理由もここにあった。にもかかわらず、2001年の9.11同時多発テロ以降、ジョージ・ブッシュ政権を皮切りに米国の歴代政権はミサイル防衛に再び巨額の予算を注ぎ込んできた。国民に「ミサイルの盾」が米本土を安全に守ってくれるという幻想を植え付けようとする政治的動機と、軍産複合体の経済的利害が重なっているという批判が後を絶たない。
■「スターウォーズ」を復活させたゴールデンドーム
ドナルド・トランプ大統領が推進する「ゴールデンドーム」(Golden Dome)計画は、規模の面でこれまでのミサイル防衛システムをはるかに上回る。トランプ大統領は昨年1月、米国全土を空中の脅威から守る超大型防衛プロジェクトを推進する大統領令に署名した。当初は「米国版アイアンドーム」と呼ばれたが、後に正式名称が「ゴールデンドーム」に変更された。従来のシステムが主に北朝鮮の長距離ミサイルを標的としたのに対し、ゴールデンドームは中国やロシアなどの戦略的競争国の長距離弾道ミサイルや極超音速ミサイル、次世代ドローンまで包括するはるかに広範囲な脅威から米本土を守ることを目標としている。
ゴールデンドームはイスラエルのアイアンドームから着想を得たが、作戦の環境と技術的難易度は全く異なる。アイアンドームがハマスやイランなどから大気圏内へ飛来する短・中距離ロケットを迎撃する比較的単純なシステムであるのに対し、ゴールデンドームは大気圏外の高高度をはるかに高速で飛んでくる核弾頭搭載の長距離弾道ミサイルをとらえなければならない。防衛すべき空間も、韓国の都市一つほどの規模に過ぎないイスラエルとは異なり、米国領土はイスラエルの約450倍に達する。技術的難易度と開発・配備のコストが跳ね上がるのは避けられない。トランプ大統領は昨年5月、ゴールデンドームに1750億ドルを投入し、任期中に実戦配備を開始するとの抱負を明らかにした。
ゴールデンドームは既存の地上・海上迎撃機とレーダーシステムを基盤に、数百〜数千に及ぶ宇宙基盤センサーと宇宙配備型迎撃ミサイルを加える方式で構想されている。歴史の彼方へと消えた「スターウォーズ」が新たな名前で復活を遂げたのだ。このシステムには探知が比較的容易な発射の初期段階で敵のミサイルを破壊する概念が含まれている。発射後数秒以内にミサイルを無力化するレーザー迎撃技術や、膨大なセンサーデータをリアルタイムで分析する生成AIモデルなど、最先端技術を適用する計画だ。ロッキード・マーティンなどの伝統的な防衛産業企業はもちろん、ピーター・ティール氏率いるパランティア・テクノロジーズ、イーロン・マスク氏のスペースXなど、シリコンバレーのテック企業も受注競争に参入した。ゴールデンドームはトランプ大統領の主な経済的支持基盤であるビッグテック企業が防衛産業に本格参入する道であり、新たな利益創出手段となる見通しだ。
■グリーンランド併合論の名目として
ゴールデンドームは過去1年間進展が見られなかったが、最近トランプ大統領がグリーンランドにゴールデンドームを設置すると表明したことで、再び注目されている。トランプ大統領は米国本土をゴールデンドームで防衛するためには、グリーンランドが「絶対に必要だ」と主張する。先月21日の世界経済フォーラムでの演説で、「もし戦争が起これば、その戦いのかなりの部分はあの氷の塊の上で繰り広げられるだろう。ミサイルがその真上を横切って飛んでいくことになる」と述べ、グリーンランド併合の必要性を力説した。だが、米国はすでにデンマークとの軍事協定に基づき、グリーンランドに米軍基地を設けているため、併合せずともこの地域を戦略的に活用できる。「借りた土地では防衛できない」というトランプ大統領の論理は詭弁だ。ただし、核戦争発生時にグリーンランドが長距離ミサイルが行き交う「中間地点」に位置するという点は事実に近い。中国とロシアから米国へ、あるいはその逆方向に向かう最短飛行経路の多くが北極とグリーンランド近郊の上空を通過するためだ。
トランプ大統領の大胆な構想とは別に、米国のミサイル防衛システムの技術的限界と過剰な費用、中国・ロシアとの戦略的均衡を損なうリスクは依然として未解決の課題だ。「憂慮する科学者同盟」(UCS)によると、制御された条件下で実施された地上発射迎撃ミサイルの発射実験で、命中率は56%に留まったという。実際の戦争状況では攻撃側が多弾頭ミサイルや各種のデコイ(ダミー兵器)を同時に発射しうるため、迎撃成功率はこれよりさらに低くなる。仮に命中率が80~90%に高まったとしても、たった1発の核ミサイルを迎撃に失敗するだけで都市一つが壊滅的な被害を受ける可能性がある。また複雑なミサイル防衛システムを開発・配備するために米国が注ぎ込まねばならない費用は数千億ドルに達する一方、潜在的な敵対国ははるかに少ない費用でより多くのミサイルと精巧な攻撃手段を製造できる。軍備管理協会の分析によると、迎撃ミサイルの命中率が90%と仮定しても、米国は相手国がミサイルを開発・発射するのに要する費用の平均8倍を費やさねばならず、より現実的な命中率50%を基準にすると、その格差は70倍にまで広がる。米国議会予算局(CBO)は、ゴールデンドーム計画の今後20年間の総費用が8000億ドルを超える可能性があると予測した。
■核抑止と「恐怖の均衡」を揺るがす盾
仮に技術と予算の限界を乗り越えたとしても、より大きな問題が残る。ミサイル防衛システムは米中、米ロ間の核抑止の基盤である「恐怖の均衡」を揺るがす可能性があるからだ。核抑止力は、一方が核攻撃を敢行すれば、他方が残存の核戦力で報復し、双方とも致命的な被害を受けるという認識に基づいている。こうした「相互確証破壊」を恐れ、誰も先に攻撃ボタンを押せないのだ。しかし、一方が相手の報復能力をかなりの部分を無力化できるほど強力な防衛網を備えれば、この均衡は崩れ、先制攻撃の誘惑と誤算のリスクが高まる。米国が完璧な水準でなくとも、数千億ドルを注ぎ込み規模と性能を拡大し始めれば、中国とロシアが黙って見ているはずがない。より多くの核弾頭、より精巧なミサイル、より多様な欺瞞手段で対応しながら、軍拡競争はアクセルペダルを踏むことになる。
過去の米国政権で核交渉官を務めたロバート・ハンター元NATO大使はフィナンシャル・タイムズへの寄稿で、戦略防衛構想をめぐる論争を振り返り、「当時も長い時間をかけて批判的な検討を重ね、結局は断念する結論に至った。今、ゴールデンドームを推し進めている人々は、あの頃の議論を覚えていない人たちだ」と述べた。ハンター元大使は「技術は進歩したかもしれないが、戦略防衛構想に対する戦略的・政治的反対論理は今日のゴールデンドームにもそのまま適用できる」と指摘した。商業的利害関係者と軍事官僚の利害が絡み合いプロジェクトが再始動しているが、その結果は偶発的な衝突や誤判断による核戦争のリスクをむしろ増大させる恐れがあるという警告だ。
トランプ大統領は2024年の大統領選挙当時の遊説で、「私は戦争狂たちを追い出す。ミサイル1発が200万ドル程度だから、彼らはあちこちにミサイルを落とすのが好きなのだ」と述べた。さらに「戦争で利益を得る軍産複合体を浄化し、終わりのない戦争を終結させる」と約束した。ところが、米国人だけでなく、全世界が今目撃しているように、これは権力を取り戻すための甘い欺瞞に過ぎなかった。トランプ大統領は世界を新たな戦争の惨禍に陥れる可能性のある危険なゲームを繰り広げている。