「政局の影響については今触れるべきではないと思う。私自身もそういったことを考えていない。まず、今の厳しい状況に対して『救命措置』がしっかりと行われること、政府としてはあらゆる事態に対応できる万全の措置を用意することが大事だと思う」
8日午後2時40分、安倍晋三元首相の「狙撃」の知らせを聞き、急きょ東京の首相官邸に戻ってきた岸田文雄首相は、緊張の面持ちでカメラの前に立った。集まった記者団が安倍元首相の狙撃事件が今後の日本の政局に及ぼす影響を尋ねたが、まだこれに触れる時ではないとして、明確な言及を避けた。
しかし、2012年から7年8カ月間にわたり「世界3位」の経済大国の首相を務め、新冷戦に突入する東アジアで、日本の「針路」を決めた安倍元首相の存在感を考えると、今回の事態は日本だけでなく東アジア全体の情勢に甚大な影響を及ぼすものとみられる。
まず関心を集めるのは、10日に迫った参議院選挙だ。日本では有力政治家が志半ばで死去した後に行われる選挙を「弔い合戦」と呼ぶ。故人に対する追悼の中で行われる選挙であるため、その遺志を受け継いだ方が大勝を収めるケースが多い。ただでさえ今回の選挙では自民党が「四分五裂」した野党を相手に圧勝すると予想されていた状況だった。
今回の選挙は当初、昨年10月の就任以後、安倍元首相の「強硬路線」に押されていた岸田文雄首相が勝利を通じて自身の政策を展開する契機になるかどうかに注目が集まった。だが、今回の狙撃事態で選挙が「岸田の独立をかけた戦い」ではなく、「安倍を追悼する戦い」になってしまった。選挙で大きな勝利を収めた後も岸田首相の影響力が低下し、安倍元首相の遺志を維持していくべきだという高市早苗氏や萩生田光一氏ら強硬派の影響力が大きくなりかねない。安倍元首相が首長を務める安倍派(清和政策研究会)は伝統的なタカ派・保守派の派閥で、党内で最も多い現役議員95人を抱えている。
強硬派が政局の主導権を握ることになれば、今後改憲や現在進行中の外交・安全保障政策にも大きな影響が予想される。まず、改憲だ。安倍元首相と祖父の岸信介元首相などは憲法改正を「悲願」、「歴史的な使命」と呼んできた。岸田首相は憲法改正自体には同意しながらも、日本の軍隊保有と交戦権を否定した平和憲法の中核である9条については慎重な態度を示してきた。しかし、今回の事態で日本政界の雰囲気が一気に9条改正の方に傾く可能性が高くなった。自民党は安倍元首相在任中の2018年、自衛隊の存立根拠を盛り込む内容の改憲案を発表した。
次に外交と安全保障の路線だ。自民党は今回の選挙公約集で「北大西洋条約機構(NATO)諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に置き、防衛関係費の増額を目指す」と明示した。この公約が現実化すれば、5年後の日本の防衛予算は10兆円を超え、世界3位の規模になる。岸田首相は「数字ありきではない」と強調したが、党内強硬派の主張に押される可能性がある。
中長期的に米日関係や韓日協力にも少なからぬ影響が予想される。安倍元首相は2015年4月、日米防衛協力のための指針などを改正して日米同盟を強化する一方、2016年、米国の東アジア政策になった「自由で開かれたインド太平洋構想」を初めて打ち出した。最近では台湾に対する中国の軍事的脅威を提起し「台湾有事は日本有事だ。日米同盟有事でもある」という認識を重ねて示した。韓国に対しては2015年8月、安倍談話を通じてこれ以上歴史問題で謝罪できないという意思を明らかにし、同年末の慰安婦合意後には「合意は1ミリも動かない」と述べた。日本との関係改善の糸口をつかもうとした尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府の立場にとっても、安倍元首相の死亡は「災害的なニュース」と言える。