本文に移動

[インタビュー]「日本の未来がかかった北陸3県、背景には『思考の力』教育」

登録:2016-12-05 00:28 修正:2016-12-05 08:29
「フォーブスジャパン」藤吉雅春副編集長
藤吉雅春「フォーブスジャパン」副編集長兼シニア・ライター//ハンギョレ新聞社

 「日本がより良い未来を作ることができるかどうかは、福井県にかかっている」

 ノンフィクション作家の藤吉雅春氏(48)は、2014年に日本の官僚社会を取材した時、東京の文部科学省の構内食堂でそんな話を聞いた。「日本の行政の中心である中央省庁で勤務するキャリア官僚が、人口約79万人の小さな県に期待をかけるとは。なぜよりによって福井県なのか?」藤吉はその官僚がぜひ会ってみてはと紹介してくれた福井大学の教授を訪ねた。昨年4月に出版され、これまで2万冊が売れたという彼のベストセラー『福井モデル 未来は地方から始まる』(韓国語訳「こんなに素敵な村」キム・ボムス訳、ファンソジャリ出版)は、こうして生まれた。

 先月24日、ハンギョレ新聞社主催で開かれた第7回アジア未来フォーラム社会的経済セッションで、福井県など日本で最も幸福指数が高い「北陸3県」の地域再生事例を発表した藤吉雅春「フォーブスジャパン」副編集長兼シニア・ライターに、フォーラムが開かれた汝矣島(ヨイド)で会った。

福井など本州中西部の3県 
就職率・学歴などで日本最高 
討論教育、多様性尊重する土台 
著書『福井モデル 未来は地方から始まる』で紹介 
アジア未来フォーラムで事例発表 
「日本の未来は北陸3県にかかっている」

 北陸は日本の本州中西部の日本海沿岸の、雪が多く山の多い福井・石川・富山の3県を指すが、その上の新潟県まで含めて北陸4県と呼ばれたりもする。伝統的に寒くひっそりした立ち遅れた地域というイメージが強かったが、『福井モデル 未来は地方から始まる』がベストセラーになった後、ここは安倍晋三首相をはじめとする「日本政府の中央官僚も注目する新たな未来モデルとして浮上」した。

 「子供たちの学力に関する日本全国調査で最下位だった大阪地域の先生が、最上位の福井県の教育事例を持ち帰り活用して成功した。福井では勉強のできる子とできない子がお互いに学び教えあって、一緒に勉強する。例えば大阪でも数学の問題をそのようにして解かせたところ、大きな成果があった。子どもたちは競争ではなく協力で成長する。北陸式の学校教育は教育に関する日本社会の従来の観念を覆した」

 小・中学校の学力と体力の評価でも福井県は常に最上位であり、福井大学の就業率も全国の国立大学の中で最高だ。就職後の転職率は7.1%で、全国平均の31%に比べて著しく低い。

 「1990年代末以降、日本は人が生きにくい社会になってしまった。変えなければならないという話は多かったが、誰がどのような順序でどんなふうにやればいいのか分からなかった。地方の解決策を直接見ながら、日本の問題は地方から探り、そこから始めなければならないと思った」

 福井県は人口10万人当たりの社長輩出率、夫婦共働きの割合、正社員比率、人口10万人当たりの書店数がすべて全国1位だ。藤吉によると、日本の経済企画庁が1999年まで7年間実施した日本新国民生活指標(豊かさ指標)で、福井が5年連続「暮らしやすさ」で1位を占めた。

 福井は眼鏡フレームの生産で日本国内の市場占有率98%を占める世界3大眼鏡産地の一つだ。藤吉は「福井の企業が生産する製品や技術の中で、世界シェア1位が40個、国内シェア1位は51個にもなる」と話した。

 京都出身の看護師経歴18年の山本典子という40代の女性が、結婚後専業主婦として定着した福井で4人の子どもを出産した後、再び看護師として就職し共働きをしていたところ、看護師たちがポケットに入れておく外科用テープをよく床に落とすことに着目し、プラスチックケースのテープカッターを作った。そこから中小企業家になり、金属の騒音をなくした木製点滴スタンド「フィール」など、他の製品も開発し輸出企業に成長した。藤吉は福井地域全体がこのような企業のアイデアを実際の成功に導く「インキュベーターの役割」をしていると話した。彼は大手企業を外部から誘致することに努力している地域よりも、このように自主的な力量を育て活用する地域が成功の可能性が高いと見ている。草の根企業を育成するためには、創意的な人材が必要であり、創意的な人材を呼び込むためには「(山本のような)外地からの人に寛大で多様性を尊重する空気が必要」だ。

 このようなインキュベーターの環境がなぜ、どうやって福井で自生したのだろうか。「その背景には中央政府の方針に逆行する動きがあった」

 2000年代初め、森喜朗首相時代にいわゆる「平成の大合併」という自治体合併政策が実施された。その時、福井市と鯖江市の合併作業も推進されたが、これに反対した鯖江市民たちが「民乱」を起こし、結局合併を推進した市長を住民リコール運動の末に追い出してしまった。1995年と1998年に2度にわたって世界体操大会を開催し、多くの中小企業を育成した人口6万人の小都市鯖江のインキュベーター機能は、そのようなプロセスを通じてより拡張された。

 それを可能にした根本的な力の根が、討論を重視する北陸式の独自で創意的な21世紀型地方教育にあると藤吉は話す。

 「何を学んだのかも(生徒たちが)直接報告書に書く。思考の過程を反芻してみると、自分の最初の考えと討論後の考えがどのように変わったかも知ることができる。自分の考えがどう変わり、どのような結論に達したのかを、自分の言葉で書けるようにした。これが『子どもたちが主体の授業』だ。『思考過程の可視化』は体育でも行われている」

 慶尚北道義城(ウィソン)出身の両親を持つ在日コリアン3世と結婚した藤吉の目には、日本の未来は東京や大阪ではなく、地方、その中でも僻地だったがためにむしろ一番先を行く北陸3県にかかっていると見える。

ハン・スンドン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/773224.html 韓国語原文入力:2016-12-04 21:38
訳M.C(2588字)

関連記事