米国の経済と通商を総括しているジナ・レモンド商務長官とキャサリン・タイ通商代表部(USTR)代表が最近、韓国や日本、シンガポール、マレーシアなどインド太平洋地域の主要国を歴訪し、ジョー・バイデン政権が来年初めの発足を目指している「インド太平洋の新経済枠組み」(Indo-Pacific economic framework)構想を説明した。今年1月に発足して以来、バイデン政権が総力を挙げて進めてきた中国牽制のための「グローバルサプライチェーンの再編」の検討作業がほぼ終わり、実行を目前にしているものとみられる。
米通商代表部は19日(現地時間)、ヨ・ハング産業通商資源部通商交渉本部長との会談内容を伝える報道資料で、「タイ代表は、インド太平洋地域で新たな経済枠組みを発展させようとするバイデン大統領のビジョンを強調した」とし、「この経済枠組みは、同地域で共通した目的をめぐる我々の経済的連携を導き、労働者と中産階級により良い生活をもたらすことで、我々の未来を位置づける」と明らかにした。会談の内容を伝える韓国の報道資料には関連言及がなかったが、米国は、全体が3つの段落で構成された短い資料で、1段落を新たな経済枠組みの説明に充てた。
米国がまだ聞きなれない「インド太平洋の新経済枠組み」という用語を初めて使ったのは、先月27日に画像で行われた東アジア首脳会議の時だった。ホワイトハウスはその後、報道資料で「バイデン大統領は、米国がパートナー(partners)とともに我々の共通した目標を定義するため、インド太平洋の新経済枠組みの発展を模索するだろう」と発表し、2日目に取り上げる主要分野として、貿易の活性化▽デジタル経済と技術の基準作り▽サプライチェーンの弾力性▽脱炭素とクリーンエネルギー▽社会間接資本▽労働基準などを挙げた。
今年1月末に就任したバイデン大統領は、中国との戦略競争で勝つための「カギ」として、グローバルサプライチェーンの再編作業を挙げ、実行に大きな熱意を示してきた。就任直後、半導体や大容量バッテリー、中核鉱物、医薬品の4分野に対する「サプライチェーンの危険性」を診断する行政命令に署名した。また4月12日には、サムスン電子など19のグローバル半導体企業の最高経営責任者(CEO)を呼び集めて会議を行ったなかで、半導体のウエハーを手にして見せながら「この半導体がインフラだ」と宣言した。さらに、6月8日に発表された「サプライチェーン危険性報告書」の結論に基づき、米国内の生産能力の再建と友好国との協力を推進してきた。その延長線上で、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれた10月31日、韓国など14カ国と「グローバルサプライチェーンの安定化」会議も開いた。
しかし、米国が提示した経済枠組みが何を意味するのか、まだ明確ではないのが事実だ。タイ代表は18日、NHKのインタビューに対し、「我々は中国の脅威という課題に直面している。経済的な利益を守り、利害を共有する同盟国や友好国と連携しなければならない」と指摘した。レモンド長官は17日と18日にそれぞれ「来年初めごろ、同地域に適した『経済枠組み』に帰結する正式な手続きを始めたい」とし、「我々は通常の自由貿易協定を描いているわけではない」と述べた。中国を牽制するための自由貿易協定の枠組みではなく、民主主義の価値を共有する信頼できる国家間のサプライチェーン「トラストバリューチェーン」(TVC)をつなぐための通商ルール作りを目指しているものとみられる。
米国が「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」に復帰すべきだと主張してきた日本からは、失望の声が相次いだ。朝日新聞は18日付で米国の構想について「現時点で実質は乏しい」とし、「TPP(環太平洋経済連携協定)への復帰が難しいなか、限定的な形にせよ、インド太平洋地域への関与を続ける姿勢を示したい、という米政権の苦しい事情がある」と指摘した。