日本の朝鮮半島研究者の小此木政夫慶応大学名誉教授(71)は、文在寅(ムン・ジェイン)政権が南北対話を始めることが「韓国外交の影響力を高める」とし、「ドナルド・トランプ政権は意外と反対しないかもしれない」と話した。小此木教授は最近、韓日が最も鋭く対立している懸案の2015年韓日慰安婦の合意については「再交渉を要求しても解決しないだろう」と見通した。インタビューは、文在寅大統領就任式翌日の11日、慶応大学研究室で行われた。
-日本のマスコミは文在寅大統領が慰安婦合意の再交渉を要求してきた点を強調し、韓日関係の悪化が懸念されると報じている。韓日関係をどう展望するか。
「(文在寅大統領就任直後の)1カ月が最も重要だ。韓国人らは再交渉について語っているが、客観的に見ると、朴槿恵(パク・クネ)政権3年間(韓日両国が)歴史論争の末に最後に到達したのが、(2015年の韓日慰安婦)合意であるため、安倍政権は再び交渉するつもりがない。これは、日韓の基本関係に関する合意であり、自由貿易協定(FTA)や環太平洋経済パートナー協定(TPP)のような通商交渉とは異なる。大統領選挙期間には韓国大統領候補が合意撤回と再交渉を掲げていたが、これをそのまま受け入れてしまうと、日韓関係は厳しくなる。最初から壁にぶつかってしまう。日本のメディアと国民みんなが懸念している。私は少し時間がかかっても、韓国の新政府が(慰安婦合意の)再交渉でもなく、再確認でもない中間のイニシアティブ、両方とも満足まではいかなくとも、受け入れられる中間の道を模索しなければならないと思う。そのためなら、日本はおそらく1カ月や2カ月は待てるだろう。日本側も安保問題があるため、韓国との関係を壊したいとは思っていない。安倍首相は『韓国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国』と述べている」
-歴史問題と安保などの他の問題を分離しようというツートラック・アプローチについてはどう思うか。
「理想的だと思う。それができれば、日韓関係は新しい次元に入ることになる。歴史問題に原理主義的にアプローチする限り、韓日は衝突せざるを得ない。しかし、すでにある慰安婦問題に目を瞑ってツートラックでアプローチするとしても、誰も納得できない。結局、合意を履行するかどうかの問題だ」
-慰安婦問題はずっと平行線を辿ると予想するか
「再交渉で解決するのはありえないことだ。日本政府は法律的問題を含め(1965年の)韓日基本条約で解決された問題だという立場だ。だからこそ、ぎりぎりの合意として出たのが2015年合意だと思う。2015年の合意が不満足だからといって、再交渉をするのは無理だ。基本的な立場の違いがあるため、韓国が再び問題を提起しても、その合意以上の合意は出ないだろう。そして合意に対する文化的違いもある。日本人は侍文化だから、約束の内容も大事だが、それ以上に約束を守ることが大切だ。日本人は、誤った約束でもまず守らなければならず、そうでない人間は信用できないと思っている。それが日本人の感覚だ」
-日本では文在寅候補を「北朝鮮追従の反日」と報じ、警戒する見方が多かった。
「日本のメディア、特に週刊誌とテレビがそのようなレッテルを貼っている状況を私は批判的に見ている。そんなことをしてはならない。最初から固定したイメージを作ってしまうと、関係改善が進まない。日本のメディアが(韓国の大統領選挙で)保守派を支持した理由は、保守派なら合意を守ると誤解していたからだ。しかし、同様に安保問題も重要だ。日本のメディアは必ず反日の前に北朝鮮追従という修飾語をつける。安保問題に不安を感じる人たちが多いということだ」
-文在寅大統領は、北朝鮮との対話を重視すると表明しているが
「(北朝鮮と交渉経験が豊富なソ・フン国家情報院長の内定のような)人事を見ると、文大統領は比較的早い時期に南北対話を始めたいと思っているようだ。低い段階で人道的交流や民間交流などを開始することも悪くないと思う。特に、平昌(ピョンチャン)冬季五輪と関連したスポーツ交流が活発化するのではないだろうか。そのような努力が韓国外交の推進力を高める。現在の韓国外交は米国とも問題があり、中国、日本とも問題を抱えている。そのような状況で突破口を見つけるのは容易ではない。南北対話を始めると、周辺諸国が韓国を見る目が変わってくる。対話を始めるのは、南北間だけでなく、対外的にも意味がある。例えば、日本の場合、慰安婦問題だけを考えがちだが、韓国が南北対話を開始すると、日本は(韓国と)もう少し慎重に交渉すべきではないかと思うようになるだろう。韓国の外交的影響力が高まるのだ。(南北対話の再開に)日本は否定的かもしれないが、中国とロシアは歓迎するだろう。問題は米国だ。トランプ米大統領は意外と反対しない可能性がある。トランプ政権の特徴は、オバマ政権とは異なることを示したがっているということだ。だから(オバマ時代の)『戦略的忍耐』即ち、交渉しない方式を取らない。軍事的に脅威したり、外交的取引を図ったりと、オバマがしなかったことをしようとする。しかし、軍事的行動が非常に困難であることを今回の(朝鮮半島)危機を通じてトランプは感じたはずだ。それで今度は対話局面だ。米朝関係でも対話の局面に入ると言える。それに先立って韓国政権が(南北対話を)始めるのも悪くない」
-南北首脳会談を行った金大中(キム・デジュン)政権時代に比べ、周辺の状況が厳しいが
「そうだろうか。その時も9.11テロやイラク戦争が続いた。文在寅政権の誕生と共に、北朝鮮は瀬戸際戦術から対話政策に転換するだろう。いきなり高い段階ではなく、低い段階から始めるのも悪くないと思う。その結果、韓国外交の影響力が高まるだろう。北朝鮮は、米国と中国が連携して経済制裁を加えているため、韓国から突破口を開こうとするはずだ。それで南北対話が比較的早い時期に動く可能性が高いと見ている。北朝鮮は『先南(韓国)後米』だ。南北が主体的に何かをしようとすることだから、貴重な試みだと思う。ただし、北朝鮮が政治的会談と軍事会談を要求する可能性がある。文在寅大統領の言う通り、段階的に進めるのが良いと思う。もちろん核問題で周辺国と北朝鮮の交渉が進まなければ、南北対話には限界がある。いくらレベルを高めようとしても、(北朝鮮が)核実験を行ってしまうと、どうしようもならない。おそらく、北朝鮮が考えることは核と長距離ミサイル開発の凍結であろう。凍結を材料にして米国と取引をしようとするはずだ。最近、北朝鮮の動きも核兵器とミサイルの価値を高めるためのものだった。しかし、これも結局、取引を成功させなければ、北朝鮮にも何の意味もない。もし北朝鮮が軍事挑発を続けるのであれば、長期的には封鎖政策や確実な相互抑止、つまり、在韓米軍の戦術核兵器の再配備が必要になるだろう」
-韓国の新政府に言いたいことは
「いきなり大きなことを狙わず、小さくても大切なことから取り組むことが重要だと思う。真実は細部に宿ると信じている。今回の政府は困難を抱えるだろう。(議会の)過半を確保したわけでもなく、対外的にも様々な問題がある。そのような問題を一度に解決しようとしてはならない。日韓関係がいきなりよくなることはありえない」