中国の習近平国家主席の訪朝は、今年初め北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の4度目の訪中の際、金委員長の招待を「快諾」したことで、事実上確定した。ただし、ハノイで開かれた第2回朝米首脳会談が物別れに終わったうえ、米中貿易戦争が勃発したことで、習主席の訪朝時期は予測が難しくなっていた。ところが、北朝鮮の核交渉が膠着に陥った中、今月末に主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、貿易戦争の相手であるドナルド・トランプ米大統領との対面を控えた習主席が訪朝を決断したのは、時期的に少なからぬ意味がある。専門家らは、習主席が金委員長に何を提示するかが、朝米・米中関係の行方を左右すると見ている。
習主席の訪朝は、何よりも米国の攻勢に対抗するテコを確保するためというのが大方の見解だ。中国は、米国の大規模な報復関税と華為(ファーウェイ)製品の不買キャンペーンにより、大きな圧迫を感じてきた。トランプ大統領は28~29日に大阪で開かれるG20首脳会議で貿易交渉の突破口を見出せない場合は、残りの年間3000億ドル分の中国商品に高率の関税を課すと脅している。米国はまた、最近浮き彫りになった犯罪者引渡し条例に対する香港人の抵抗問題も今回の議題にすると明らかにした。金委員長の第1~4回訪中が、米国との交渉を控えて中国という後ろ盾を誇示するためのものなら、今回は習主席が訪朝を通じて「中国は北朝鮮に対し、かなりの影響力を持っている」というメッセージを送ろうとしているわけだ。
さらに、朝米が交渉を再開する場合に備えた布石という見解もある。これまで朝米間の仲裁に消極的だった中国が、「中国パッシング」(中国排除)を防ぎ、朝鮮半島問題において積極的な役割を果たすという信号弾として、訪朝を決めたということだ。ただし、これまで朝米の間で意味ある接触が行われている兆しはない。
こうした状況認識と判断をもとに訪朝する習主席が、北朝鮮にいかなる“贈り物”を贈るかが、米中貿易戦争と北朝鮮核問題の解決に向けた努力において大きな意味を持つものとみられる。習主席が北朝鮮というカードを米国への対抗手段として使用しようとし、米国がそれに反発した場合、むしろ関係が硬直する恐れもある。しかし、中国が「段階的・同時非核化交渉」という北朝鮮の立場には同意しながらも、無理な制裁緩和で米国との対立を激化させることはしないだろうというのが、大方の予想だ。亜州大学のキム・フンギュ教授は「習主席は、米中の戦略争いにおいて新しい変動要因を作り出すよりは、新たに始まる朝米対話において積極的な協力者の役割を果たせるという点を強調するだろう」と見通した。
その代わり習主席は、国交樹立70周年を迎えた北朝鮮との緊密な関係を強調することで、訪朝の効果を最大限に引き出そうとするものと見られる。習主席は昨年、金委員長との会談で、「朝中両国は運命共同体であり、変わらぬ唇歯の関係」や「双方の共通した戦略的選択」などの表現で、両国の関係を強調した。金委員長にとっては、制裁問題に関する習主席の全面的な支持を得ることができなくても、自分の執権以降、中国の最高指導者が平壌(ピョンヤン)を訪れ、両国関係の強化を宣言すること自体が大きな外交的成果だ。
また、中国側が関係発展に対する青写真を提示すると共に、国連制裁に反しない範囲内で一部経済支援や人道支援に乗り出す可能性が高い。中国は昨年5月から10月までに、米1千トンと肥料16万2千トンなどを北朝鮮に無償で支援した。先月23日、中国税関総署がまとめた月間朝中貿易統計によると、今年4月の朝中貿易総額は昨年同期に比べて39%増えた。特に、時計やかつらなどの北朝鮮制裁の対象でない品目を中心に、北朝鮮の輸出が地道に増えている。全面的な制裁の中で、中国との貿易で北朝鮮が息を吹き返しているという意味だ。このような内容は、中国が制裁の行列から離脱せずとも、朝米交渉に関する北朝鮮の態度に影響力を及ぼす可能性があることを示す効果もある。