「大会中止や延期という単語は言及もされなかった」
トーマス・バッハ国際オリンピック委員会（IOC）委員長が4日、スイスのローザンヌでIOC理事会が終わった後に発した言葉です。東京五輪(7月24日～8月9日)を予定通り開催するとの意向を確認しました。しかし、このような言葉自体が東京五輪が危機に瀕しているということを象徴的に示しています。東京五輪が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のために中止される映画のようなことが実際に起こるのでしょうか？
こんにちは。東京特派員のチョ・ギウォンです。東京五輪中止の話は日本では始めは噂程度に気に留めておく雰囲気でした。1月からSNS上で出回り始めました。そして橋本聖子東京五輪・パラリンピック担当大臣(五輪相)は1月31日、閣議後の記者会見で「『東京五輪は大丈夫か』と心配する話が流れているようだが、そんな事は全くない」と言いました。近代五輪の歴史上、五輪が感染病のために中止された例は一度もありません。2002年米国のソルトレイクシティ冬季五輪の時は重症急性呼吸器症候群(SARS)が、2016年ブラジルのリオデジャネイロ夏季五輪の時はジカウイルス感染症が問題となり、一部の選手が出場を放棄しましたが、大会の中止や延期はありませんでした。
五輪には天文学的な費用が出費されます。日本の行政府の各機関の支出を検査する会計検査院が昨年末、大会開催に必要な間接費用として出費された金額だけですでに1兆600億円に達すると発表しました。開催費用の総額は今後出費される予定の項目を合わせると、少なくとも3兆円を超える見込みです。第一生命経済研究所のエコノミストの永濱利廣氏は、東京五輪が中止となれば経済損失の予想額は2兆6000億円に達するはずだと見通しました。
大会中止の権限はIOCが持っていますが、IOCも大会を中止するのは大きな負担を負います。中継権料と大企業の後援で莫大な額を稼いでいるからです。
近代五輪の歴史上、大会が中止されたことは何度かあります。第一次・二次世界大戦の時のことです。その中には東京も含まれています。日本で「幻の五輪」とも呼ばれる1940年東京五輪です。日本はアジアで初めて五輪を開催する計画でしたが、日中戦争を起こした後に開催権を返上しました。日本は敗戦後に高度経済成長の時期である1964年に東京で五輪を開催しました。今も日本のドラマと映画の常連の題材の一つは、1964年東京五輪の頃に一生懸命働いた庶民の姿と戦後復興の風景です。大変だったが懐かしい時代と認識される場合が多いのです。
日本は今も経済大国ですが、地位は少し変わりました。2011年に国内総生産(GDP)基準の国別経済規模2位の座を中国に渡しました。人口は減少して超高齢社会に突入しました。安倍晋三政権が「美しかった時代」として思い出される東京五輪を再び開催することになったのは、このような社会的背景が作用しています。東京五輪の開催後に安倍首相が生涯のテーマと言った「憲法改正」に打って出るはずだとの観測も少なくありません。安倍政権の命運は東京五輪の開催の成功次第であると言っても過言ではありません。安倍首相が大規模なイベントの一律的な自制要請、全国の小中高校の一斉休校要請、韓国と中国からの入国者の事実上隔離措置のような強硬策を相次いで出す背景には、東京五輪があります。
日本では中止という最悪の場合を備えたシナリオも議論されています。橋本五輪相は3日、「開催都市の契約には、IOCが(大会を)中止する権利を持つのは『2020年中に開催されない場合』だと書かれている。2020年中であれば延期も可能だと解釈できる」と言いました。1964年東京五輪は夏ではなく秋の10月10日から10月24日まで開かれました。一部では無観客で大会を開催する案も議論されています。しかし、現在の日程は米国のメジャーリーグ、欧州のプロサッカーなど別のプロスポーツ競技大会の日程などを考慮して決められたものです。無観客はもちろん、延期して開催しても他のスポーツイベントと重なり、東京五輪を成功裏に開催したと表現することは難しくなります。
多くの事情を考慮する場合、IOCと日本政府は日程通りの開催を最大限推進するものと見られます。しかし、ウイルスは人の思い通りには動かないので、東京五輪の運命も霧の中です。橋本五輪相は「5月末が大きな基準になるのではないかと思う」と言いました。5月になれば輪郭が明らかになるのではないでしょうか。
東京/チョ・ギウォン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
訳M.S
