中国が韓国と契約済みの尿素1万8700トンに対する輸出手続きを進めるという意向を表明したことが報じられ、この数週間に大韓民国を騒がせた「尿素水問題」は沈静化する局面に入る見通しだ。今回の騒動は、「グローバル・サプライチェーン」(global supply chain)に深く編入された韓国経済の脆弱性を再び示した重大な事態だが、関係各国との友好的な関係を維持する以外に、適切な解法策を見出すことは容易ではない。
今回の問題は、中国の海関総署(関税庁)が先月11日に発表した短い公告を通じて始まった。この公告により、4日後の15日から尿素など29の物質が、以前にはなかった輸出検疫を受けることになった。これを事実上の「輸出禁止」措置だと受けとめた韓国では、尿素水の品薄というパニック現象が起きた。特に、尿素水を持続的に供給しなければならない排出ガス低減装置を装着した貨物車両が運行を止めれば、“物流の毛細血管”が詰まるという恐怖が広がり、経済全体が非常事態になった。中国の石炭と電気の需給の不均衡が、韓国経済を脅かすバタフライ効果を発生させたのだ。
振り返ると、過去10年ほどの間、東アジアではこれに似た騒動が繰り返されてきた。2009年まで全世界のレアアースの供給の97%(日本の全体輸入の92%)を占めた中国は、2010年9月に尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる中国と日本の領土紛争が始まると、輸出を中断する報復措置を敢行した。その後日本は、レアアースの「戦略的重要性」を認識し、アジアやアフリカなどへの輸入先の多角化を試みた。
2年前の2019年7月には、日本が加害者になった。強制動員被害者への賠償を命じた韓国最高裁の判決に対する報復として、半導体生産に必須なフッ化水素など3つの物質に対する輸出規制を強化したのだ。韓国政府は「誰も揺さぶることのできない国」を作るというスローガンのもと、積極的な対応に乗りだしたが、“半分の成功”に留まっている。国立外交院外交安全保障研究所のキム・ヤンヒ経済通商開発研究部長は、7月に出した報告書で、「輸出規制を受け、3品目だけでなく韓国による素材・部品・装置全体の日本からの輸入が減少したが、2020年にはふたたび増加し、対日輸入の強い経路依存性を示している」と指摘した。韓国政府が定めた100大素材・部品・装置の重要品目の今年1~5月の対日輸入依存度は、2年前の31.4%から24.9%に下がったが、フォトレジストの対日依存度は今もなお90%を超える。長期間にわたり自然に形成されたグローバル・サプライチェーンを人為的に調整することは容易ではないことを示す例だ。重要戦略物資の輸入先多角化は重要だが、特定国への依存度が高い品目(80%以上が3941個)のすべてに対応するのはそもそも不可能だ。
反対に、一国が政治的な理由でグローバル・サプライチェーンに打撃を与えた場合、深刻なブーメランとなって戻ってくることもありうる。これを知った中国は、2018年に米中貿易戦争が始まった際、2010年のようにレアアース制限のカードをほのめかしながらも、実際には使わなかった。日本も言葉だけは勇ましかったものの、半導体のサプライチェーンに手を出すことへの負担のため、3つの物質の対韓輸出を禁じなかった。
今回の問題の長期的な解決策は、7月の韓国の素材・部品・装置産業成果懇談会で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が自ら明らかにしている。文大統領はその席で「何でも自立しなければならないと考えるわけではない。国際的な分業体系とサプライチェーンを維持することは、今もなお重要だ」と述べた。韓国の繁栄を可能にしたサプライチェーンの維持のために努力し、問題が発生するたびにすみやかに対応する以外に解決策はない。「誰も揺さぶることのできない国」は、誰か揺さぶっても耐えうる柔軟性と体力を備えた国だ。